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970:アジ・ダハーカ-6

「派手に燃え上がっているでチュねぇ……」

「表に出てこない連中に届くようにしたし、理解のスタック値も少しずつ貯まっているのだから、これぐらいは当然よ」

 アジ・ダハーカがこれまでにないほどに激しく暴れている。

 『虹霓(カース)外への(ステアトゥ)(アウト)』も利用した一撃は、結構な痛手になったようだ。

 だがこの分だと……これまでと違って自傷を躊躇わなくなりそうだ。


「あ、チャージできたでチュ」

「分かったわ。『模倣の(カースゴレム・)棺船呪(ザリチュコフィ)』」

 ザリチュのカースゴーレムたちも上に残してきた分は既に全滅しているようだし、うん、やはりそうなりそうだ。

 とりあえず今新たに作った『模倣の棺船呪』については蛇界の竜呪の紫角と赤角を両方とも投入して、オリジナルとほぼ同じ大きさの蛇界の竜呪にしておき、追加で別のものも持たせつつ、行動を開始させておく。

 相手が相手なので、戦力を増強出来るタイミングを見逃す理由はないのだ。


「許さぬ! 許さぬ! 許さぬ!」

「『竜活の(エサエルセド)呪い(セルブ)』を使うにはまだ早いんでチュよね」

「早いわね。ブロック構造が有能過ぎて、とてもじゃないけど25分じゃ削り切れないわ」

 さて私本体と化身ゴーレムは……ダメージ覚悟で走り回るしかないか。

 下手に距離を取ってしまうと、また近づくのが面倒くさい。


「万死! 万死! 万死!」

「地上と繋がっているコードはどうするでチュ? 切れれば多少はダメージになると思うでチュが」

「そっちも放置ね。ダメージを重ねれば、勝手に切るでしょうし……もっといい方法があるかもしれないわ」

 今更な話だが、アジ・ダハーカの身体は動物、植物、鉱物を組み合わせて作られており、結構な凹凸がある。

 で、状況に合わせて性質を変え、ダメージを受ければ、直接受けた部位だけに被害が収まるように動く。

 生物にして非生物であり、周囲の空間からエネルギーを吸収しているし、呪憲も当然のように用いている。

 こんな代物を脳髄として精神と魂だけの状態になっている馬鹿でも扱えるように作り上げたのだから、本当に設計者は天才ではある。

 糞でもあるが。


「選ばぬ! もはや選ばぬ! 如何なる手段をもってしてでも敵を始末する!!」

「とりあえず三時間くらいは地道に殴り続けるつもりで動くわよ」

「……。分かったでチュ」

 まあ、それでも無限ではなく、優れた設計者を排除してしまっているのだから、攻撃し続ければ何時かは倒れる。

 なので私はネツミテの先端にルナアポを生成すると、その切っ先をアジ・ダハーカの体表に刺し込む。

 そして、13の打撃部もアジ・ダハーカの身体に接触しうるように垂らす。


「スタアアァァトオオォォ!!」

「「「!?」」」

 移動開始。

 黒い炎によってある程度の安全が確保されていたエリアから飛び出し、無視できない程度にはある低温とヒリつく光で満たされているエリアに入る。

 ルナアポによって皮膚を切り裂き、ネツミテの打撃部が何度も撥ねては叩きつけられるようにしつつ、音速に匹敵する速さでだ。


「ギイヤアアアアァァァァァァッ!?」

「貴様あああぁぁぁ!」

「凍り付くがいい!!」

「あら、随分と余裕がないようね。これなら3時間なんてかからないかしら」

 アジ・ダハーカの頭の一つは叫び声を上げ、一つは怒りの声を上げ、一つは氷の雨を降らす。

 前二つは聞く価値無し、後ろ一つは……詠唱不足か?

 氷柱の奔流ではあるが、その規模は明らかに先程までよりは控え目で、狙いも甘い。

 おまけに今の私はアジ・ダハーカの後ろ脚付近に居た。


「よっと」

「寒い! 寒い! 寒い!? 何を考えているのだ貴様は!?」

「止めろ! そこまでだ! 我らを巻き込むな!」

「黙れ! 黙れ! 黙れ! 損害を度外視しなければ、我々の大願は果たせぬのだ!!」

 と言う訳で攻撃を続行しつつ腹下へと移動。

 アジ・ダハーカの攻撃は自分に直撃し、私は攻撃の回避に成功した。

 それにしても……うん、まだマトモな奴の叫びが哀れに思える。

 まあ、それはそれとして、竜瞳による攻撃も、竜血による攻撃も並行して行い、アジ・ダハーカの身体を少しずつ削り取っていく。

 しかし、鱗粉袋による回復だけでは追いつかない程度にダメージを受けてもいるので、アウタータブレットも使用、HPを回復。


「奴は何処だ! 腹下だ! 逃がしはせぬぞ!!」

「止めろ! 我々の身体を何だと思っている! 止めろ! 計画が遅れるではないか!」

「死ね死ね死ね! 犠牲を払うのは我々ではなくきさ……アガアアァァァッ!?」

「おおっ……」

 と、ここでアジ・ダハーカの首の一つが私の進行方向の腹を突き破って現れる。

 しかも大口を開け、ブレスの準備を整え、本命の攻撃をする直前の状態である。

 推定されるブレスの属性は氷結と浄化の混合。

 範囲は腹下全域で、とてもではないが避けれる位置ではない。

 不意打ちとしては素晴らしいと言えるだろう。


「それだけに悲しいわね。『転移の呪い(イフセルブ)』」

「「「!?」」」

 はい、なので『転移の呪い』を発動。

 蛇界型『模倣の棺船呪』の体内に仕込んでおいた眼球ゴーレムの視界内に移動してブレスを回避する。


「はい、再スタート。ついでにezeerf(エゼールフ)灼熱の邪眼・3(タルウィスコド)』」

 そして即座に再始動。

 表面にダメージを与えつつ移動し、更には『灼熱の邪眼・3』による攻撃も行っておく。

 なお、蛇界型『模倣の棺船呪』は自己の縮小によってほぼ見えない大きさになっている上に、アジ・ダハーカの身体のちょうどいい部分に収まっているので、当面の間壊される事は無いだろう。


「おの……」

「どけぇ! 我がやる! 五月蠅い小蠅への対処はまずは動きを止めてからだ!!」

「痛い!? 痛い!? 痛い!?」

「さてこのまま……」

 さて、このままいければ楽なのだが……。


「眠れ! 眠れ! 眠れ! 深淵に落ちるが如き! 深々と降り積もる雪の底が如き! 天上に導かれんが如き! 深き深き眠りに落ちよ!!」

「!?」

 どうやらそうはいかないらしい。

 不意に私の意識が黒一色の領域に落とされた。

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