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988:6thナイトメア・タル・エウルト-3

≪『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトとの戦闘を開始します≫

『全員、予定通りに!』

『『『ヒャッハー!!』』』

 さて三戦目である。

 開幕は先程と同じように中心の円錐への攻撃。

 が、先ほどよりも規模は調節されており、倒すのに必要な火力よりも少し多い程度となっている。

 そして、その分だけ他へと火力が向けられている。


「今回で第一段階は終わるわね」

「随分と判断が早いわね。アンノウン」

「何処かでこけたら分かりませんヨ。楼主様」

「いや、ブラクロはともかく、他はこけないでしょ。三戦目と言う事でお互いの実力もおおよそ分かってきて、統制がかなり取れてきている。指示を聞く気がない連中も聞かないなりに使えている。これで負ける方が難しいわ」

 そうして開幕の火力が増す事によって、その後の動きにも余裕が出てくる。

 12の戦線は適切なメンバーを集める事に成功して安定。

 下層の生産組は先程の戦闘での経験を生かして、効率よくアイテムを作り出す事に成功。

 そうして安定したところで、ザリアを指揮官とした円錐狙いの部隊が虹亥の方へと向かっていく。

 虹色の太陽からの光線による被害は変わらず出ているが、その程度で止まる事は無いだろう。


『虹亥の撃破に成功! このまま鼠毒の方に向かうわよ!』

『『『おおおぉぉぉっ!』』』

『妓狼は抑えておくだけで構いません! 他の戦線も崩れない事を第一に!!』

 はい、と言うわけで、石化と突進が面倒くさい虹亥が円錐含めて殲滅された。

 そしてザリアたちは先程の失敗を繰り返さないように、鼠毒の方へと向かっていく。

 今回のザリアたちが取っている戦術は頭である円錐狙いの攻撃であり、竜呪たちへの対応は正面から戦っているプレイヤーたちにほぼ任せている。

 アレを止めるとなったら、一種類の竜呪ではなく混成部隊でないと厳しいだろう。

 が、第一段階の仕様上、それはあり得ないので、ザリアたちが止められる事は無い。


『これで……トドメぇ!!』

『せいっ!』

 その後、恐羊や兎黙と言った増援が出るまでが早い円錐からの増援はあったが、一つの円錐も自爆させることなく処理する事に成功。

 ちなみに最後は暗梟と渇猿の円錐の同時撃破だった。


「さて、第一段階はこれで終わりね」

「そうね」

「ふふフ。さて、これからですネ」

 プレイヤーたちのいる足場が虹色の太陽に近づいていく。

 今や虹色の太陽は手を伸ばせば届きそうなほどに近くなっており、虹色の光のベールに隠されていたその姿が認識できるようになってきている。


『ああっ、竜を模した呪いたちのなんて使えない事。哀れな人の仔たちを還す事も叶わないなんて。かくなる上は私が直々に還さなければいけませんね』

『タルの声でタルが絶対に言わない事を言っているから、凄い違和感だよな……』

『一応確認。はい、イベント中だから攻撃は通らんぞ』

 『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルト。

 その姿を簡単に言い表すならば、身長が100倍ぐらいに巨大化した私だろうか。

 ただ、13の瞳は胸元のもの以外は消失しており、虫の翅は瞳の翅と呼ぶのが正しいような、無数の目玉だけで構築された翅になっている。


『うおっ、足場が動いてるぞ!?』

『敵が一体で、足場の中に入り込んでくるわけではないから、と言う感じか』

『あれ? そう言えば、足場の外に出たらどうなるんだ? あああぁぁぁっ……』

『兄ぇ……』

『ブラクロ殿がまたうっかり死んでおるぞー』

 プレイヤーたちの乗る足場も変化していく。

 三層構造から五層構造に変化していき、どの足場も穴のない平坦な地形になっていく。

 まあ、最下層は相変わらず生産用エリアだが。

 とりあえずこの先どこがどれなのか呼ぶ時は、上から順に第一層と呼んでおこう。

 後、これは第一段階からの仕様だが、階層移動のテレポーターは上下に一つずつ移動ではなく、好きな階層に自由に飛べる仕様のようだ。

 ブラクロ? うん、足場の外に無対策で出たら死ぬと言う事を示してくれた、尊い犠牲だったね。


『さあ、哀れな人の仔たちよ。未知へと還りなさい』

 タル・エウルトが足場の上四つの層に横付けするように浮かぶ。

 同時にBGMが変化、ギターとドラムを主体としたものになり、少しずつテンポが上がっていく。

 これは……ロック系統になりそうか。


『『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトの名のもとに!』

『総員、戦闘開始!!』

 そして、BGMの転調、タル・エウルトの名乗り、誰かの叫びと同時に戦闘が開始され……。


『『『やって……』』』

『タルウィベーノ』

 一言で述べるならば酷い事になった。

 うん、本当に酷い事になった。

 では、一つずつ何が起きたのかを語ろう。


「うーん、直径30メートルくらいかしら」

「無対策で直撃したら、まあ、即死よね」

「楼主様の毒を模したものですからネェ」

『鑑定結果を通達します! 本体は『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルト!』

 まず、タル・エウルトの放ったタルウィベーノが直撃した、第二層の十数人がまとめて毒で即死した。

 が、これについては比較的どうでもよい。


「まあ、本体よりも問題は……」

『頭部の帽子! 『偽・祖憑きの外喋帽呪』ザリチュ・エウルト!』

『腰のバックル! 『偽・地憑きの外羽衣呪』ジタツニ・エウルト!』

『右手錫杖! 『偽・陽憑きの外煌錫呪』ネツミテ・エウルト!』

『首の錘! 『偽・星憑きの外玉輪呪』ドロシヒ・エウルト!』

『蘇芳色の竜! 『偽・竜憑きの外砲袋呪』ドゴスト・エウルト!』

『浮遊している巨大眼球! 『偽・虹憑きの外天根呪』ニネナナ・エウルト!』

『左手の杯! 『偽・毒憑きの外天杯呪』ヤノミトミウノハ・エウルト!』

『『『!?』』』

「私の装備を模したカースたちの方よね」

 問題は私の装備を模したカースたちも、それぞれの意思と姿を得て動いていると言う点であり、彼らは既にそれぞれ行動を開始している。


 偽ザリチュは第一段階の竜呪たちを、ランダムな位置と種類で次々に召喚していく。

 偽ジタツニは第四層を一瞬にして一面の砂場に変えた。

 偽ネツミテは第一層の真上に燃え盛る太陽を生み出し、灼熱の世界に変えた。

 偽ドロシヒは全てのプレイヤーからHPを吸い上げて、光り輝く球体を作り始めた。

 偽ドゴストは蘇芳色の竜に変身し、腰から離れ、第三層のプレイヤーへと襲い掛かる。

 偽ニネナナもそれに追従し、奇怪な光線を浴びせかけていく。

 偽ヤノミトミウノハは何処かの階層に毒液の奔流でも流し込もうとしているのか、大量の液体をチャージし始めている。


『なんて大惨事だ……』

『これがタルを模したカースの実力。規格外なんてレベルじゃねぇぞ!?』

『ん? おい、ちょっと待て……』

 さて、勘のいいプレイヤーなら、そろそろ気づいた頃だろう。

 そう、私の装備品のカースたちを模しているのであれば、これでは数が足りていない。

 ルナアポについては元が規格外だから別にしても、確実に一体は足りていないのだ。


『全員、まずは生き残る事を優先してください! 全滅してしまえば、また最初からやり直しです!』

『くすくすくす……』

 そして足りていない一体、『魔憑きの外忌輪呪』トテロリを基にしたカース、『偽・魔憑きの外忌輪呪』トテロリ・エウルトこと偽トテロリが姿を現す。


『ん? 誰だ?』

『えーと、この辺りに敵はいないから、前線に出てくれると……』

『プレイヤーにしても随分と……』

『私が対応します』

『くすくすくす……』

 その姿は簡単に言い表すならばゴスロリ服を着た、幼い頃の私だろう。

 そんな姿の偽トテロリに流石のプレイヤーたちも少しだけ毒気を抜かれてしまったらしく、誰なのかを確かめようとストラスさんが近づいていく。


『ねぇ、貴方は……』

『ストラスさん』

 そんなストラスさんの頭を偽トテロリは気が付けば両手で掴んでいた。

 そして……


『死んでくれる?』

『えっ?』

『『『!?』』』

 偽トテロリはストラスさんの頭を地面に向かってダンクシュートし、ストラスさんの上半身は木っ端微塵に消し飛んだ。

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