953:タルウィザリチュ-3
『ぬぐおおぉっ……』
「ふむ。流石に効くようね」
私の振るったネツミテはドラゴンの二つある首の片方、その半ばほどに当たり、ネツミテ自身の火力と自動発動した邪眼術の効果が合わさる事によって、その首を半分くらい抉り取った。
ぶっちゃけ、相手の正体を考えた場合に、ドラゴン部分への攻撃は殆ど意味が無いようなものなのだが、流石に首が半ばまで抉り取られるような攻撃であれば、効果はあるらしい。
とは言えだ。
『やってくれたなぁ!!』
「おっと」
傷口からは大量の炎と砂が噴き出して私への攻撃を試みてきているし、噴き出した炎と砂の向こう側では傷口は目に見える速さで塞がっていっている。
そして新技として、赤熱するほどに加熱された砂を紡錘状に集め、螺旋回転させ、こちらへと射出してきている。
避ける事は容易だが、砂が放つ熱が周囲と軌道上に残されることもあって、多少は厄介である。
『逃がさんぞ! さあ、幸せを受け入れ……ごぉ!?』
「チュラッハァ!」
と、相手は更なる追撃として、攻撃を受けなかった方の首を大きく開き、口の中へと呪詛を集めている。
恐らくはブレスを放つつもりだろう。
が、ブレスが放たれるよりも早く、ザリチュが飛来し、勢いそのままに隕鉄剣を叩きつけ、相手を怯ませ、ブレスを止める。
「一応聞くでチュが、止めなかった方が良かったでチュか?」
「いいえ、止められるなら止めていいわ。止められる程度の攻撃なら、その程度だったと言う事だもの」
『うぐ……人形の分際で我らの邪魔をするか……いいだろう。であるならば……』
私はザリチュと合流。
そして、相手の動きを観察しつつ、これまでの相手の言動を思い出す。
そうして思い出し、まとめた結果から考えるとだ。
「やっぱりこれ、チンタラやってないで、全力の攻撃を叩き込み、とっとと次の段階に移行しろと言われている気がしてきたわね」
「まあ、そうでチュよね」
こういう結論しか出せない。
『ふううぅぅ……まとめて葬り去ってくれるわ!』
相手はこちらの様子を窺いつつ、少しずつ接近してきている。
しかし、ふらついているような姿も見せている。
うん、分かってはいたが、やはり演技だ。
淀みの影響とか欠片も受けてないし、全力のぜの字も出していないように見える。
「まあ、私の新しい呪術的にも使わない選択肢はないし、とっととやりましょうか。『
そこまで求められているなら、私のしたい事とも一致しているし、私の方の全力を早々に見せてしまうとしよう。
と言う訳で、ルナアポを使用した『竜活の呪い』を発動。
私の姿が大きく変貌し、ザリチュたちの姿も変わっていく。
その上でだ。
「『
『ほう……』
現状で発動しておく価値のある呪いを全て発動。
周囲の環境を一変させると共に、曖昧な姿と化した私を認識するだけでも被害を与えられるようにしておく。
だが、これで終わりではない。
「『
『!?』
相手の顔色が変わった。
どうやら、これは……私と自分の尾や翼の先端までの間に網目状に岩の足場が発生して、身動きが取れなくなると言うのは考えていなかったらしい。
私としては『太陽の呪い』と『砂漠の呪い』の行動制限の都合上、こういう使い方はして当然だったのだが。
まあいい、それに、これでもまだ終わりではない。
「展開。『噴毒の華塔呪』、『瘴弦の奏基呪』」
「ガンガン演奏していくでチュよー」
私は追加としてドゴストから『噴毒の華塔呪』と『瘴弦の奏基呪』を取り出して、周囲に設置。
それぞれの効果を全力で発揮させていく。
これでようやく準備完了だ。
『くはっ、くははははっ! 呪いですら無き者よ! ただものではないと思っていたが……あ?』
「じゃ、とりあえずお試しね」
と言う訳で、まずは小手試し。
荘厳な音楽が周囲に鳴り響く中、私は相手の顎下に音速を幾らか超えた速さで移動すると、『座標維持』の効果でもってしっかりと大地を踏みしめ、ネツミテを錫杖形態から指輪形態に変更した上でこぶしを握り締める。
そして、この一瞬の間で込められるだけの呪詛を右の拳へと集めていく。
「『
『ま……きさっ……それっ……』
加えて『虹霓外への階』も念のためにだが、相手にかけておく。
効果があるのか分からないし、効果があってもどちらかと言えば、相手を引きずり落とすような形になっている気もするが……まあ、使っておいて損はないはずである。
「安心しなさい。ただのパンチよ」
私の右腕が虹色の炎に包まれて燃え上がる。
拳が蘇芳色の鱗に覆われ、爪が金色に光る。
一歩踏み込んで、腰を捻って、全身の力を余すところなく拳の先へと集めつつ、腕を振り上げる。
そして私の手が相手の顎に触れて……。
『!?』
閃光。
衝撃。
蒸発。
振動。
轟音。
結果は?
「絶対これ、ただのパンチじゃないでチュよ……」
「でも、怖ろしい事に後衛が打った、ただのパンチなのよねぇ……」
とりあえず体長数百メートルのドラゴンの身体の内、頭から腰までの部分が綺麗さっぱり蒸発して、腰から先がズタズタに引き裂かれて、ただの木片と化した。
周囲は虹色の霧に包まれて煌めくと同時に、気温が数百度まで上昇して下がる気配もない。
やはりと言うべきか、呪いを込めつつ音速の数倍で殴り飛ばせば、もはや前衛後衛の差などないようなものになるらしい。
「さてザリチュ。それに『虹熱陽割の贋魔竜呪』と『霓渇地裂の贋魔竜呪』……だったかしら?。本番はここからでしょう?」
だがそれでもやはり後衛が適当に打ったパンチには変わりない。
相手の本質が本質なので当然の結果ではあるのだが、肝心の部分には被害などあってないようなものである。
「ま、それはそうなんでチュがね」
『だから、小手調べなど必要ないと言ったのだがな、私は。必要なのは理解していたが』
『私もそう思ってはいた。しかしそれでも、あの姿も一度は出しておかねばならなかったのだ』
「ああ、私以外が挑む時用なのね。あのドラゴンは」
『『まあ、そう言う事だ』』
私とザリチュの目の前に二体のドラゴンが……真っ赤な炎だけで構成された体から虹色の光を発しているドラゴンと、黒い砂だけで構築されているのに虹色を感じる体を持ったドラゴンが、気軽な雰囲気で現れて、私たちの近くにまで浮き上がってくる。
体長は数メートルほどで、先ほどまでの巨大ドラゴンと比べると、サイズは随分小さくなっている。
そう、彼らがタルウィとザリチュ、あるいは『虹熱陽割の贋魔竜呪』と『霓渇地裂の贋魔竜呪』、または『火酒果香の葡萄呪』と『千支万香の灌木呪』であったものである。
『では構えろ。呪いですら無き者よ』
『虹熱陽割の贋魔竜呪』の背後に後光が射すかのように虹色の炎が生じると、虹色の炎が輪となってゆっくりと回り始める。
『貴様との戦いはこれからが本番となる』
『霓渇地裂の贋魔竜呪』の右手に黒い砂で作られた刃が、左手に白い砂で作られた刃が現れて、二刀流の剣士のように構える。
「言われなくても分かってるわ」
対する私はネツミテを錫杖形態に変化させ、ルナアポを先端に生成した状態で構えを取る。
「やってやるでチュよ」
ザリチュも剣と盾を構えつつ、何時でも動き出せるように全身に力を漲らせる。
『『「「!」」』』
そして私たちは同時に動き出した。