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98:タルウィスコド-1

「じゃあ、まずは『ダマーヴァンド』に移動して……あ、呪詛を消費するのね。そりゃあ、距離を考えたら、無償とはいかないわよね」

 スクナと別れてセーフティーエリアに入った私は、燻ぶる藁人形の解体をするために『ダマーヴァンド』に戻ろうとした。

 で、転移機能を使おうと思ったのだが、『ダマーヴァンド』に貯蓄されている呪詛を僅かにだが消費するという表示があった。

 どうやら、『ダマーヴァンド』内にある二つのセーフティーエリアを行き来するだけならともかく、これだけ距離が離れていると、出すものを出す必要があるらしい。


「ま、これくらいなら、誤差の範疇。気にする必要は無いわね」

『初転移でチュー』

 なお、これは後にザリアに教えてもらった話だが、転移にかかる費用は異形度に大きく依存するらしく、普通の異形度のプレイヤーだとサクリベスから四方のマップのセーフティーエリアに飛ぶだけでも武器が一本買えるくらいのDCが必要になるとの事だった。


「む……」

『どうしたでチュ?』

「なんと言うか……裏側を通ったとでも言えばいいのかしら、妙な感覚があったわね」

『チュー?』

 長距離転移と言う未知の行動の結果は……目で見える範囲では何も起きなかった。

 セーフティーエリアは今まで通りだし、私やザリチュにも変化はない。

 移動そのものも一瞬で難なく終わった。

 ただ、なんと言うべきか……違和感のような物があったのだ。


「……」

 まあ、転移と言う普通ではない移動方法で、直線距離にして数十キロメートルを一瞬で移動しているのだから、気圧や重力と言った何らかの要素によって違和感を感じるのはおかしい事ではないのかもしれない。

 此処が現実であったり、運営がトップハント社でなかったりするならば。

 忘れがちだが、此処は『CNP』と言うゲームの中だ。

 そして、ゲームの中ならば、転移などそれこそ座標を示す諸々を書き換えて終わらせてしまえる話のはずだし、ゲームの出来から違和感など生じさせずにそれくらいは出来ると思う。

 なのに違和感を感じさせるならば……そこに何かがある可能性はあると思う。


「次の転移の時にちょっと調べてみましょうかね」

『変な事はしない方がいいと思うでチュよ?』

「変な事をしなければ得られない未知があるのならば、私は変なことぐらいは好きなだけするわ!」

『たるうぃ……』

 うん、凄く怪しい気がする。

 あの違和感を感じている間に、セーフティーエリアの扉を開けたりしたら、何か起きるのではなかろうか?

 後で試してみる価値はありそうだ。


「ま、今は燻ぶる藁人形の解体よ」

『そーでチュねー』

 なお、怪しいと同時に、とても危険な予感もするので、やるのはするべき事をきっちり済ませてからである。

 と言う訳で『ダマーヴァンド』のセーフティーエリアからマイルームに移動。

 マイルームに設置されたアイテムを使って、燻ぶる藁人形の解体を始める事にする。


『たるうぃが食べられそうなのは核とネバネバだった液体くらいでチュかねぇ』

「見た目からして食べられるのはそうね」

 燻ぶる藁人形の中には、燻ぶるネバネバの核によく似た豆が三つ収まっていた。

 名称は燻ぶる藁人形の核、説明文はほぼ同じ、サイズは……こちらの方が、ネバネバのよりも多少小さめだろうか。

 燻ぶる藁人形の体内にあったネバネバは、体が冷えた事によってかサラサラの液体に変化しており、解体セットに付随していた大きな平皿とビンが無ければ、零してしまうところだった。


「ふうん、二種類、いえ、三種類の藁が使われているのね」

『不思議な構造でチュねぇ』

 燻ぶる藁人形の体である藁そのものについては、解体の結果、三つに分類して回収する事が出来た。

 分けた基準は鑑定結果からだ。



△△△△△

燻ぶる藁人形の締め藁

レベル:3

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:5


燻ぶる藁人形の体を構成する藁の一つ。

藁を締め上げて、構造を保持する役目を持つ。

熱にも強いが、斬るという行為には弱い。

▽▽▽▽▽


△△△△△

燻ぶる藁人形の肌藁

レベル:3

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:5


燻ぶる藁人形の体を構築する藁の一つ。

藁人形の表面を覆い、内部の核を保護したり、ネバネバが出て行ったりしないようにする性質を持っている。

周囲の気温と呪詛濃度によって強度が変化する性質を持つ。

▽▽▽▽▽


△△△△△

燻ぶる藁人形の肉藁

レベル:3

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:5


燻ぶる藁人形の体を構築する藁の一つ。

藁人形の内部を埋めていて、核の意志に応じて、触れているものの間で熱を自由に行き来させる事が出来る。

肉なので一応食べられるが、好んで食べようと思う人間は居ない。

▽▽▽▽▽



「へぇ、肉藁は食べられる。そして、熱を操れる」

『……』

 特に興味深いのが肉藁だ。

 他の藁に比べると繊維が細めで、確かによく噛めば、味や栄養価はともかく食べられそうではある。

 だが食べれること以上に興味深いのは熱を操れると言う事。

 恐らく燻ぶる藁人形はこの性質を利用、ネバネバの温度を下げる事で流動性を高めて射出できるようにし、相手に触れたタイミングでネバネバの温度を上げて捕縛と燃焼を狙うのだろう。

 で、そう言う事が出来る呪いがかかっているのなら……取り込んで私の呪術にする事も可能ではないのだろうか。


「ふふっ、ちょっと試してみましょうか」

『ああ、また始まるでチュねー……』

 私はちょっと他に必要な物を考えて準備をすると、作業を始めた。

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