956:タルウィザリチュ-6
「ザリチュ」
「分かってるから、安心するでチュよ」
『
『虹熱陽割の贋魔竜呪』と『霓渇地裂の贋魔竜呪』、その双方に向けてザリチュが突撃していく。
すると当然ながら『霓渇地裂の贋魔竜呪』が前に出てきて、再びザリチュと切り結び始める。
『ふははははっ! 何をする気かは知らんが、素直に準備をさせて貰えるとは思わない事だぞ! 呪いですら無き者よ!!』
そして、『虹熱陽割の贋魔竜呪』は私が何をする気であろうとも、絶対に妨害をして見せる、そんな意思を示すかのように、七色の炎の帯を伸ばし、七色の炎の雨を降らせ、更には植物を束ねて作ったドラゴンの群れを私の方へと差し向けてくる。
うん、これぐらいならば想定の範囲内だ。
「宣言するわ。『虹熱陽割の贋魔竜呪』にしてタルウィ。『霓渇地裂の贋魔竜呪』にしてザリチュ。貴方たちを虹色の狂気にて捉え、未知へと還しましょう」
『『!?』』
私は呪詛を束ねる事によって虹色の炎を纏って燃え盛る槍を何千本と生み出して射出。
それによって『虹熱陽割の贋魔竜呪』の攻撃を凌ぎつつ、本命の攻撃の準備をしようとする。
「『
『ふははははっ! なるほどそう来たか! それならば確かに! 確かに私たちを倒す事も叶うだろう!』
だが……やはり厳しいか。
『虹熱陽割の贋魔竜呪』の炎には浄化属性が含まれており、私の放つ呪詛の槍の大半は一方的にへし折られていく。
ドラゴンたちを押し留めたくても、圧力が足りていない。
そして、『禁忌・虹色の狂眼』を使用するためには、細かい動作の指定を含む発動キーをこなさなければいけない。
あっという間に距離を詰められてしまう。
「『
『だがそんなものを通せると思うな! そらっ! 押し潰せ!!』
だったら無理矢理押し通すまでである。
「『
『なっ!?』
私は呪詛支配によって自分自身の身体を制御し、手足の動きとは無関係の挙動でもって動く。
それだけでなく、ジタツニの伸びたスカートを制御する事で手足のように扱ってドラゴンの攻撃を捌き、錫杖形態のネツミテを飛び回らせて炎を打ち払い、それでも対処しきれなかったものをドロシヒの錘とドゴストの尾で撃ち落として、最低限の被害に抑えていく。
ザリチュもザリチュで、後を考えない全力の攻勢によって、『霓渇地裂の贋魔竜呪』を一か所に押し留め続けている。
そして、その間にも順調に私の詠唱は行われていく。
虹色の彼岸花が私の手のひらの上に現れ、握り潰され、周囲に花びらを舞い散らせていく。
合わせて、威力を高めるための呪法も……種を仕込んだ槍が、他の槍に紛れる形で飛んで行き、遥か彼方でUターン、狙い通りに戻りつつある。
では、発動しようか。
「『禁忌・
『くっ!? だが……』
周囲へと虹色の彼岸花の花びらが大量に舞い散っていく。
「改め」
『『!?』』
そうして舞い散っていった花びらが虚空に張り付き、下がっていた瞼が上がるかのように動いて、虹色に輝く私の瞳を周囲一帯に出現させる。
そう、『虹霓境究の外天呪』となった私が使うには、『禁忌・虹色の狂眼』では、もはや呪術の構成の強度が足りていない。
そして、『禁忌・虹色の狂眼』では呪法を使えるだけ使っても、相手を倒すには足りない。
それが分かっていたから、私は今ここで、私の呪憲である『呪憲・
「『禁忌・
『これは……!?』
『虹熱陽割の贋魔竜呪』に呪詛の槍が突き刺さると同時に、私の全ての目が虹色に光る。
『虹熱陽割の贋魔竜呪』の身体を虹色の蔓が覆い隠す。
それだけでなく、虹色の蔓が周囲一帯へと伸びていき、『虹熱陽割の贋魔竜呪』が生成したドラゴンも、『霓渇地裂の贋魔竜呪』も蔓に絡め捕られ、覆われ、見えなくなっていく。
やがて虹色の蔓は凄まじい爆発を伴いながら萎んでいくが……。
うん、分かっているとも。
『ぐ……』
「さあ行くわよ。ザリチュ!」
「分かってるでチュよ、たるうぃ!」
これだけで倒せるだなんて、そんな甘い話は無いと。
だからザリチュは私の下に駆け付け、私は錫杖形態のネツミテを構える。
「我が剣よ。我が敵を撃ち滅ぼせ。『
ザリチュの剣だけでなく全身がうっすらと虹色を帯びていく。
ザリチュは剣を構え、真っ直ぐに『霓渇地裂の贋魔竜呪』へと空を駆けていく。
その間にも私の詠唱は順調に続いていく。
「『禁忌・
『!?』
世界が白と黒に染め上げられる中、ザリチュだけが虹色に輝いたままに、蔓の塊から現れた『霓渇地裂の贋魔竜呪』に切りかかる。
『霓渇地裂の贋魔竜呪』は半死半生と言った様子だったが、それでもザリチュの攻撃に対処しようと二本の刃を構え、攻撃を受け止めようとした。
だが無駄だ。
「『禁忌・
『霓渇地裂の贋魔竜呪』の身体に刃ごと、一本の虹色の線が引かれる。
線からは虹色が広がり、一瞬で『霓渇地裂の贋魔竜呪』の全身へと広がっていく。
そして化身ゴーレムの崩壊とともに……。
『くくくくくっ、これは……どうしようもないな……』
『霓渇地裂の贋魔竜呪』の身体は跡形もなく、爆発する事もなく、ただ消え去った。
『ふははははっ! やってくれたな! だが見ろ! 私は生きて……』
同時に『虹熱陽割の贋魔竜呪』もまた蔓の塊から半死半生の状態ではあるが、姿を現す。
けれどそれもまた私は知っている事だった。
だから私はトドメの一撃を放つ。
化身ゴーレムが崩壊する事で再生成可能になったルナアポを、今の私の全力で作り上げたルナアポを、虹色の炎を纏って燃え盛る大剣と化したルナアポを、ドゴストへと食わせる。
食わせて、何故か蘇芳色の鱗を持つ五つ角のドラゴンとして巨大化し、逆に私を手のひらの上に乗せたドゴストの口を『虹熱陽割の贋魔竜呪』へと向ける。
『は?』
「『
周囲に残されている全ての呪いが、呪詛が、熱が、光が、力が、ルナアポを取り込んだドゴストの口へと集まっていく。
この空間に存在している光源がドゴストの口の中だけになっていく。
『え、待て、それはもう色々と次元が……』
「狂記外天:森羅狂象・中天-ルナアポクリフ:オルビスインサニレ・ミッターグ」
力が放たれた。
全てが一度消えた。
そして……。
『!?』
空間そのものを粉砕するかのように虹色の光によって世界は満たされた。