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991:6thナイトメア・タル・エウルト-6

≪『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトとの戦闘を開始します≫

『これ以上の敗北はモチベーションに関わってくるぞ』

『そうだな。そろそろ勝っておきたい』

『まあ、色々と解禁するしかないんだろうなぁ……』

 さて五戦目である。

 第一段階についてはもはや語る事もないのでスルー。


『『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトの名のもとに!』

 そして第二段階だが……。


『先制させてもらうぞ! 『禁忌・陽束ねの矢(アグネヤストラ)』!』

 どうやら禁忌を開放する事にしたらしい。

 第二段階の開始と同時に何処か見覚えのあるプレイヤーが真っ白に輝く炎の矢をタル・エウルトの目に向けて放つ。

 その矢は妨害もされる事無く真っ直ぐにタル・エウルトへと進んでいき……


『ラエルセルブ』

 すり抜ける。

 偽ドロシヒの『虚像の呪い(ラエルセルブ)』のようだ。

 が、この結果は攻撃者であるプレイヤーにとっては予想通りだったのだろう。

 笑みを浮かべている。

 そして、他のプレイヤーにとっても想定通りであるらしく、タル・エウルトが虚像と化し、偽ドゴスト、偽トテロリ、偽ニネナナの三体以外も一緒に虚像と化して攻撃の手が止まっている間に、素早く動いている。


『くすくすくす。今回はよく考えているみたいだね』

『そうだな。と言う訳で、今回も俺に付き合ってもらうぞ』

 とりあえず偽トテロリとブラクロが戦闘を開始。

 四戦目の時と同じように激しい打ち合いを始める。

 偽ドゴストと偽ニネナナも複数人のプレイヤーによって、抑え込まれていく。


『タ……』

『二発目ぇ! 『禁忌・アビスパイラル』!』

 『虚像の呪い』の虚像化が終わる。

 と同時に、再び禁忌による攻撃……大量の呪詛を含んでいそうな水の螺旋による槍が迫る。


『イフセルブ』

 これをタル・エウルトは『転移の呪い』によって回避。

 足場の外縁の別の場所に姿を現す。

 ああなるほど、これで詰みである。


『『禁忌・猫神への貢ぎ物(トイトゥバステト)』!』

『『『禁忌・一時定義-妖刀盟神探湯(クカタチ)』!』』

八割(はっかつ)

『『禁忌・雷神の鉄槌(ミョルニル)』!』

『『蘇芳色(ブラジリン・)の曼殊(リコリス・)沙華(ラジアータ)』!』

『!?』

 私が所有しているとされる緊急的な攻撃回避手段は『虚像の呪い』と『転移の呪い』の二つ程度。

 この二つは一度使ってしまえば、次に使えるようになるまでそれなりに時間がかかる。

 だから、その二つを使い切ったタイミングで禁忌あるいは禁忌に相当するそれぞれの最大火力がタル・エウルトへと叩き込まれていく。

 全身を拘束され、炎が舞い、氷が降り注ぎ、雷が落ち、光が漏れ、闇が漂い、幾つもの斬撃打撃刺突が乱れ飛び、エフェクトが重なり合う。

 その圧倒的としか称しようのない攻撃の連打によって偽ドロシヒは破壊され、偽ザリチュたちも機能を停止し、タル・エウルトは反撃すらも出来ずに深手を負っていく。


『おー、流石に派手にやってんな。じゃ、俺も一つ派手にやらせてもらうか。孔よ黒を深めて黒すら飲め。『禁忌・陽呑(ヒノミ)』』

『ぶー、それは流石に無理ー』

 と、ここでブラクロも禁忌を使用。

 ただ相手はタル・エウルトではなく、偽トテロリのようだ。

 インパクトの瞬間に転移する事によって二方向から同時に衝撃を浴びせかけると言う偽トテロリの攻撃を何故か難なく凌いでから、ブラクロは手にした穴のように黒い剣で偽トテロリを切り裂き、消滅させる。

 そして、偽トテロリが消え去る頃には……。


『ああ、未知が……境界が……深淵が……』

『『『ふぅ、ふぅ、ふぅ……』』』

『『『やったか!?』』』

『これだけ叩き込んでようやくかよ……』

『頑丈にもほどがある……』

『禁忌なしだと、どれだけかかっていたのか……考えたくもないわね』

 タル・エウルトのHPも尽きたらしい。

 全身から呪詛を漏らしつつ、ゆっくりと仰け反っていく。


『来る……迫る……越境し……侵食してくる……』

『さて、全員覚悟は良いかしら?』

『あー、やっぱりそうですよね。タル様が基ですし』

『まあ、それが出来るか否かと言われたらなぁ……』

『出来るに決まっとるやんけ。タルはんやし』

 その光景に大半のプレイヤーは脱力していく。

 だが、私の事をよく知っている一部のプレイヤー、ザリアたちは油断なく構え続けている。

 うん、それで正しいと思う。

 私だったら、絶対にこれで終わらない。

 と言うよりもだ。


『ss、ぞよmsfp、おtsみ』

『『『!?』』』

 ある意味此処からが本番だろう。


『おtsみ、おtsみ、おtsみ……』

 タル・エウルトの輪郭がブレていく、ノイズが走る。

 BGMが変わっていく、今までのロック調の曲よりもさらにテンポを上げると共に激しくなり、メタルのような曲調になっていく。

 五階層に分かれていた足場が一つにまとめられていく。


『ぞよmsfp、おtsmそ。ぉよfrくいいにmfs。ういrも……』

『『『な、な、な……』』』

『『『知ってた……』』』

『『『デスヨネー……』』』

『ここからが本当の地獄だって奴か……』

『どちらかと言えば、いよいよもって死ぬがよい、では?』

『さて、まずは何をしてくるかだな』

 その足場の上に仰け反りから戻ったタル・エウルトが四つん這いの形で乗る。

 そして一度全身がノイズに包まれた後……その真なる姿を現す。


『ぉryrどzsr!』

『『『!?』』』

「ふうん……」

「流石にこれは抗議ものでは?」

「楼主様イメージなのは分かりますけどねェ」

 タル・エウルトの姿を見たプレイヤーたちは一様に凍り付いた。

 それは予め第三形態が地獄のものになると予想した面々ですらそうだった。

 そう、あまりにも第三形態のタル・エウルトの姿は悍ましかった。


『どmrxr!』

 その姿を簡単に言い表すならば、五本足、六本足、七本足のヒトデをそれぞれの腕の真ん中で結び付けたような姿をしていた。

 だが、ヒトデの腕にあるイボやヒダの代わりにあるのは無数の虹色に輝く目玉であり、しかもその目玉はよく見ると瞳孔の奥に舌や歯が見えている。

 また、腕の真ん中にある口からはシダ植物のような触手が何十本と生えて獲物を探しているようで、飲み込まれればどうなるかは考えるまでもないだろう。


『まずは相手の耐性を……』

『動きを止めろ! サイズがデカすぎる!』

『ひぎやああぁぁっ!? 食われ……!?』

 そして、そんなタル・エウルトが暴れだす。

 合計18本の腕を振り回し、駆け回り、触れたものを吹き飛ばす事によって被害を与えつつ、口から生えた触手によってプレイヤーを捕えると、口へと運ぼうとする。

 そんな狂乱の中で一部のプレイヤーたちはタル・エウルトに攻撃するべく動き出す。


『rypふぉyms! んrrmp!』

『『『!?』』』

 そこで彼らは見た。

 タル・エウルトの全身の目が深緑色に輝くのを。

 戦いの場全域を埋め尽くすように深緑色の球体が展開されたのを。

 自分たちのステータス画面にスタック値が数千、場合によっては万を超すレベルで付与された毒を。


 深緑色の球体が消えた時、立っているプレイヤーは一割にも満たなかった。

07/27誤字訂正

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