955:タルウィザリチュ-5
「ガンガン行くでチュよぉ!」
『材料を変えただけでこれほどに……いや、術者の強化の影響も受け継いでいるのか!?』
ルナアポ製となった化身ゴーレムはザリチュの操作の下、『霓渇地裂の贋魔竜呪』へと攻撃を仕掛ける。
その攻撃は体躯の差など無視したように『霓渇地裂の贋魔竜呪』の刃を吹き飛ばし、体を構築する砂を切り刻むことで本質も切り裂く。
そして、ルナアポで出来ているが故に、『霓渇地裂の贋魔竜呪』の情報を奪い取り、私の理解を深めていく。
『霓渇地裂の贋魔竜呪』が真なる神々の一柱であり、ゾロアスター教の邪神でもあるザリチュを核とし、そのザリチュの力だけでほぼ構築されている事を教えてくれる。
加えて、彼らが如何なる存在であるかも、伝えてきてくれる。
『なるほど、これならば確かに性能は足りていそうだ』
「チュアッ!?」
だが何時までも一方的な攻撃は出来ない。
『霓渇地裂の贋魔竜呪』が刃を振るう。
すると手に持った刃が纏う電撃が刃から離れ、自身の攻撃後の隙を潰すかのようにザリチュへと襲い掛かっていく。
二本の刃と複数本の雷、それらを間断なく組み合わせる事によって、ザリチュを切り裂こうとする。
そんな攻撃をザリチュは巧みに避け、隙を見て反撃を加えていくが、この分だと、暫くはどちらも決定打は撃ち込めなさそうだ。
「さあ、前線が再構築出来たなら、後衛の撃ち合いもまた激しくしないといけないわね!」
『ふはははっ! そうであろうな! そうでなければ面白くない!!』
だからこそ私と『虹熱陽割の贋魔竜呪』の戦いが重要になる。
私は再び牽制として虹色の呪詛の炎の雨を降らせ、『虹熱陽割の贋魔竜呪』は虹色の炎の帯でもってそれを迎撃する。
さて、ここで普段ならば攻撃の隙間を縫って邪眼術を叩き込むか、『
だから、別の手を撃ち込む。
「すぅ……」
一歩前に踏み込む。
踏み込んで、『座標維持』によって足の位置を固定し、それを軸として音速を超える速さでの回転をする。
私の手の内にあるのは錫杖形態のネツミテ。
打撃部の光は消し、錫杖部分と打撃部の間にある呪詛の紐は適切な長さにまで伸ばすと同時に目立たなくしている。
これらを組み合わせた場合に起きるのは?
「吹き飛べ。
『うぐおっ!?』
音速の数倍に達する速さで打撃部が飛来し、『虹熱陽割の贋魔竜呪』を強襲すると言う光景である。
「まずは一発。続けて……」
当然ながら、衝撃の凄まじさ故に爆発は生じる。
その爆発は前線の戦いをかき乱すと同時に、一瞬だが私の視界から『虹熱陽割の贋魔竜呪』の姿を隠す。
けれど、私の感覚は『虹熱陽割の贋魔竜呪』に対してダメージを与えていない事を認識している。
当然だ。
色々とダメージを増やす要因は重ねているものの、結局は武器による通常攻撃に変わりないのだから。
「二発! 三発!!」
だが、通常攻撃だからこそ何度でも叩き込める。
私はその場で回転し続け、私の感覚に従って爆炎の中へとネツミテの打撃部を叩き込み続ける。
と言うか、ダメージの入る邪眼術が通じず、ルナアポも使えない以上、他にダメージを与える手段がないのだから、選択肢などインパクトの瞬間についでで乗せる邪眼術に何を選ぶか程度であり、攻撃手段はネツミテしかないのである。
「
『ふははははっ!』
そうして十数度の攻撃を行ったタイミングで、ネツミテの打撃部が止められてしまった。
『虹熱陽割の贋魔竜呪』の笑い声が爆炎の向こうから聞こえる中、私は止むを得ず回転を止め、ネツミテを指輪形態に変える事によって回収する。
『いい攻撃だ。だが、それだけで倒れてやるほど私は軟ではないぞ』
「……」
爆炎が晴れ、これまでよりもむしろ火勢が増している『虹熱陽割の贋魔竜呪』が姿を現す。
とは言え、確実に削れているのは感覚的に分かってはいるのだが。
「チュオッとぉ!? 一度仕切り直しでチュか」
『くくくくくっ、そのようだな』
私たちの動きが止まったのに合わせて、ザリチュと『霓渇地裂の贋魔竜呪』の切り合いも一時停止。
お互いに後方に向かって跳び、距離を取る。
ザリチュは……細かい傷は無数にあるが、見た感じでは致命的なダメージは受けていないようだ。
ただ『霓渇地裂の贋魔竜呪』も見た目こそ無数の切り傷があるが、致命的なダメージは受けていない、と。
『さてどうする? このまま時間が経てば、勝利するのは私たちだ』
「……」
うん、このままだと拙いか。
決定打がなくて、削り切る前に『
しかし、今の私の手札で決定打になるような攻撃となると……まあ、アレしかないか。
アレしかないが、アレを撃てるだけの隙があるかと言われると……。
『たるうぃ、他に手段がないのなら、それをやるしかないでチュよ』
「ま、そうよね」
化身ゴーレムの口ではなく、思念の方でザリチュが言葉を伝えてくる。
うん、他に手段がないのであれば、やるしかないだろう。
「じゃ、とりあえずは『
『『!?』』
では、叩き込むとしよう。
私はそう決意すると、わき腹にくっつけたドゴストの口から蛇界の竜呪の紫角を放ち、この後のために必要な、最初の一瞬の隙を作り出す事にした。