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967:アジ・ダハーカ-3

『たるうぃ!?』

 アジ・ダハーカから放たれた攻撃が……炎、氷、雷の奔流がこちらへと迫ってくる。

 だが、性質の違い故にか、その速さにはかなりの差がある。

 なので私は全力で飛行しつつ、順番に対応していく。


「一つ!」

 最初は雷の奔流。

 本物の稲妻よりは遅いが、それでもなお回避を考えられないような速さで迫ってきていた。

 だが、それほどまでに速いと言う事は、それだけ性質も本物に近いと言うこと。

 ルナアポを生成し、その両端に繋げる形で長い長い呪詛の鎖を生成し、私とルナアポの間に絶縁体になるような空間を設置。

 この状態で雷を受け止める事によって、後方へと受け流す。


「二つ!」

 続けて炎の奔流。

 こちらは赤ではなく青に近い色合いをしており、直撃すれば火炎属性に高い耐性を持つ私でもただでは済まない事は明白。

 しかし、それでも炎は炎であり、他の攻撃に比べれば対処は容易。

 と言うか、先ほど作ったルナアポを繋がっている鎖ごと素早く回転させ、盾のように用いる事によって、あっさりと散らす事が出来た。

 多少の余波は来たが、その程度で被害を受けるような軟な体はしていないので問題なし。


「みっっつうぅぅ!!」

 最後、氷の奔流。

 正確には両端が鋭く尖った巨大氷柱を何十何百本と含む大量の水がこちらへと迫ってくる。

 こんなものを私の氷結耐性で受けられるはずがないので、私は最初から全力で飛行して逃げていた。

 結果、奔流が纏う冷気に巻き込まれ、片足を中心に凍傷の状態異常を受けると共に、2,000ちょっとの氷結属性ダメージを受けたが、それでも生き残りはした。

 そして、生き残りさえすれば、回復は容易いので、HP回復に阻害があるらしい凍傷も含めて即座に再生。

 これで無事に凌いだ。


「はんげ……」

「潰れろ! 潰れろ! 潰れろ! 我らが敵が抱いていた怨嗟によって潰れて一つとなってしまえ!」

「消えろ! 消えろ! 消えろ! 意思の全てを消失させて抜け殻と化してしまうがいい!」

「承認! 照準! 解除! 光学式貫通兵装起動……発射!」

『そんな暇はないみたいでチュねぇえええぇぇぇっ!?』

 私はアジ・ダハーカに反撃するべく邪眼術を放とうとした。

 が、直ぐにそんな暇はないと理解した。

 アジ・ダハーカの三つの頭からは、今度は別のものが放たれようとしていた。

 二つの頭からは無数の黒い球体あるいは無数の白い立方体が。

 そして、どちらも放っていない頭は口腔に光を集めつつ、こちらを真っ直ぐに見つめている。


「!?」

 こちらを見つめていた頭から光が放たれた。

 私がそう認識すると同時に、私の顔の左目は光によって貫かれていた。

 何をされたのかは理解できる。

 純粋な科学に基づくレーザー攻撃であり、文字通りの意味での光速度攻撃、認識と同時に命中している本当の回避不可能攻撃である。


「どうでもいいわ!」

『まあ、純粋物理ならそうでチュよねー』

 が、ダメージは100もない。

 トドメの一撃ならともかく、そうでないなら竜皮で完全に防げているし、足止めにもならない。

 それよりも残りの攻撃の方だ。

 見た目からして明らかに浄化属性と呪詛属性の攻撃。

 後者はともかく前者を受けるわけにはいかない。


「右! 左! 上! 斜め下……上上下下左右左右! ブースト……evarb(エヴァルブ)深淵の邪眼・3(タルウィテラー)』!」

 と言う訳で全力回避と迎撃。

 『熱波の呪い(ドロクセルブ)』によって当たり判定を持った呪詛の弾幕を張って、黒い球体による呪詛属性による攻撃を相殺しつつ、白い立方体による浄化属性の攻撃は隙間を縫うように避けていく。

 勿論、この攻撃の間にもレーザー……それに黒くて小さい礫は飛んできているが、ほぼダメージらしいダメージにもならないので無視する。

 で、抜け切ったタイミングで邪眼術を撃ち込んでみる。


「「「!?」」」

『途中から変なコマンドになっているんでチュが!?』

「気のせいよ!」

 効果は……しっかりと入っている。

 やはりアジ・ダハーカは状態異常に対する耐性を持っていない?


「解析! 解析! 解析! 敵は火炎、呪詛に強く、雷に対処でき、物理は後期作成兵器のみが有効と思われる!」

「解析! 解析! 解析! 敵は氷結と浄化の二つを強く恐れている!」

「解析! 解析! 解析! 敵は強力な自己再生能力を有すると共に、重要な特定部位を持ち合わせていないと判断する!」

「ああ、そう言う……」

 そんなことを思っていたら、アジ・ダハーカの動きが……正確には纏っている呪詛が大きく変わった。

 これまでの如何なる属性でも扱えると言う雰囲気のものから、氷結属性と浄化属性を主体としているようなものに。

 合わせて体表の色も変わっていき、黒から白と青を主体としたものに塗り替えられていき、冷気と光を纏っていく。


『これはどういう事でチュか? たるうぃ』

 この時点で私はアジ・ダハーカの戦術がどのようなものかを理解した。


「簡単な話よ。アジ・ダハーカは相手に合わせて、あらゆる属性や状態異常を扱える。その代償として、耐性の類を持っていないか、著しく低いんでしょうね」

『チュアアァッ……』

 相手の攻撃はブロック構造と膨大であろうHPで受け止めて、耐え凌ぐ。

 相手への攻撃は弱点をきっちりと見極めて、対処が出来ないように撃ち込んでいく。

 古典的でありつつも最も嫌らしい、純粋な暴力を押し付けてくると言う、極めて強い戦術である。


「凍れ! 凍れ! 凍れ! 輪廻転生すら許されずに閉ざされてしまえ!」

「降れ! 降れ! 降れ! 深々と、我らが敵が居た事すらも分からぬほどに降り注げ!」

「縛れ! 縛れ! 縛れ! 我らに仇為す愚者には指一つ動かす事も許すな!」

 そして、その戦術の通りに、アジ・ダハーカは氷の奔流を放ち、真っ白な氷柱の雨を降らせ、光り輝く無数の輪を放ってきた。

07/03誤字訂正

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