952:タルウィザリチュ-2
『フシュルルルルル……』
「ふうん……」
「酷いでチュ。酷いでチュよ。たるうぃ……」
すり鉢状の地面から現れたそれを簡単に言い表すならば、全身から赤い炎と黒い砂を垂れ流す木製で双頭の巨大竜、と言うところだろうか。
『くはははははっ、驚きのあまり、言葉も出ないか!!』
もう少し詳細に述べるならばだ。
体高は100メートルを超え、体長も数百メートルは優にあるだろう。
基本的な構造は首から先が二つある事以外は、シンプルなドラゴン。
体は樹木で出来た部分もあるが、それ以上に鱗のような葉、筋肉のような蔓、爪や牙のような果実など、植物の様々な要素で作られている。
そして、その身体の隙間からは、真っ赤な炎が吹き上がって周囲を照らし出す、あるいは真っ黒な砂が滝のように流れ出て周囲へと広がっていく。
『だが、この程度で驚くようならば、戦う価値もない。早々に永劫に、死を!』
と、ここで自称タルウィとザリチュ、あるいは『虹熱陽割の贋魔竜呪』と『霓渇地裂の贋魔竜呪』が前足の片方を地面へと叩きつける。
それだけで地面を覆う黒い砂が一気に数百メートルの高さにまで立ち上り、赤熱するほどに加熱された上で、津波のようにこちらへと迫ってくる。
どうやらムミネウシンムよろしく、このレベルのカースになってくると、初手は戦う価値がないものを篩い分けるための攻撃になるようだ。
「たるうぃ」
「何も問題は無いわね」
また、砂の津波に合わせて、呪憲……いや、呪圏の展開もしてきたようで、詳細までは分からないが相手の周囲に何かしらの呪いが展開され、気温が上昇し、湿度が下がっていく。
こちらもまた篩い分けの一撃。
呪圏対策すら満足に出来ていないものならば、戦う価値もないと言う事だろう。
「この程度で私を押し潰せると思っているだなんて、それこそ幸せな思考回路をしているわ」
まあ、どちらも問題ない。
呪圏は『呪憲・
砂の津波は……とりあえずドゴストにルナアポを収納し、『
砂の津波に大穴が開いて、私とザリチュはそこを通り抜ける事で、砂の津波を回避する。
また、この攻撃の進路にはきっちり相手を収めておいたので、そのまま直進を続けたルナアポは相手の身体に深く突き刺さった。
「むう……」
「どうしたでチュか? たるうぃ」
『ほうっ、この程度では流石に死なないか。愚かとは言えど、戦う価値はあるようだ』
相手に突き刺さったルナアポから情報が流れ込んでくる。
その内容は私が予想した通りのもの。
相手はルナアポの事を気にする素振りも見せていない。
「ザリチュ」
「なんでチュか。たるうぃ」
「この場に私以外が居ないか確認してきて」
「……。分かったでチュ」
つまり、ここまでは相手の想定通りとも言えるのかもしれない。
とりあえず私の背後で砂の津波があらゆる物を押し潰しながら流れていき、地平線ちかくで収まりつつあるので、ザリチュをそちらの方に向かわせる事でこの場に他の人物が居ないのかを確認する。
誰も居ないのなら、私のために相手は今の態度を、居るならその人物のために今の態度をとっている可能性が高いからだ。
そして、私のこの行動を相手が止める事は無く、ザリチュは難なくこの場から離れていく。
『くくくっ、何かに気づいたとでも言うのか? だが結末は変わらんぞ。未知などと言う愚かなものを求める貴様には死以外の幸せなどないのだから』
「……」
しかし、うん。
大根役者である。
なんと言うか、キャラが違い過ぎるとか、実力差が把握できていないとか、そう言う違和感がある振る舞いは淀みが関係しているんです、とでも言い張れば何とかなると思っているのだろうか?
淀みが関係しているにしても、もうちょっと頑張って欲しいのだが……。
『さあ、死して幸せになるがいい!』
「おっと」
とは言え、攻撃そのものは凶悪だ。
相手が前足を振り上げ、炎と砂を纏った爪を振り下ろしてくる。
これが直撃すれば、今の私と言えどもただでは済まないだろう。
が、これ単体であれば避けるのは容易なので、私は何なく避ける。
『ふははははっ!』
「ふうむ。これ、素直に攻めていいのかしら?」
そして、避けたところに本命であろう攻撃として、無数の火炎と黒い砂の弾丸が襲い掛かってくる。
こちらもまた私相手であっても十分にダメージを通せそうなものではある。
が、ネツミテを振るって弾丸を叩き落とし、火炎を避ければ、竜骨髄の効果で問題なく回復できる程度のダメージしか受けない。
『避けるばかりか!!』
『たるうぃ、少なくとも数キロメートル圏内には人は居ないようでチュよ』
「そう、分かったわ」
相手の攻撃は何度も続く。
が、避けている間にザリチュからの報告が来た。
どうやら、相手の演技は私の為であるらしい。
では、なぜ演技をしているかと考えると……私に全力を出させるため?
あるいは、その逆か?
とりあえず現状では、相手の明らかな演技で、私のやる気は削がれている。
相手が相手なので、相応の知性を有しているのは間違いなく、それは淀みの影響が大きくあっても緩和できる程度のはず、それならば今の行動にも何かしらの意味はあると思うのだが……。
「とりあえず様子を見つつ、少しずつ攻めていきましょうか。
仕掛けない事には分からない。
私はそう判断すると『毒の邪眼・3』を相手へと撃ち込む。
そして、毒を受けた相手は……。
『くははははっ! こんなものが効くわけないだろう!!』
「まあ、そうよねぇ」
『サイズがサイズでチュからねぇ』
平然とした様子で反撃を仕掛けてきた。
爪を振るい、頭を動かし、翼をはためかせ、尾で払い、体の隙間から炎と砂を噴き出しながら、こちらへと襲い掛かってきて、私はそれを避け続ける事になった。
「んー、折角だし、新しくなったものも色々と試してみましょうか」
『効かん!』
そうして一通り避けたタイミングで、竜瞳が発動。
相手の頭の片方、その目の部分が真っ黒な炎で覆われると共に、幾つかの状態異常が付与された。
それでも相手は平然と動き続けているが、目が一つ減った事によって、普通ならば多少だが視界が損なわれたタイミングである。
「せいっ!」
『!?』
なので私は相手の首の横に素早く接近し、ネツミテに大量の呪詛を流し込み、その輝く13の打撃部を相手の首へと叩き込んで、首の一部を爆破、えぐり取った。