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986:6thナイトメア・タル・エウルト-1

≪お手元の戦闘開始ボタンをこの場に居る全員が押すか、300秒経過する事でEx(エクストラ)2戦目『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトとの戦闘を開始します≫

『知ってた』

『デスヨネー』

『まあ、タル本人がそのまま出てくるわけでなければ、何とかはなるだろう』

 舞台は宇宙空間のような漆黒の空間に浮かぶ虹色の足場。

 そこには少なく見積もっても1万人……いや、恐らくだが3万から4万人程度のプレイヤーが集められており、周囲の確認をしている。

 そんな彼らの遥か頭上では虹色の太陽が輝いているのだが……今は置いておこう。


『此処から上下の層へ移動できるようだぞ』

『上層は……普通に第二の戦場と言う感じだな。いや、相手の上から攻撃する事も出来るか?』

『おい、下層が完全に生産職向けになってるぞ! 採取ポイントだけじゃなくて呪怨台まである!』

『補給が出来る前提……もう嫌な予感しかしないな』

 さて、プレイヤーたちの乗る虹色の足場は三層に分かれている。

 上層は網目……と言っても幅が十メートルくらいある足場が蜘蛛の巣状に張られている。

 中層は綺麗な平面で、見た限りではキロメートル単位の広さがありそうだ。

 下層は補給地点となっており、虹色の水晶あるいは虹色の草が回収できるポイント、呪怨台、回復の水の涌く泉、軽食が用意されているキッチンが、それぞれ複数設置されている。

 で、この三層は複数存在しているテレポーターエリアで念じる事によって、瞬時に上下移動が出来るようだ。


「さて、何が飛び出してくるか楽しみね」

「そうね。まあ、何が出てきても酷い事になるでしょうけど」

「楼主様だから仕方がなイ。と言う奴ですネ」

 なお、私は現地に居ない。

 今も観覧席で観覧中である。

 相手の性質上、私が参加してしまうと面白くないので、数戦終わって一通りの未知が見れたと私が判断してなおプレイヤーたちが勝てなかったら、参戦する予定である。

 あ、折角だから普段使っていないBGM機能はオンにしておこう。

 それと、ザリアを筆頭として、私との付き合いがある面々が、私が居ない事に気づいてか、虚空を恨めしそうに見つめている。


「ふむ、クラシック系列ね」

『ああっ、哀れな人の仔たちよ。此処に辿り着いてしまったのですね。であれば、還りなさい。零へと、未知へと。虹霓の境を超える事など誰にも叶わないのだから。それがせめてもの慈悲です』

『あ、本当にタルモチーフなだけなんだな』

『タルなら絶対に言わないセリフだよな。これ』

 何処からともなくピアノを中心とした綺麗な曲が流れ始める。

 と、同時に何処からともなく私の声を基にした、けれど私ではない声が聞こえ始める。

 で、うん、プレイヤーたちも言っていた通り、私が言うセリフではないな、これ。

 なるほど、『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトとは……何処かで諦めて、(樽笊羽衣)を失った(タル)なのだろう。


≪『虹霓境窮の偽天呪』タル・エウルトとの戦闘を開始します≫

「始まったわね」

『『『!?』』』

 BGMのテンポが少しだけ上がる。

 それと同時に、中層の13か所……正確には中央と外縁12か所から巨大な砂の円錐が立ち上り、外縁1か所を除く12の円錐から、割と見慣れた造形のモンスターたちが出現してくる。


『おいおいおい……』

『いや、初心者も居る状況でこれはちょっと……』

『タルっぽいのが居ないってことは前哨戦かこれ。既にレイド規模だけど』

 では改めて状況説明。

 中層の13か所から砂の円錐……高さ100メートル以上、直径10メートル以上のものが出現した。

 この円錐、よく観察すると毒を噴き出すと共に、私が今聞いているBGMによく似た音楽を流してもいる。

 そして、表面には時計のようなマークが二つあると共に、特定の動植物のモチーフが刻まれている。

 具体的には十二支と彼岸花だ。

 で、そんな円錐から現れるのは、鼠のモチーフが刻まれた円錐からならば、鼠毒の竜呪によく似た造形の砂製ゴーレム、つまりは『虹霓鏡宮の呪界』の竜呪たちである。

 出てきている数は出現する竜呪の種類にもよるが、フィールド全体で合算すれば100や200では済まず、少なく見積もっても1000以上は確実に居る。


『『『ーーーーー!!』』』

『『『総員応戦!!』』』

 そして、竜呪たちとプレイヤーたちの戦いが幕開けた。

 わけだが……ここで少し思い出してほしい。

 中央の円錐は彼岸花モチーフ、対応する竜呪は恒葉星の竜呪、恒葉星の竜呪の能力は何だったろうか?


『うごけっ!?』

『中心に引き寄せ……!?』

『タアアアアァァァァァァル!?』

「うーん、これはひどい」

「早速酷い事になったわね」

「初見殺しその一ですネ」

 はい、恒葉星の竜呪の能力は自分から離れる行為を逃走と判断し、自身へと引き寄せる事によって逃走を阻止すると言う物である。

 これを知らなかったプレイヤーたちは見事に出鼻をくじかれ、鼠毒に噛まれ、牛陽に踏まれ、虎絶にタックルされ、兎黙に首を刈られ、蛇界に貫かれ、恐羊に撃たれ、渇猿に引っ掛かれ、暗梟に啄まれ、妓狼に蹴られ、虹亥に轢かれ、恒葉星のビームに撃たれ、状況は一気に混沌となり、激しい乱戦となる。

 乱戦となった事で恒葉星の竜呪の能力範囲外にはなったようだが、これは酷い。

 なにせ個々のスペックでは竜呪たちの方が上であるのだから、プレイヤーたちが対抗するためには、場に惑わされず集団で戦わないといけないわけだし。

 なお、卵雲と淀馬は……姿を眩ませているようだ。


「この分だと、第一段階の突破だけでも三戦くらいは必要かしらね?」

「そうなるでしょうね。まあ、二戦目からは中央が即時で落とされるんじゃないかしら」

「ふふふ、問題は中央を落とした後ですけどネ」

『この集団戦でブレスは止めろおおぉぉ!!』

『完全に準備段階から戦争が始まってるやつじゃねえかぁ!!』

『竜呪と言えどもイベント仕様! 並みの攻撃でも通るから、近くに居るプレイヤーと協力して各個撃破をしなさい!!』

 おっと竜呪たちがブレスを放ち始めた。

 それによって場はさらに乱され、初心者を中心に実力が低めなプレイヤーたちが次々に落とされていく。

 ザリアを始めとした実力者たちが場をまとめ始めているが……完全に初見殺しが決まった今回はもう立て直しは無理だろう。

 なにせだ。


『倒し……』

『増援だぁ!!』

『『『!?』』』

 砂の円錐にある二つの時計、その内の片方が一周したタイミングで、最初に出現したのと同じ数の竜呪が出現したのだから。

 まあ、出現したのは鼠毒と恐羊なので、まだ何とかなるかもだが……いや、普通に飲まれたな、うん。

 クカタチ、スクナ、ブラクロ、マントデアと言った面々が頑張ってはいるが、数の暴力で追い詰められていっている。

 そうして一人、また一人と落とされていき……。


≪戦闘に敗北しました。5分のインターバルを挟んだ後、次回の戦闘を開始します≫

 中層と上層に居たプレイヤーが一掃された時点でそんなアナウンスが流れて、状況はリセットされた。

念のためにですが、


タル・エウルトは本イベント期間中に討伐が可能な存在としてデザインされています。

そして、タルはこの事を了承しています。

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