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977:6thナイトメアバトル-1

≪お手元の戦闘開始ボタンをこの場に居る全員が押すか、60秒経過する事で1戦目『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンとの戦闘を開始します≫

 イベントが始まった。

 私が居るのは、中央に一見すれば海月に似た姿をしているカース、『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンが収められている太い筒がある空間。

 こちら側は複数層に分かれており、呪詛濃度は低い。

 で、当然ながら周囲に私以外のプレイヤーの姿はない。


『当然のようにたるうぃ一人でチュねぇ』

「まあ、糞雑魚海月相手だから仕方がないんじゃないかしら。それよりも、この60秒の間に準備をしていくわよ」

『準備……必要なんでチュ?』

「全力ぶっぱしてイベントが壊れないかを確かめると言う意味で、初手で全力を出してもいいと思うのよ。私は」

『ああ、なるほどでチュ』

 さて、本来ならばこの60秒の間に味方にバフをかけたり、打ち合わせをしたり、特殊なポジションを望むプレイヤーは急いで移動したりするのだろう。

 が、私は一人なので、そこまで発動するバフは……いや、全力を出すなら結構あるか。


「『竜活の(エサエルセド)呪い(セルブ)』!」

 と言う訳で、ルナアポ使用の『竜活の呪い』を筆頭に色々と発動。

 なお、戦闘開始まではお互いに手出しは出来ないと言う事なのか、『竜活の呪い』発動後にカロエ・シマイルナムンの事を試しに殴りつけてみたが、効果はなかった。


≪『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンとの戦闘を開始します≫

 では、戦闘を開始しよう。


『ヒッ!?』

「ん?」

『あ、これは……試し撃ちの相手にもならないでチュね』

 と、思ったが、何故か即座にカロエ・シマイルナムンが全身を震わせ、狭い筒の中で少しでも私から離れようと壁に張り付き、完全に戦闘の意思を失っていた。

 この分だと邪眼術どころか、ただのパンチ……いや、ビンタ一発でも消し飛んでしまいそうである。


『くぁwせdrftgyふじこlp!?』

「……。折角だからこのまま一分間見つめ続けて、竜瞳でも撃ち込もうかしら」

『一思いにやってあげる慈悲は無いんでチュか?』

「無いわねぇ」

 と言う訳で一分待機。

 怯え続けるカロエ・シマイルナムンをただ見つめ続け、竜瞳を発動。

 何かしらの邪眼術が発動し、カロエ・シマイルナムンは爆散した。


≪『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンに勝利しました。次の戦闘に移行します≫

「うーん、盛り上がらない」

『たるうぃのテンションは上がらなくても、掲示板のテンションは大盛り上がりだと言っておくでチュよ』

 周囲の風景が崩れ落ちていき、次の舞台へと移り変わっていく。

 合わせて、私の姿も『竜活の呪い』を使う前のものに戻っていく。

 一応CTの方も確認してみたが、『竜活の呪い』は再使用可能になっていた。

 なるほど、ちゃんと事前通達の通りであるらしい。


≪挑戦者が条件を満たしていると判断されました。次の相手を選択してください≫

「ん?」

 さて次は『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツであるのだが……足元の環境が砂場になったタイミングで、私の手元に半透明のウィンドウが表示されている。

 どうやら何かを選ばなければいけないらしい。

 選択肢の内容は……フェーズ1とフェーズ2、そのどちらと戦うかと言うものだった。

 なお、フェーズ2のデンプレロに挑めるのは一度きりであり、その一度で勝てなければフェーズ1と戦う事になるそうだった。


「くくっ、ふふふふふ、あははははっ!!」

『チュアッ!?』

「素晴らしい! 素晴らしいわ運営! これだけでも今回のイベントは大成功だと言い切れるわ! ええっ、ええっ! 私は確かにデンプレロに対する復讐は成し遂げた! でもねぇ! そうねぇ! あの時の悔しさを忘れたわけではないの! あの時にもっと自分に力があればとは思っていたの! いいわ! 選んであげる! あの時に得る事が出来なかった勝利を! 地上に這い出て来た超大型カースを討ち果たすと言う未知を! 得ようじゃないの! 『虹霓境究の外天呪』の名にかけて!!」

 思い出すのは無数の取り巻きを引き連れてサクリベスへと向かっていくデンプレロの姿。

 私の攻撃はすかされ、デンプレロの一撃で砦もサクリベスも蹂躙された光景。

 それは『悪創の偽神呪』の力でなかったことにはされたけれども、私の心に深い傷を負わせた情景。

 それを、今ここで、私の持てる力を全て用いるのであれば、覆す事が出来ると運営は判断したに違いない。

 ならば乗るしかない!

 こんな夢のような機会が再び訪れる事など、真なる神に永劫仕えたとしても来るとは限らないのだから!


『うわっ、ちょっ、たるうぃ!? 角! 角が増えてるでチュよ!? それに牙! 炎! 爪! 尻尾! 『竜活の(エサエルセド)呪い(セルブ)』を使っていないのに、使ったみたいになってるでチュよ!?』

「はははははっ! それだけ興奮しているって事よ! ザリチュ!!」

 私は鱗に覆われ、黄金色の爪が伸びた手を丸めると、フェーズ2に挑む方のボタンへと叩きつける。

 すると止まっていた周囲の風景の構築が再開され、どこまでも続く砂漠と地平線の向こうからこちらへと近づいてくるデンプレロと10万を超えるもぎりの蠍呪たちが再現されていく。


≪お手元の戦闘開始ボタンをこの場に居る全員が押すか、60秒経過する事で2戦目『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツとの戦闘を開始します≫

「『竜活の(エサエルセド)呪い(セルブ)』!! さあデンプレロ……」

 アナウンス終了と同時に私は各種呪術を発動。

 ネツミテを錫杖形態にし、ルナアポをその先端に生成。

 その上で更にルナアポへと大量の呪詛を集めていき、長さ数百メートルに及ぶ長大な剣を生成する。


≪『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツとの戦闘を開始します≫

「蹂躙し返してあげるわ」

「「「!?」」」

 そして、戦闘開始と同時に相手の懐に潜り込み、まずは一閃した。

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