971:アジ・ダハーカ-7
「……」
視界のブラックアウト、聴覚や嗅覚からの情報遮断、体の操作不可……うん、表示されている通り、睡眠の状態異常だろう。
確定命中であろう攻撃だったのもあって、私ではどう足掻いても防げない攻撃だ。
スタック値は……安定の四桁、けれど各種呪いによるスタック値低下の加速、それとHPの減少に伴うスタック値の低下もあるので、そう遠くない内に目覚めはするだろう。
そして、私の身体は私の意識がない場合、ザリチュが自由に操る事が出来る。
『
「目覚め……」
「惑え! 惑え! 惑え! 全てを脅威とみなして力尽きるまで惑い狂え!!」
「潰れろ! 潰れろ! 潰れろ! 煌々たる輝きを以って光を失え!!」
「降れ! 降れ! 降れ! 深々と、我らが敵が居た事すらも分からぬほどに降り注げ!!」
睡眠の状態異常終了。
と同時に、混乱と閃光による視覚障害を受けて、天地も何も分からなくなった上に視覚が潰された。
そして、氷柱の雨と言う広範囲攻撃が近づきつつある、と。
「ザリチュ説明」
『相手は状態異常攻撃も利用してきているでチュ。たるうぃの耐性が完璧でないのがバレたみたいでチュね』
「なるほどね。何かしらの鑑定呪術でも使われたかしら」
とりあえず『
それとネツミテとルナアポは変わらず振り回して、少しでもダメージを与えられるようにしていく。
「渇け! 渇け! 渇け! 砂漠のように枯れ果てよ!!」
「飢えろ! 飢えろ! 飢えろ! 餓鬼の如く飢え苦しめ!!」
「疲れろ! 疲れろ! 疲れろ! 精魂尽き果てて指一つ動けなくなってしまえ!!」
「む……」
更に呪術が飛んできた。
乾燥を伴う満腹度減少は効いていないが、他の満腹度だけ減らす攻撃と疲労状態を与えてくる攻撃はしっかりと入っている。
「やむを得ないわね。『
「やむを得ないでチュ」
悔しいが、一人でどうにか出来るのは此処までのようだ。
と言う訳で切り札を一つ投入。
『模倣の棺船呪』を生み出し、そこへ素早く合流した化身ゴーレムがドゴストから取り出したとあるものを『模倣の棺船呪』へと入れる。
「「「死ねぇ!!」」」
で、この間にアジ・ダハーカはシンプルイズベストと言わんばかりに、それぞれの手に氷結属性と浄化属性の力を集めた上で、私の身体を挟もうとしている。
直撃すれば確実に死ぬだろう。
「何をやっているのよアンノウン」
「あ、乗っ取られたでチュ。たるうぃ」
「まあうん、出来るわよね」
「「「!?」」」
が、攻撃が当たるよりも早く『模倣の棺船呪』は変形し、変形完了と同時に私は自分の体の正しい状態を認識、修正、化身ゴーレムと『模倣の棺船呪』双方を連れて、攻撃を回避する。
そして、『模倣の棺船呪』……見た目が聖女ハルワそっくりで、しかも中身が本人になっているらしいゴーレムに顔を向ける。
「助かったわ。聖女ハルワ。それで早速なのだけど……」
「ええそうね。色々とやらせてもらうわ。『交信の大呪』らしくね」
「「「ギゴガ……ナナナ、ナニガ……pぉyr!?」」」
聖女ハルワがアジ・ダハーカに手を向け、透明な液体のような何かを放つ。
後、折角なので聖女ハルワには私の『
するとそれだけで、アジ・ダハーカは体を痙攣させて、全体の構造が怪しくなっていく。
地上と繋がっているコードも、見捨てられるのは御免だと言わんばかりにアジ・ダハーカ本体へと巻き上げられていく。
「流石ね。これだったら最初から呼んでおけばよかったかしら」
「お生憎様。アンノウンが傷つけた部分や観測した部分、それと妙な呪いを利用しているから、最初から呼ばれていたらこうはならないわ。それに長時間維持する事も厳しいわね」
「なるほどね」
「「「ーーー……」」」
だが、完全崩壊させるには至らないようだ。
アジ・ダハーカの三つの頭は言葉にならない声を上げつつ、こちらを睨みつけている。
「「「ーーー!!」」」
「ととっ、これは……私が抱えて飛び続けるしかないわね」
「そうね。私にアンノウンほどの機動力はないから、それでどうにかするしかないわね」
アジ・ダハーカが襲い掛かってくる。
三つの頭、両前足、三つの呪術、氷結属性と浄化属性を主体とした攻撃が次々に襲い掛かってくる。
それを私は聖女ハルワを抱えたまま飛び回って攻撃を避け、邪眼術による反撃を行っていく。
この状況下で拙い攻撃となるのは、先ほども撃たれた睡眠攻撃のような状態異常攻撃の訳だが……。
「「「ーーーーー!」」」
「通さないわよ」
「っう……流石聖女様ね」
私の正常な状態を把握している聖女ハルワがこちらに居る状況下では、睡眠の持続効果は0.1秒にも満たない。
なるほど、これならば後は聖女ハルワの力にアジ・ダハーカが対応できるようになるまでに削り切れるかどうかだろう。
「ーーーーー!」
「まずっ!?」
「たるうぃ!?」
「アンノウン!?」
そう思った直後だった。
アジ・ダハーカの奥深く、恐らくは中心部分、そこにある何かがブレた。
その次の瞬間には聖女ハルワ目掛けて何かが通常の次元とは異なる次元を通って飛んできていた。
聖女ハルワも気づいていないその攻撃に対処できるのはこの場では私だけであり、私は止むを得ず聖女ハルワを庇うように動いた。
「ごぼっ!?」
それは私に当たる直前で軌道を捻じ曲げ、正確に私の胸にある目……逆鱗を打ち抜き、私のHPを0にする。
そして、何かが私に侵食してこようとしてきた。