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968:アジ・ダハーカ-4

「ちっ、ザリチュ!」

『分かってるでチュよ!』

 アジ・ダハーカの攻撃を見た私は即座に動き出す。

 本命の氷の奔流は直撃すれば即死確定。

 氷柱の雨は削りあるいはトドメを目的としたものだろうが、無対策で受ければただではすまないのは間違いない。

 だが一番拙いのは光り輝く無数の輪。

 恐らくは私の邪眼術と同じで、発動と同時に命中が保証されている攻撃なのだろう、放たれた次の瞬間には、私を何重にも取り巻いている。

 対処法自体は幾らでもあるが……先々まで考えると切るべき手札はこれだ。


「『模倣の棺船呪』!」

『命令完了でチュ!』

 私はドゴストから『模倣の棺船呪』を取り出し、素早くその内部へと虹亥の竜呪の肉を投入。

 そして、変形していく『模倣の棺船呪』にザリチュが即座に二つの命令を下す。


「っう!?」

『うわっ、えげつないでチュよ。この状態異常』

 と同時にアジ・ダハーカの放った光の輪が一気に狭まり、封印と言う名称の状態異常によって、一切の身動きを取れないようにするだけでなく、邪眼術の使用も出来ないようにしてくる。

 いや、それどころか『虹霓狂宮の未知理(アンノウンロウ)』以外の呪いもその効果の大半を封じられているか?

 一気に視界が狭まったし、6しかスタック値がないのに、普段受けている他の状態異常と違って減るスピードが異様に遅い。

 おっと、邪眼術のCTまでキャンセルされている。


「「「死ね! 死ね! 死ね! 我らが大願を阻まんとするものは全て敵であり死すべきである!」」」

『ブッ……』

 氷の奔流と氷柱の雨が迫りくる。

 おまけにアジ・ダハーカは追加の呪詛と言わんばかりに、その全身から単純な呪詛の波を放つ。

 一方で『模倣の棺船呪』の変形が完了。

 奥地サイズの虹亥の竜呪よりも一回り小さい、砂で出来た虹亥の竜呪が現れると、私の『虹霓狂宮の未知理』を利用して虚空に足を置く。


『モオオオォォォ!』

『チュアアアアァァァァッ!? 命令したのはざりちゅでチュけども、結構な揺れがああぁぁ!?』

「「「!?」」」

 『模倣の棺船呪』がザリチュの命令を実行する。

 一つ目の命令で私の身体を丸呑みにして、口の中に収める。

 そして二つ目の命令で以って全力疾走を開始し、アジ・ダハーカに向かって真っすぐに突っ込んでいく。

 『模倣の棺船呪』の速さは本来ならば私の全力移動には及ばないが、先に届いた氷柱の雨によって受けた何かしらの状態異常を利用する事によって、相当の加速をしており、アジ・ダハーカの本命攻撃を避けるのに成功したのを何となくだが感じる。


「よし、解除され……っ!?」

『チュアアアアアァァァァッ!?』

『ブモオォォォ!!』

「被害! 被害! 被害! 大質量体の衝突を確認!」

「「確認! 確認! 確認! 至急再生と大質量体の排除を行う!」」

 封印の状態異常が解除され、私は自由を取り戻す。

 と同時に『模倣の棺船呪』が何かに衝突。

 その衝撃で『模倣の棺船呪』は破損し、シートベルトのようなものなどあるはずもないので私は外に放り出される。

 見えたのはアジ・ダハーカの頭の一つに衝突して、首が明らかに駄目な角度で折れ曲がっている『模倣の棺船呪』と、衝突部位を中心にクレーターのように表面の極一部がくぼんでいるアジ・ダハーカ。

 他の二つの頭の注目も、『模倣の棺船呪』に向けられている。


「好機! 『竜息の呪い(クニルドセルブ)』! ついでにcitpyts(シトピィトス)出血の邪眼(タルウィブリド)・3(マスタード)』!!」

「全機突撃するでチュよおおぉぉ!」

 私はこれをチャンスだと判断。

 放り出される勢いのままに私は『竜息の呪い』でルナアポを射出しつつ、伏呪付きの『出血の邪眼・3』を発動。

 ルナアポを深く深くアジ・ダハーカの体の中に撃ち込みつつ、その傷を出血と伏呪の効果によって爆破して被害を広げていく。

 同時にドゴストから『模倣の棺船呪』を出現させ、1体は牛陽の竜呪に、残りの11体も適当な竜呪に変形。

 そして牛陽の竜呪に変形した『模倣の棺船呪』の背中に『噴毒の華塔呪』と『瘴弦の奏基呪』を乗せて降下させる。

 劣化版とは言えど牛陽の竜呪に変形した『模倣の棺船呪』は巨大で重い。

 それこそ虹亥の竜呪などとは比べ物にならないほどに。


『ブモオオオォォォ!!』

「「「被害! 被害! 被害! 超大質量体の衝突を確認!」」」

 牛陽型『模倣の棺船呪』とアジ・ダハーカが衝突する。

 とは言えだ……。


「サイズ差が流石に厳しすぎるわね」

「でチュね」

 流石に大きさに差がありすぎる。

 虹亥型『模倣の棺船呪』が衝突したよりも威力はあるが、相手のサイズを考えるとどんぐりの背比べのようなものか。

 なにせ、牛陽型『模倣の棺船呪』が全長100メートル程度に対して、相手の皮膚の詳細が分かるほどにまで近づいて分かったアジ・ダハーカのサイズは最低でも10キロメートル超。

 『噴毒の華塔呪』と『瘴弦の奏基呪』が効果を発揮し始め、他の『模倣の棺船呪』もそれぞれに攻撃を始めているが、時間稼ぎがいい所になってしまいそうだ。


「っ、凍結が……」

 おまけに今のアジ・ダハーカは私メタのために氷結属性と浄化属性に特化しており、青と白を主体とした表皮からは、近づくだけで凍えるような冷気と浴びるだけで皮膚がヒリつく光が放たれている。

 せめてこの攻撃が届かない程度には距離を取るべきか。


「いや、駄目ね。今此処で離れたら死ぬわ」

「でチュねぇ……」

 だが、そう判断して少し浮いた瞬間、周囲から青と白の礫が乱れ飛んできたため、私は急いで表皮に再び近づく。

 いつの間にか合流していた化身ゴーレムも同様だ。

 どうやらこの礫は黒い礫の氷結属性版と浄化属性版であるらしく、ザリチュのゴーレムたちに向けて撃たれたものの一部がこちらに向かってきているらしい。

 ザリチュのゴーレムたちは必死に応戦しているが……そう長くは保たなさそうだ。


「じゃあもう突き進むしかないわね! pmal(プマル)暗闇の邪眼(タルウィダーク)・3(シェード)』!」

「でっチュよねー!」

「「「!?」」」

 だが、私メタで氷結属性と浄化属性に偏ったのは弱点でもあった。

 それをルナアポからの情報で得ていた私はルナアポをザリチュに渡し、ザリチュは素早く振り上げ、勢いよく、真っ直ぐにアジ・ダハーカの身体へとルナアポを突き刺す。

 そして、それと同時に私は伏呪付きの『暗闇の邪眼・3』を発動。

 今のアジ・ダハーカの弱点である火炎属性と呪詛属性を伴う黒い炎を、その体内へと直接送り込んだ。

07/04誤字訂正

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