959:ヤノミトミウノハ-2
「うぶぅえ……」
「楼主様ー……それはー……女性がー……出していいー……声ではないかとー」
『でチュねぇ。出したくなる気持ちは分かるでチュが』
それを見た瞬間、思わず変な声が出てしまった。
人前に出していい声でなかったのは認めるが、そんな声が思わず出てしまうような状況なのだから仕方がない。
「それでー……どんなー……防壁なんですかー?」
「13層の呪詛の防壁が13の区画に分かれて、半独立的な形で存在。それぞれの区画が相互に監視と補填を行っており、1つの区画だけでも処理を怠ると、全部の区画が復活、隔絶、反撃を開始する構造になっているわね。なお、13層の呪詛の防壁の中身は区画ごとに全くの別物であるけれど、13の区画への干渉は全て一人の術者でやらなければいらない事になっているわね。色々な方法で干渉源をモニターしているみたいで、何かしらの装置で干渉源を誤魔化す事はかなり難しくなっているわね」
「うぶぅえー」
「エヴィカ。それは女性が出していい声ではないわよ」
「出したくもー……なりますー」
はい、と言う訳で現在のヤノミトミウノハの状況だが、私が言ったとおりである。
うん、馬鹿じゃないかな?
自重しないにも程があると思うんだ。
なんだ、13の半分独立したシステムによる相互監視と補填って、三つ子システムが可愛く思えるような、えげつないシステムを組まないでいただきたい。
私が現在進行形で困る事になっている。
『ブーメランでチュねぇアアアアァァァァァッ!?』
「ブーメランですネ。楼主様あああぁぁぁぁッ!?」
「お二人ともー……口はー……災いの元かとー」
とりあえず馬鹿な事を言ったザリチュは指に竜の爪を生やした上で抓っておき、何処からともなく現れた上に煽ってきた邪火太夫にはルナアポを投擲しておいた。
「はぁ……まあ、やるしかないわね」
「やろうと思ってー……やれる楼主様もー……大概ですよー……痛いでふ」
『格差が酷いでチュ』
「本当ですネ」
「日頃の行いの差よ」
なお、エヴィカは呪詛操作で軽く抓る程度に抑えておいた。
日頃の行いの差と言う名のステータスの差があるので、仕方がない。
そして私はヤノミトミウノハの張った防壁の解除を始めた。
「ぺっ」
『下品でチュよ。たるうぃ』
「楼主様ー……それは流石にー……どうかとー」
「ふふふふフ。愉快なものが見れましタ」
はい、結局解除には3時間近くかかりました。
おのれヤノミトミウノハ。
よく見たら呪詛の防壁は三次元式じゃなくて六次元式だったし、13の半独立したシステムから完全に切り離され、見事に隠れていた、緊急用の169層防壁が2セットもあったし、能動的な反撃を行うための逆浸食プログラムのようなものも仕掛けられたし……いったい何と戦う気何だこの杯は。
おかげで一度解除に失敗、石化攻撃を浴びせられる事になった。
咄嗟の呪詛操作とジタツニの完全石化無効のおかげで難を逃れたが、『CNP』をプレイしてきた中で、最も冷や汗をかいた瞬間だったかもしれない。
『で、どうなっているんでチュ? 見た目は変化がないようでチュが?』
「さて、どうなっているかしらね?」
まあ、なんにせよ生きたまま解除する事には成功したので、よしとしよう。
△△△△△
『毒憑きの外天杯呪』ヤノミトミウノハ
レベル:タルのレベルと同じ
耐久度:100/100
干渉力:タルの干渉力と同じ
浸食率:100/100
異形度:タルの異形度と同じ
『虹霓境究の外天呪』タルが所有する宝杯型のカース。
『虹霓境究の外天呪』タルの所有するダンジョン『ダマーヴァンド』の核であると同時に、『ダマーヴァンド』に連なるダンジョンと呪限無の基点でもある。
禍々しき輝きを放つ13個の宝石と虹色の液体は、資格ある者を変化の路へと招き、資格無き者を不変の路へと追いやる。
この杯の底には、呪限無の深淵へ赴くための路が秘されており、現所有者が望むのであれば、その路を開くことは容易いだろう。
自己意思を有しており、『ダマーヴァンド』の守護と維持を第一にとしており、主への忠誠心はない。
しかし、反抗する気もまたないようだ。
注意:正規の手順以外で接触を試みたものが居た場合、永久石化攻撃を行う。この効果をプレイヤーが受け、防げなかった場合、キャラクターをロストする。
注意:異形度19以下のものが、生成から1秒以内の毒液を飲むと、毒(1,000)、灼熱(10,000)、気絶(100)、沈黙(1,000)、出血(1,000)、干渉力低下(1,000)、恐怖(1,000)、乾燥(1,000)、暗闇(1,000)、魅了(畏怖)(100)、石化(
注意:異形度19以下のものが、生成から10秒以内の毒液を飲むと、毒((20-対象の異形度)×100)が付与される。
注意:異形度19以下のものが、生成から10分以内の毒液を飲むと、13%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇します。
注意:異形度19以下のものが、生成から10時間以内の毒液を飲むと、毒(13)と理解(1)が付与される。
▽▽▽▽▽
「……」
「さテ、行きますカ? 楼主様」
「いいえ、今はまだ行かないわ。次の相手はほぼ間違いなく討伐までに何時間とかかる相手でしょうし、使ってくる攻撃も未知数。準備があまりにも足りないわ」
ヤノミトミウノハの毒性が微妙に強化されているのは置いておくとして。
どうやら私が感じた通りに、アジ・ダハーカが居る場所へと行くことは出来るようになったようだ。
「ザリチュ。明日からはまた暫く作成作業よ」
『分かったでチュ』
私はヤノミトミウノハを噴水の中に戻すと、その場を後にし、ログアウトした。