981:6thナイトメアバトル-5
≪お手元の戦闘開始ボタンをこの場に居る全員が押すか、60秒経過する事で7戦目『陪審の鮫呪』リツロバン・シャウコウとの戦闘を開始します≫
『また姿が見えない相手でチュねぇ』
「それは仕方がないと思うわよ。環境も敵の能力も、そう言う方向性だもの」
周囲の風景が熱水の溜まっている鍾乳洞とでも言うべきものに変わっていく。
そう言う呪界なので当然の事なのだが、相変わらず気温も湿度も高い空間である。
『相手の情報は分かっているでチュ?』
「一応は分かっているわ」
さて、今回の相手『陪審の鮫呪』リツロバン・シャウコウについては、ズワム、エニアロゴに比べると情報が少なめである。
と言うのも、相手が鮫型であることもあって、基本的な戦闘場所が水中。
しかも場所によっては沸騰していたり、有害な金属が溶け込んでいたり、pHが極端であったりする水中である。
そのため、挑めるプレイヤーがまず少ないらしい。
「さて、流石に水中戦は挑みたくないのよねぇ……」
『たるうぃに呼吸が必要なんでチュか?』
「必要はないかもだけど、わざわざ相手の土俵に立って、慣れない環境で戦う必要性は感じないとも言うわね」
『あ、はいでチュ』
私にしても水中は苦手……と言うか、『CNP』内ではまともに水中に入った経験がほぼ無いはず。
どんな不具合を起こすかも分からないし、潜らないで済ませる方法があるなら、そちらの方法を取るべきだろう。
≪『陪審の鮫呪』リツロバン・シャウコウとの戦闘を開始します≫
「じゃあ、そう言う訳だから、全部蒸発させましょうか。『
『まあ、そうなるでチュよねー……』
と言う訳で、『竜活の呪い』発動。
上がった干渉力で以って他の呪術も発動して、周囲の水分を蒸発させていくと共に蒸発した水分をドゴストに飲み込ませることでこの場から失わせていく。
湧き水には呪詛の剣による栓をし、それに加えて呪詛支配によって呪詛を水に変換するのを阻害。
水の供給を止める事で、周囲を枯れさせていく。
「ーーーーー!!」
やがて、凄まじい勢いで水場が失われていくことに危機感を覚えたのだろう。
巨大な鮫型のカース……リツロバンが近くの水場からジャンプするようにこちらへと飛び掛かってくる。
「出たわね。リツロバン」
さて、リツロバンの攻撃には聞くところによれば、所謂カルマ値のような何かを参照して、ダメージを増加させるような仕掛けがあるらしい。
そのため、PKプレイヤーの類が挑むと、酷い目に合うとも聞いている。
「
「!?」
『一瞬で乾燥させたフカヒレみたいになってしまったでチュねぇ……』
が、攻撃を受けなければどうと言う事は無い。
私はそんな判断のもとにリツロバンに伏呪付きの『飢渇の邪眼・3』を撃ち込んで乾燥させ、ネツミテの先端に生成したルナアポで串刺しにし、ネツミテの打撃部による追撃も行う。
すると乾燥の状態異常によるダメージ増加効果もあってか、極度に乾燥させたフカヒレのようになったリツロバンは痙攣したような様子を見せる。
「うーん、攻撃面や機動面に振った分だけ、耐久が少ない。と言うのはありそうね」
『確かにありそうでチュねぇ』
≪『陪審の鮫呪』リツロバン・シャウコウに勝利しました。次の戦闘に移行します≫
私は『熱波の呪い』によってリツロバンを焼き払う。
それによってリツロバンのHPが尽きたのだろう。
あっけなく戦闘終了が告げられた。
「さて次は要塞蟹だったわね」
『地味に縁がある相手でチュねぇ』
「もうだいぶ前のように思えるけどね」
さて次の相手は『要塞の蟹呪』セイメサイド・カトウシムである。
逃亡蟹とも言われ、少しでも危なくなると逃げ出す、だったか。
深海の方に逃げられてしまうと、『竜活の呪い』発動中であっても流石に厳しいものがあるだろう。
なので、いかに逃がすことなく陸上で処理しきるかが大切になってくるはずだ。
≪サプライズ! 事前通達になかった強敵が確認されました! 次のバトルはそちらとの戦いになります!!≫
「あら」
『ここででチュか』
と思っていたところにこれである。
なるほど想定外の相手か……何処なのか、誰なのか……まあ、出たところ勝負と行こう。
≪お手元の戦闘開始ボタンをこの場に居る全員が押すか、60秒経過する事で
「あ、マントデアね。これ」
『判断が早すぎないでチュかねぇ。たるうぃ』
周囲の風景が変わっていく。
樹脂製の床、壁、天井に、電気を用いた照明がある広い空間。
だが、平坦な場所ではなく、身を隠せる程度の凹凸がそこら中に存在しており、それらの凹凸は時間経過で構成を変えているようだった。
「でも他に呪限無持ちの知り合いはいないし、呪いの感じが何となくマントデアなのよね」
『ソーデチュカー』
そして、そんな空間にただ一匹佇んでいるのは、体高が10メートル近くある黒い体表の蟷螂。
まだ戦闘は開始されていないが、パッシブで周囲に何かをしているのか、既に何かしらの干渉がされている感じはある。
「んー……最初の三分くらいは敢えてこのままで戦ってみましょうか」
『分かったでチュ』
情報がまるでない相手。
それならば、力技でただ単に叩き潰してしまうより、少し戦ってからの方が面白いだろう。
私はそう判断すると、ルナアポを生やしたネツミテを構えた。