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976:6thナイトメアプリペア-1

「……」

 本日は2019年10月20日、日曜日。

 『CNP』公式第六回イベント『再演される呪われた悪夢の宴』の開催日である。

 と言う訳で、私はいつものようにログインした。


「まさかノータイムでVIPルームとは思わなかったわね。こんな特別待遇にしていいのかしら?」

 そして交流用マップに移動したと思ったら、複数のモニターが置かれた全面木張りの部屋に私は居た。

 周囲に人影はない。

 どうやら、何かしらの理由で以って、私だけが特別な場所に招かれてしまったらしい。

 とりあえず私は木製の椅子に腰かけると、手にしているヤノミトミウノハが生成する液体を百数十度にまで加熱した上で、口へと運び、口を潤す。

 うん、ちゃんと美味い。

 さて、説明は……


「特別待遇ではあるけれど、今のアンノウンの力を考えたら妥当な対応だと思うわよ」

「あらハルワ」

 してくれるらしい。

 聖女ハルワが現れ、人肌より少し温かいぐらいであろう紅茶を飲みながら、こちらに訝しげな視線を向けている。

 なお、聖女ハルワの周囲だけ木張りではなく、大理石のような材質に変わっている。


「考えてもみなさい。今のアンノウンが人前に現れたら、それだけで大惨事になるわ」

「まあ、否定は出来ないわね」

『対策をしているから大丈夫と、鑑定を試みるプレイヤーは居そうでチュよねぇ』

「鑑定の件を除いても、楼主様がお持ちの情報は多いですからネ。楼主様が現れたら、有象無象に煩わされると思いますヨ」

「そちらもまた否定できないわね」

 邪火太夫が煙管を吹かしながら現れ、邪火太夫の周囲だけ畳張りの和室のような装いになる。

 で、三人の言葉は……納得しかない。

 確かに大惨事になると思う。

 サプライズとして私が現れると言う噂が、ほぼ全てのプレイヤーの目に触れていそうな状況なのだし。

 そうでなくとも私は外天呪で、周囲の呪詛濃度は相当だし……うん、やはり妥当だろう。


「くくく、そう言う訳だ。私としてもつまらない連中に対応するのは面倒だからな。楽な方法で対処させてもらった。まあ、気になる事があるなら、そこのモニターを使え。だいたいは見えるはずだ」

 『悪創の偽神呪』まで現れた。

 なお、手にしているのは何故かトロピカルな雰囲気のジュースである。


『くくくっ、これは中々の貴賓席だな。招かれた甲斐があったと言う物だ』

『ふははははっ、私がきべあっ!?』

 続けて黒い肌のザリア……ではなく『霓渇地裂の贋魔竜呪』にして真なる神であるザリチュが。

 合わせて私そっくりの女性こと『虹熱陽割の贋魔竜呪』にして真なる神であるタルウィが現れた。

 なので、私はパサパサのビスケットと匂いからして度数がヤバそうな酒を飲んでいる『霓渇地裂の贋魔竜呪』に一度目配せをしてから、『虹熱陽割の贋魔竜呪』の顔面に竜化した手での右ストレートを撃ち込んでおいた。


『貴様ぁ! いきなり何をするか!?』

「この前、だらしない姿を見せていたから、機会があれば一度殴っておこうかな、と」

『ふざ……』

『ニコリ』

『あっ……』

 と、まだ現れるのか。

 邪眼術の試練で何度か見かけていた白衣にメイド服の女性が『虹熱陽割の贋魔竜呪』の肩に手を置きながら現れた。

 そして、『虹熱陽割の贋魔竜呪』を連れて消え去った。

 何故私ではなくあちらを連れ去ったのかは分からないが……まあいいか。


「アンノウンが二人……見なかったことにしておくわ」

「それが賢明ですネ」

「そうだな。そうしておいた方がいい。ある意味貴様の傲慢が招いた結果であるしな」

『まあ、迂闊に知るのも本当なら危険な相手のはずでチュからねぇ』

 聖女ハルワたちも流す事にしたようだ。

 では私も流すとしよう。


『くくくっ、さて、今回の私は完全に客だ。海月共の宴をここから楽しませてもらうとしよう。私以外にも何柱か見に来ているようだが……まあ、気にする事は無い。貴様は貴様の思うがままに戦えばいい』

「そうだな。現在は世界の何処を見渡しても喫緊の状況ではない。今回の宴に限っては、自らを強化する事など考えずに、ただ目の前の課題をこなせばいいだろうさ」

「ふふふふフ。楼主様がどんな活躍を為されるのか、楽しみにさせていただきますネ」

「えっ、何この流れ。私もアンノウンに対して何か言うべきなのかしら?」

「いや別に何も言わなくていいんじゃないかしら? イベント開始までもう少し時間もあるし」

 話を流したついでに私を見送るような流れにもなっているが、イベント開始までにはまだ少し時間がある。

 ここから通常の交流用マップに移動する事は出来ないようだし、この面子を前にして掲示板に目を向けるのも少々恐ろしい所がある。

 そうなると……ヤノミトミウノハの液体を飲んでいる事ぐらいしか……いや、まだあるか。


「ああそう言えば、例の件。上手くいっているのよね?」

「くくくっ、安心しろ。少なくとも私のところには問題があると言う報告は来ていない。そして、その時に貴様が間に合っているのであれば、貴様にとって都合のいいよう流れになるのは確定済みだ」

「そう、だったらパパッっと前座はこなしてしまわないといけないわね」

 私は『悪創の偽神呪』に一つだけ質問し、満足するような回答を得た。

 そうして時間がやってきて、私は今回のイベントの舞台に移動する事になった。

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