990:6thナイトメア・タル・エウルト-5
≪『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトとの戦闘を開始します≫
『『『……』』』
はい、四戦目の開始である。
まあ、第一段階については、既におおよその戦い方が確立されていると言う事もあり、後はどれだけ洗練できるかでしかない。
と言う訳で、力を抜き過ぎたり、効率を求め過ぎた結果として失敗しているプレイヤーが多少見られるが、第一段階についてはあっさり終わった。
『さあ、哀れな人の仔たちよ。未知へと還りなさい』
『全員予定通りに展開!』
『急げ! 直ぐに戦闘が始まるぞ!!』
『『『ぶち殺す……』』』
さて第二段階である。
プレイヤーたちの布陣は……先程までとは大きく異なっており、第一層に火炎属性耐性持ちを集める、第四層に乾燥耐性持ちを集めると言った、容易に可能な対策だけではないようだ。
一部のプレイヤーたちが複数箇所に十数人単位で集まって、何かに備えている様子が見られる。
『『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトの名のもとに!』
第二段階開始。
先程と同じように偽ザリチュたちが動き始める。
が、予め態勢を整えておいただけの事はあり、開幕から崩壊するようなことはなさそうだ。
『ーーーーー!』
『お前らぁ! 抑え込むぞ!』
『『『おうっ!!』』』
そして、複数箇所に集まっていたプレイヤーの一部が、偽ドゴストや偽ニネナナが動きだすと同時に行動開始。
見た限りだと……偽ドゴストにはマントデアたちが挑みかかり、ヘイトを固定。
偽ニネナナについてはレライエ他何人かのプレイヤーが攻撃を浴びせかけて、牽制。
偽ザリチュについては本体へと襲い掛かっているプレイヤーも居るが、それ以上に目を惹かれるのは、偽ザリチュが召喚したゴーレムたちの処理の方。
どうやら『光華団』、『エギアズ』、他にも最前線組や前線組と呼ばれるプレイヤーたちが周辺を警戒する事によって、出現と同時に仕留める方向で動いているようだ。
『ジタツニ、ネツミテ、ヤノミトミウノハは注意を引ければ十分です! それよりも他へ火力を集めてください!』
『生産班はガンガン固定ダメージ系を生み出していけ! それなら初心者でも戦力になる!』
「これは……もしかして?」
「まあ、可能性はありそうね」
「そうですネ。悪くはないと思いまス」
偽ジタツニ、偽ネツミテ、偽ヤノミトミウノハについては能力の内容が攻撃に偏っているためか、完全無視ではないがスルーされ気味。
偽ドロシヒについては誰かが倒さなければ本体に与えたダメージがあっという間に回復してしまうと気づかれていたらしく、スクナ、クカタチ、マナブたちを中心に火力が集中している。
さて、こうなってくるとやはり問題なのは偽トテロリなのだが……。
『くすくすくす、あっそびましょ?』
『『『っ!?』』』
偽トテロリが検証班が集まっている上に、指揮を執っているプレイヤーが多く集まっているエリアに現れる。
そうして早速プレイヤーたちで遊ぼうとするが……。
『させません!』
『おー、捕まった』
「捕えはしたわね」
「そうね」
「アレは……また作ったんですネ」
ここでアイムさんの罠が発動。
アイムさんの身体の外装である宝箱と偽トテロリの右足首の間で鎖が繋がれた上に、他プレイヤーの身体に触れようとした偽トテロリの手が弾かれる姿が見えた。
鎖が消える様子もなければ、千切れる様子もない。
どうやら強制的に一対一にする呪術のようだ。
これならば、後は自分に接触する事を起点とする罠で固めればいいアイムさんが圧倒的に有利と言えるだろう。
『ふっふっふ、さてどうしますか? 私に触れれば当然ながらただでは済みませんよ』
『んー、どうしようかなぁ……それじゃあこうしようか?』
偽トテロリがアイムさんの宝箱を蹴り飛ばす。
直後、偽トテロリの周囲に無数の槍が現れる、火柱が立ち上る、鎖が絡みつく、鉄球が落ちてくると言った様々な罠が発動する。
それらを偽トテロリは瞬間移動によって難なく……いや、必中系の罠を幾つか受けつつだが回避。
対するアイムさんはそこまでの深手は負っていないようだ。
『くすくすくす、変態のお姉さんの癖に堅いね』
『私は変態ではありません。変態と言う名の淑女です。今は合法的に物事は進めていますよ』
『『『……』』』
「「「……」」」
何故だろう、深く指摘してはいけない闇が垣間見えた気がする。
『でも堅いのは外側だけだよね?』
『?』
トテロリが片足を大きく上げる。
『変態を……成敗っ!』
そして、震脚と呼ばれる動きに似た形で、地面を強く踏みつける。
ただそれだけの動きで以って……
『がはあっ!?』
『『『!?』』』
アイムさんの声が宝箱の中から響いて、アイムさんと偽トテロリの間にあった鎖が消えた。
それはそのまま、アイムさんが倒されたことを示すものだった。
「アンノウン、トテロリは何をしたの?」
「んー……震脚の衝撃波だけを転移させたのかしら? たぶんだけど」
「ふふふふフ。流石は楼主様の娘ですネ」
「うんまあ、娘扱いは間違ってはいないわね」
うーん、実に怖ろしい。
自分の攻撃であるならば、衝撃波だけの転移も可能なのか。
そうなると、生まれながらのものも含めて、殆どの装甲は無力化されてしまいそうだ。
心臓や脳へと直接衝撃波を叩き込まれたら、私のような一部例外以外ではどうしようもない。
『くすくすくす、それじゃあお兄さん、お姉さん、あっそびましょ?』
『『『っう……!?』』』
さて、アイムさんの死体が砂の箱に飲まれていく中、偽トテロリが残りのプレイヤーへと近づいていく。
このままいけば前回の戦闘の悪夢が再開されることになりそうだが……。
『おう、それじゃあお兄さんと遊ぼうぜ』
『くすくすくす、ブラクロお兄さんだー』
その前にブラクロが姿を現し、ブラクロと偽トテロリの間に目には見えないが、何かしらの繋がりのようなものが生じる。
どうやら意外……でもないか、とりあえずブラクロも自分への攻撃を強制させる呪術を持っていたらしい。
これで先程のアイムさんと同じように周囲への被害はなくせる。
『でもブラクロお兄さんは強いから、直ぐに終わらせちゃう……ね!』
残る問題はブラクロが偽トテロリの攻撃に対処できるかだろう。
偽トテロリがハイキックの態勢に入り、振りぬく直前にブラクロの背後へ転移、しかもただ背後に転移するのではなく、一瞬後にはブラクロの後頭部にハイキックが決まる位置である。
もはや何かしらの呪術による防御を予め張っていなければ、クリーンヒットが約束されていると言っていい。
『それを許すわけにはいかないんだよなぁ』
『!?』
『『『は?』』』
「うわぁ……」
「偶然?」
「どうですかネ?」
それをブラクロは平然と避けた。
偽トテロリのハイキックをほんの少しだけ動くことで、避けて見せた。
『くすっ、でもそう来なくちゃ!』
『おっと』
偽トテロリはその光景に一瞬だけ驚き、直ぐに次の攻撃を仕掛ける。
仕掛けたのは裏拳。
敢えて転移を使わずに動き続け、防御の姿勢を見せるブラクロに触れたタイミングで転移。
ブラクロが防御をしていない位置に裏拳を当てた。
『これは……!?』
『ふぅ、危ない危ない』
なのにブラクロは完璧に防御をして見せていた。
もはや瞬きほどの時間ですらない。
明らかに何かしらの仕掛けによってブラクロは防御をしている。
『くすくすくす、まっ、いいか。ブラクロお兄さんを抑え込んでおけるなら、仕事はしているよね』
『おっ、嬉しい高評価だな。俺としても同感だ。後は周りに任せるつもりだしな』
偽トテロリが次々に攻撃を繰り出す。
裏拳、震脚、回し蹴り、タックル、掴み、ジャブ、ラリアット、あらゆる格闘攻撃を、転移、それに衝撃波だけの転移も組み合わせて、ブラクロへと仕掛けていく。
その攻撃スピードと頻度は凄まじく、モニター越しではあるが、私の目ではもはや偽トテロリが数人に増えているように見えるし、殴打の音が途切れのない一つの音のように聞こえているレベルである。
だが、そんなレベルの攻撃をブラクロは如何なる方法によってか凌いでいる。
凌ぎ続けている。
口調こそ軽いが、これまでにないぐらいに真剣な眼差しをして、偽トテロリの攻撃を受け、防ぎ、避け、あろうことか剣による反撃まで試み始めている。
ヤバい、うっかりをする気がない、本気のブラクロを私は初めて見ているかもしれない。
『あー、こりゃあ、戦略をミスってるな』
『くすくすくす、残念でしたー。ブラクロお兄さん』
が、そんな二人の戦いは突如として終わりを告げた。
二人が距離を取ったのを機に戦場全体を見渡して見れば、気が付けば戦場には砂で出来たアイムさんやスクナたちが暴れ回るようになっている。
うん、偽ザリチュの『模倣の棺船呪』のようだ。
そして、偽ドゴストが偽ヤノミトミウノハの毒液を飲み干し、タル・エウルトの口が大きく開かれている。
『クニルドセルブ、ヤノミトミウノハ・エウルト、ズ、ウォータ』
『仕方がない。次回頑張るか』
『くすくすくす。次は攻め切ってあげるからね。ブラクロお兄さん』
『いやぁ、それは無理だと思うぞー。はっはっは』
タル・エウルトの口から虹色の吐息が放たれ、第一層から第五層まで覆いつくす。
フィールドに居たプレイヤーたちが次々に倒れていき、流石のブラクロも防ぎようがなかったのか倒れる。
≪戦闘に敗北しました。5分のインターバルを挟んだ後、次回の戦闘を開始します≫
そして戦闘終了を告げるアナウンスが流れた。
で、そんな光景を見て一つ思った。
「私に似たカースの口から放たれた、虹色の見るからに臭そうな息によってプレイヤーたちが倒れていくって、割と外聞が悪いんじゃないかしら?」
「え? 今更そこなの、アンノウン?」
「何を言っているんですカ? 楼主様は」
なお、私の意見を聞いた聖女ハルワと邪火大夫は信じられないものを見るような目を私に向け、これまで静かに見ていた『悪創の偽神呪』は静かに腹を抱えて震え、『霓渇地裂の贋魔竜呪』は周囲の砂を操ってわざわざ劇画調になった上で何かを言いたそうな姿をしていた。
うーん、解せない。