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996:6thナイトメア・エンド-3

本日は四話更新になります。

こちらは三話目です。

「すぅ……」

 ブラクロ・エウルトが100人近く重なっているのは分かった。

 どうやって重なっているかは今はどうでもいい。

 問題はブラクロ・エウルトが何を出来るか、どう対処すればいいかだ。

 では、何が出来るかとなると……まずは文字通りの百人力か。

 ブラクロ・エウルトの武器が呪隕石・虹霓鏡宮を含むものであるのはなんとなく分かるが、それに加えて100人分の圧倒的な膂力もあるからこそ、私は今吹き飛ばされている。

 加えて、偽トテロリとブラクロの戦いからして、重なっている100人はある程度であれば別行動も可能であり、それによって複数方向への同時対処が可能になっていると思われる。


「……」

 では欠点は?

 まずは制御の難しさだろう。

 それこそ、ちょっとしたうっかりと言うか油断した程度で、派手に転ぶくらいはあるだろう。

 が、AI制御であるブラクロ・エウルトにそれは期待できない。

 他に欠点として考えられるのは……範囲攻撃に対する耐性の低さ。

 100人が重なっているからこそ、その100人全員に効果を発揮するような攻撃には弱いかもしれない。


「ふんっ!」

 が、そんな攻撃を撃つためにはまだ時間が必要である。

 なので私は吹き飛ばされた勢いのまま、更に後方に向かって飛んで行く。

 対するブラクロ・エウルトは……うん、明らかに宙を踏みしめるような動きを始めている。

 だから私は無数の呪詛の剣を飛ばす事で牽制を開始。

 合わせて、私とブラクロ・エウルトの間に迂回が出来ないほどに巨大な壁を作り出す。


「……」

「げ……」

 そして私は信じがたいものを……いや、理論上可能ではあるが、本当にやってくるのかと言う感想を抱くような光景を見た。

 具体的には、私が射出した毎秒百本は着弾するような呪詛の剣の嵐に対して、ブラクロ・エウルトが剣を振るい、脚を動かし、牙を振るう事で、僅かに時間差を以って着弾していく呪詛の剣を一本残らず叩き落していく光景である。

 その光景の何がおかしいかと言えば、虚空を踏みしめるような超常の振る舞いはせず、飛んでくる呪詛の剣の腹を蹴る、殴りつける、噛みつくと言った行動によって、自分の位置を保ちつつ、攻撃を凌ぎ続けていると言う点だろうか。

 敢えて分かり易く表現するならば……文字通りの全方位からガトリングガンを撃ち込まれている中で、飛んでくる銃弾を全て叩き落しているようなものだろうか。

 自分で言っていて意味が分からなくなってきた。


「……」

「っ!?」

 だがさらに信じがたい事に、そんな状況でブラクロ・エウルトはこちらへと近づき始めてくる。

 呪詛の剣を弾く際の反動を調整する事で、こちらへと近づいてきている。

 呪詛の剣を飛ばすのを止めるか?

 いや駄目だ、それをしたら、その瞬間に虚空を踏んで一気にこちらに飛んでくるのは目に見えている。

 呪詛の剣に幻影を織り交ぜるか?

 もうやっている、やっているが、真贋を正確に見極められているし、直前に消しても対処される。

 呪詛の壁の効果は?

 剣を一回振らせるぐらいの足止めにはなっている。

 『虹霓鏡宮の未知理(アンノウンロウ)』は?

 効果は発揮しているようだが、止められるほどではないようだ。

 いや、うん、本当に訳が分からない。

 分からないが……


「せいっ!」

 間に合った。


「!?」

 動作キーによって『界毒の邪眼・3(タルウィベーノ)』が発動する。

 呪法を一切使用しない素撃ちだが、だからこそ予見できないし、発動と同時に着弾して、ブラクロ・エウルトにすら命中する。


「……」

「ぐっ!?」

 毒は入った。

 スタック値は……15万ちょっと。

 やはり範囲攻撃が弱点ではあるらしい。

 だが、毒が入るまでの間にブラクロ・エウルトはこちらに近づいてきていた。

 短剣が振るわれ、私は全力で逃げつつ、呪詛の剣、ネツミテ、ルナアポ、ドゴストなどによって防御を試みるが、少しずつ削り取られていく。

 このままでは拙い。

 と言うか、毒のダメージが入る10秒が遠すぎる。


「ヤノミトミウノハァ!」

「……!?」

 私はヤノミトミウノハを全力で横に振るう。

 ヤノミトミウノハから高熱の毒液が放たれ、私を守るように膜が張られる。

 その膜は毒の塊であると同時に、ヤノミトミウノハが『ダマーヴァンド』を守護するべく展開している障壁を模したものでもある。

 故に触れればただでは済まず、撃ち破るには圧倒的な呪詛干渉力と計算能力を求められる事になる。

 この膜は流石のブラクロ・エウルトも一瞬で撃ち破る事は出来なかったらしく、何度か短剣を振るった後に、一度距離を取る。


「ふぅ……でも、30秒は保たなさそうね……」

「……」

 そしてブラクロ・エウルトは構えを取る。

 どうやら、ブラクロ・エウルトはヤノミトミウノハの守りすら撃ち破る何かを持っているらしい。

 だから私は、その攻撃が行われるまでに、あるいは行われた後に私へ刃が届く前までに、ブラクロ・エウルトに対処するための何かを導き出さなければいけない。


「ブラクロ・エウルト……文字通りの百人力……黒い狼……狼の特徴……特徴……」

 私は一つだけ策を思いついた。

 そして私はその策を素早く実行した。

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