978:6thナイトメアバトル-2
「ええそうよね! そうするわよね! それであの時はしてやられたのだから!」
私はデンプレロとの戦闘開始と同時に、相手の懐に潜り込み、ルナアポ付きのネツミテを一閃した。
その結果、デンプレロはその身体を蜃気楼に変える事で攻撃を回避したが、周囲に居たもぎりの蠍呪は積もった木の葉が舞い上がるかのように吹き飛んでいく。
「……」
「「「ーーーーー!!」」」
蜃気楼状態のままデンプレロは素早く私から距離を取るように退いていく。
代わりにもぎりの蠍呪たちが私の方へと突っ込んでくる。
これは吹き飛んだと言っても、その数は10万を超えるようなもぎりの蠍呪の中では極々一部でしかなく、攻撃の範囲外に居たもぎりの蠍呪が腐るほど存在しているからだ。
そして味方を押し潰してでも私を殺そうとする純粋な数の暴力は、私が相手であっても悪手ではない。
「雑魚はひれ伏していなさい」
「「「!?」」」
だが妙手でも良策でもない。
今の私は『
私は地面を軽く蹴って、一体でも多くのもぎりの蠍呪の目に触れるようにした。
結果、そこら中からもぎりの蠍呪の悲鳴が上がり、あるものは爆散し、あるものは仲間に襲い掛かり、あるものはその場で倒れ、阿鼻叫喚の様相を呈する。
「ーーーーー!」
と、ここでデンプレロが蜃気楼から元に戻り、棘だらけの尾の先端から紫色のビームを放ってくる。
それは真っ直ぐに私に飛んできて……。
「ふんっ!」
「!?」
弾かれる。
私は左手を竜の鱗で覆い、濃密な呪詛を纏い、その状態でビームに当たるように振り上げる事で、ビームを弾いたのだ。
圧倒的なまでの干渉力、『
「せいっ!」
「!?」
そして返しの一撃として、デンプレロの全身を押し潰せるほどに拡大した、巨大な呪詛の手を振り下ろす。
デンプレロはそれを防ごうと両手の鋏を上げ、接触と同時に防ぎきれない事を理解したのだろう。
左の鋏を犠牲とする事で一瞬の時間を稼ぎ、その時間を利用して攻撃の範囲外から逃げて見せた。
「ふふふふふっ、素晴らしいわぁ。デンプレロ。そうでなくては倒し甲斐がない! 『
「!?」
ルナアポを素早く呑み込んだドゴストが巨大化する。
周囲が暗闇に包まれ、ドゴストの口内だけが光を放つ。
そしてドゴストの口から光が放たれ……凄まじい閃光と衝撃波に合わせて砂が舞い上がり、周囲の気温が急上昇していき、大地が赤熱して光を放つ代わりに太陽の光の一切を遮る。
「……」
「そう。まだ生きているの。こうなると表示上はフェーズ2だったけれど、実際にはフェーズ3だった。と言う事もありそうね」
そんな環境の中で私以外に動くものが一つだけある。
左の鋏が消え失せ、右の脚の大半がもげ、全身に生えている棘の大半が折れると共に、尾が千切れかけ、甲殻にヒビも入っている。
だが、それでもなおデンプレロは生きており、戦意は失っていないようだった。
体勢を整えると、何かしらの攻撃の準備を始める。
「ふふっ、ふふふふふっ、あははははっ! 宣言しましょう! デンプレロ! 貴方を虹色の星とともに現れる深き深き闇の底に沈めて未知へと還してあげるわ!」
これでも私は外天呪に相応しい力を振るってはいるはず。
なのにまだ倒せないとなると、本当に一応は当時でも止められる可能性のあったフェーズ2ではなく、負けが確定しているとしか思えないフェーズ3相当と考えていいだろう。
だがそれは良い事だ。
今の私ならばそれを超えられると運営が判断したのだから、超えて見せよう。
超えて、未知なる領域に踏み込もう。
「ーーーーー!!」
デンプレロが突っ込んでくる。
全身の筋肉と噴出孔、その両方からあらゆるものを放って加速しつつ、右の鋏を振り下ろしながらこちらへと向かってくる。
死力を尽くしたその動きは音速を優に超えており、鋏の一撃に至っては今の私相手でも十分に通用するような攻撃だろう。
「『
「チュラッハァ!」
「!?」
が、生憎私は一人ではない。
周囲に舞う砂が集まって化身ゴーレムとなり、ザリチュが操るそれが剣を横に一閃して、デンプレロの渾身の一撃を弾く。
「
そして、そのタイミングで私はネツミテを振り下ろし、乗せられるだけの呪法を乗せ、伏呪込みの『暗闇の邪眼・3』を発動。
「ーーーーー!?」
デンプレロの全身が鉄紺色の蔓に覆われ、天を衝くような黒い炎が立ち上り、周囲が呪詛と炎で満たされていく。
「デンプレロ、貴方は強かった。あの敗北があったからこそ私は此処まで至った。だからその事には感謝を示しましょう。そしてだからこそ……塵一つ残さず燃え尽きなさい」
「ーーー……」
黒の炎に包まれた世界の中、デンプレロは一度だけ最後の足掻きか、あるいは生理現象による反射か、少しだけ残された鋏を上げ……力尽き、燃え尽きた。
≪『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツに勝利しました。次の戦闘に移行します≫
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