984:6thナイトメアゲストシート-1
「お帰りなさい。アンノウン」
「早かったですネ。楼主様」
「ふむ、タイムは中々だったな。途中の遊びが無ければ、もう数十分は短縮出来ただろうが」
『くくくっ、むしろ問題は同じ呪術を連続して使っているチーププレイの事ではないか?』
「やっぱりここが観覧席なのね」
観覧席に戻ってきた私を出迎えたのは、聖女ハルワたちだった。
全員寛ぎながら、それぞれ自分の前に画面を出して、戦いを鑑賞しているようだ。
さて、それではとりあえず反論を一つ。
「『霓渇地裂の贋魔竜呪』、確かに『
『くくくっ、よく分かっているではないか。そう言う訳だから、もう少し手札を増やす事だ。でなければ見ている側としては退屈だ』
「私はエンターテイナーじゃないわ」
『くくくっ、だが、エンターテイメントはどの分野においても学んでおいて損はないぞ。アレはどのように見せたいものを見せるかであり、貴様が求める範囲で言うならば……相手が隠している未知を引きずり出すのには、相応の演出が必要な場合があるからな』
「ぐっ……」
流石は真なる神、口がよく回る。
しかも内容的に全面的な否定が出来るようなものではないと言うか、割と受け入れるしかないのがまた……。
「ふんっ、『悪創の偽神呪』。少しいいかしら」
「何だ? そこのを追い出せと言う意見なら効かんぞ。居た方が私にとっては面白いからな」
「そうじゃないわ。例の件についてよ」
「ああ、そちらか。なんだ?」
まあ、覚えてはおこう。
今はそれよりも別に確認しておくことがある。
「例の件、私は最初は観戦に専念しておいていいのよね」
「問題ない。何度観戦枠に居るかは状況次第だが……まあ、詰みだと判断されたらだな」
「分かったわ。で、開始は?」
「私の予想では少なくとも二時間は後だな。今現在の貴様以外の進行度合いの一部を渡そう」
私は『悪創の偽神呪』から幾つかのデータを受け取る。
それはザリアたち、検証班、『エギアズ』、『光華団』、クカタチたち、マントデアたち、ザリア分隊、私は知らないが実力のあるプレイヤーたちと言った感じに、所謂最前線組が現状どんな相手に挑んでいるかというデータであり、このデータからそれぞれの戦いを観戦できるようだ。
「ふうん……」
で、ざっと見渡した感じ……最前線組は大半がエニアロゴに入っていて、ザリアたちだけがリツロバンに入ったようだ。
シベイフミクやヒトテシャで苦戦しているプレイヤーも結構多い。
セジノギ到達者はまだいない。
うーん、セイメサイドとムミネウシンムにかかるであろう時間を考えると、むしろ二時間で済むのだろうか、という気持ちになる。
いや、まさかとは思うが、リアル時間で二時間か?
そっちも割とありそうだ。
「あ、そう言えばズワムは……」
と、此処で折角だから私は気になっていた事項の一つであるズワム戦について調べてみる。
そうしてデータを開き始めたところでだ。
『酷い事になってるみたいでチュよ』
「未対策だったPTは酷い事になっているわね」
「楼主様がどういう存在か忘れている方が多かったようでス」
「中々見物だったぞ」
『くくくっ、愉快な光景だった』
ザリチュたちが揃って感想を口にした。
「あ、あー……」
そして見えたのは、ズワム戦開始と同時に空中に放り出され、絶叫と共に落ちて行くプレイヤーたちの姿だった。
「うんまあ、これについては私は悪くないわ。当時の状況が再現されると言われていたのに、空中戦対策をしていない方が悪い」
『そうでチュね。たるうぃが空を飛べるのは当たり前の事でチュからね』
「まあ、実際アンノウンは悪くないわ。それと、上空放り出しは最初の一回だけだから安心しなさい」
「そのままの再現と言ってありますからネ」
うん、ある意味では予想通りの光景だった。
この分だと、セイメサイドやムミネウシンムも最初の数回は酷い事になりそうだ。
「さてザリアたちはっと」
では疑問が解消できたところで、リツロバンと戦っているザリアたちを見てみよう。
うん、いつも通りの安定した戦いぶりを見せている。
ただ、流石に敵が強くなってきたのか、多少厳しそうな場面もあるか。
ツッコミどころとしては……。
「ブラクロの奴。明らかに手を抜いているわね」
「そうね。私が知る通りなら、ブラクロはもっと動けるはずよ」
「こちらが把握している限界の動きはわざとしていませんネ」
まあ、ブラクロのやる気が明らかに無い点か。
リツロバンの攻撃を時々サブ盾として捌き、バッファーとして味方の支援を行い、サブアタッカーとしてダメージを出す。
どれも無難に、確実に、安定して、こなしている。
うん、別に悪くはない。
先はまだ長いのだし、集中力をここで使いたくないと言うのも分かる。
けれどブラクロが本気を出せば、何かしらのうっかりを発揮したとしても、もっと効率が良くなるのではないかと言う動きをしている。
ザリアたちは……まあ、気づいてはいるか。
だったら外野がこれ以上に口をはさむような事でもないか。
「んー……どうせ私に対するカメラは回りっぱなしでしょうし、本当に実況でもしていましょうか」
「そうね。それでいいんじゃないかしら」
とりあえず私はヤノミトミウノハの液体を飲みつつ、面白い戦いをしているプレイヤーが居ないか探し始めた。