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989:6thナイトメア・タル・エウルト-4

『『『ぎゃあああぁぁぁぁぁっ!?』』』

 さて、タル・エウルトとの戦いは第二段階に入った。

 だが、モデルとなった私が言う事でもないが、相手は初見で完璧に対応出来るような存在ではない。

 なので、現場は既にかなりひどい事になっている。


『いや、こんなものどうしろとおおぉぉ!?』

『複数部位は想像していたけど、これは酷すぎんだろぉ!?』

『ありがとうございま……ぶへぇ!?』

『タルウィスコド』

『お前、それで喜ぶのはどうなんだ……』

 まず、タル・エウルト本体の動きを見てみよう。

 タル・エウルト本体は外縁部に接触するように浮かびつつ、ゆっくりと左右に移動している。

 そして時折だが、邪眼術による攻撃を行う事で照準が合った一人を消し飛ばしつつ、周囲の数名にも致命的な被害を与える。

 あるいは右手の偽ネツミテを振るう事による攻撃や、左手の偽ヤノミトミウノハを打撃武器のように振り回すか盾のように扱うかしている。

 ちなみに鱗粉袋の効果はきちんと持っているらしく、近くに居るとHPと満腹度が回復する代わりに、毒と灼熱を受けるようだ。

 それと、サイズがサイズなので、左右への移動に巻き込まれると酷い事になる。

 その移動に巻き込まれる事に対して、何故かお礼を言っているプレイヤー(変態)も居るようだが。


「ふうん、メモをしておきましょうか」

「そうですネ。要注意人物としてメモをしておきましょウ」

「ん? 優秀なプレイヤーでも居たの?」

「ええ、ある意味優秀な呪人が居たわ」

「ふふふ、そうですネ。ブレないと言う意味では優秀でス」

 次に偽ザリチュたちだが……ぶっちゃけ、タル・エウルト本体よりもはるかに多くの被害を出している。

 何処からともなく現れるゴーレムたち、砂の地面から突如立ち上って貫く岩の槍、天から降り注ぐ炎の剣に槍に隕石、食いしばりの類を許さないドレインと接触したら即死する光球、突如として襲い掛かってくる虹色の炎と強烈な物理攻撃、効果不明だが見るからに有害そうな怪光線、毒液の散弾と攻撃を受け止める盾。

 そのいずれもが対応を誤ったプレイヤーを容易く死に戻りさせるだけの力を秘めており、プレイヤーの数は確実に削られていく。

 だが、数ではなく厄介さと言う意味で一番被害を出しているのは、やはり偽トテロリだろう。


『くすくすくす、お兄さん、お姉さん、あっそびましょ?』

『き、来たぞー!』

『幼女だからと言って油断すべぎゃぁっ!?』

 偽トテロリは瞬間移動能力を有していて、第一層から第四層の好きな場所に現れる事が出来る。

 そして、その見た目からは想像がつかないような怪力で以って、プレイヤーと遊んでいる。

 いや、間違えた。

 プレイヤー“で”遊んでいる。


『ストラーイク!』

『『『!?』』』

『人間ボーリングだと……』

『幼女マジ怖い……』

『だ、誰か止めろおおぉぉ!?』

 例えば、プレイヤーの頭を掴み取り、他のプレイヤーの集団に向けてアンダースローで投擲、まとめて吹き飛ばすと言う人間ボーリング。

 例えば、プレイヤーの腕をつかんで投げ、他のプレイヤーの身体に突き刺すと言う人間ダーツ。

 例えば、プレイヤーの頭を蹴り飛ばして、他のプレイヤーをなぎ倒していく人間サッカー。

 他にも場外に向かってシンプルに投げ飛ばしたり、瓦割のように粉砕したり、折り紙のように折り曲げたり、ビンタで真後ろを強制的に向かせたり……まあ、やりたい放題である。


『僕が止めっ……!?』

『今助け……!?』

『くすくすくす、練っちゃうぞー!』

 あ、マナブが股間を思いっきり蹴り上げられた後、助けようとしたクカタチに突っ込まれて、何処かの駄菓子みたいにかき混ぜられてる。

 死んではいないが、二人とも当分は動けなさそうだ。

 そして後続のプレイヤーが集まってくる前に、偽トテロリは瞬間移動によってその場から姿を眩ませている。


「瞬間移動が凶悪すぎるわね。あれに対応できるプレイヤーは何人も居ないんじゃない?」

「物理的な拘束では抑えられない以上、呪術的な拘束によって動きを制限する必要があるわね。でも、効果時間とかも考えると……一対一を強制するようなタイプでないと厳しいかしら」

「設計上は攻略可能になっているそうですヨ。設計通りに行くかは分かりませんガ」

 うん、偽トテロリの何が厄介かと言えば、とにかく瞬間移動が厄介すぎる。

 移動スピードの向上にも役立っているのだが、それ以上に攻撃モーションの最後に合わせて飛ぶことで、事実上のガード不能攻撃になっているのが厄介だし、最初にストラスさんを狙ったことからも分かるように、指揮官クラスを優先して狙ってもいる。

 マントデアやロックオなどのタンク陣が近くに来たタイミングでヘイトを稼いで惹きつけようとしているが、偽トテロリはヘイトを気にしていないので効果は無し。

 見事に暴れ続けられている。

 そして偽トテロリの開けた穴を広げるように偽ネツミテや偽ドゴストも動いているようだし……。

 これはもう打つ手なしだろうか?


『うーん、そろそろ潮時かな? くすくすくす、みんなー、リスタートの時間だよー! ンヲンクヌセルブ!』

『『『!?』』』

『『『タアアアアァァァァァル!?』』』

「あ、完全に終わったわ」

「完全に終わったわね」

「完全に終わりましたネ」

 と、そんなことを思っていたら、いつの間にか偽トテロリがタル・エウルトの肩に移動していた。

 で、『理解の呪い(ンヲンクヌセルブ)』を発動。

 タル・エウルトの全身が虹色の光に包まれて……気を失う者、恐怖に全身を震わせる者、自分に必要な情報が失われて前後不覚に陥るもの、発狂して近くに居る誰かへ襲い掛かるもの、頭部が炸裂して即死するもの……一言で述べるならば大惨事と言う他ない状況へと一瞬でなってしまった。


『くすくすくす、偽物とは言え、お母様の事が理解できてよかったね! それじゃあまたねー!』

≪戦闘に敗北しました。5分のインターバルを挟んだ後、次回の戦闘を開始します≫

 ところでここで一つ言っておくことがある。

 私は見ての通り観覧席で他のプレイヤーたちの戦いを観覧している立場なのだが、私の身に着けている装備品たちは現在その意思は私の傍から離れている。

 どこに行っているのかは……まあ、誰もが思っている通りだ。

 つまり、偽トテロリたちは体こそ偽物であり、幾重ものセーフティもかかっているが、操作している中身は私と普段一緒にいるトテロリたちと言う事である。


「うーん、頑張っているのは確かだし、このイベントが終わったら、何かしらのご褒美をあげた方がいいのかしら?」

「そうね。それは考えておいてもいいんじゃないかしら」

「ふふふ、そう言う事でしたら、魅了の眼宮の方に詳しいのが居ますので、お待ちしていますネ」

 さて、第二段階突破までに何戦かかるのか。

 そして、どれだけの未知が見れるのか、実に楽しみである。

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