951:タルウィザリチュ-1
「ログインっと」
「来たでチュね」
「来たわよー」
私は『CNP』にログインした。
そして、いつもの作業を終えると、『虹霓鏡宮の呪界』、魅了の眼宮、魅了の眼宮から奥地への通路の間にあるショートカット、『虹霓鏡宮の呪界』の奥地の最深部、という具合に移動して、難なく例の壁の前にまで辿り着いた。
「さて、待ち受けているものはだいたい予想がつくけど……詳細は分からないのよね」
「でチュねぇ。だからこそ挑むわけでチュが」
壁の先に待ち受けているのは、ほぼ間違いなく、火酒果香の葡萄呪と千支万香の灌木呪ことタルウィとザリチュを基にした強大なカース。
アレならば、無警告でのキャラロスト攻撃もあり得るというのも頷ける。
そして、この二体とは邪火太夫の件……『
だが、この先に待ち構えているのには、そう言う調整は入っていない事だろう。
「よく分かってるじゃない。ザリチュ」
「これだけたるうぃと付き合いが長くなれば、理解もするでチュよ」
つまり、一切の油断は出来ず、全力で挑むべき相手と考えていい。
では、装備の確認は終了、何も問題はない。
アイテムの確認も終了、ドゴストの中には、ザリチュのゴーレムの他、ゲーミングジャーキーや蛇界の竜呪の角なども備えている。
『死退灰帰』などの呪詛薬の服用も済ませ、一時的にだが異形度は32になっている。
念のためにだが、掲示板にも壁の向こうに移動すると書き込んでおいた。
では、準備完了と言う事で、進もう。
「ザリチュ」
「周辺警戒でチュね。分かっているでチュ」
呪詛の壁を超えた私たちは、直ぐに周囲を警戒する。
毒々しい色合いの整えられた木々、黒く尖った砂の地面、赤と黒と紫の呪詛の霧、その全てに異常がないかを慎重に探っていく。
「奇襲はないみたいね」
「でチュねぇ」
が、異常は……いや、今さっき超えた壁がなくなると同時に、繋がりがおかしくなったようだ。
壁の向こうに戻る事が出来ず、壁の向こう側の空間だけでループしているようだ。
しかし、壁を超えた先には竜呪たちも居ないのか、敵の気配は一切ない。
なので私たちは中心に向かって警戒しつつ移動する事にする。
「決戦のバトルフィールド、と言うところかしら」
「それっぽくはあるでチュねぇ」
やがて見えてきたのは、すり鉢状に地面が凹むと同時に、斜面や底から疎らに木々が生えている、開けた空間。
その空間の中心には一本の葡萄の木が生えており、濃密な呪いを纏っている。
『問おう。呪いですら無き者よ』
「何かしら?」
すり鉢状の空間に侵入すると同時に、周囲に声が響き渡る。
音源は呪いを纏っている葡萄の木だ。
『汝は何を求める? 何を求めて此処までやってきた?』
「未知を求めて。それ以外に求めるものなんて無いわ。でもこれ、改めて問う必要がある事かしら?」
『未知か……』
「あ、聞いてないでチュね。これは」
「聞いてないわね。これは」
私はてっきり質問されていると思っていたのだが、どうやらある種の自分語りのようだ。
こちらの言葉を聞いている気配がない。
『なんと愚かしい事だ。未知など永遠のものにとってはいずれは尽き果てるもの。定命のものには膨大過ぎるもの。汝がいずれのものであろうとも、愚かである事には変わりない。果てから目を逸らし、未来から目を背け、今に興じる事だけが汝が喜びか。これを愚かであると言わずして、何が愚かではないと言うのだろうか?』
「ルナア……」
「待つでチュよ。たるうぃ。流石にそれは止めてあげるでチュよ。たるうぃ。まだセリフの途中なんでチュから……気持ちは凄く分かるでチュが」
うん、とりあえず第一感想としてはウザイ。
ウザいので、ルナアポを『
『おおっ、汝のような愚か者がこれ以上愚かな振る舞いをしないように、魔を基に作られた我らが、その路を半ばで終わらせなければならない。それこそが人間にとっての幸せであろうから』
「本格的にウザいわね……」
周囲の地面が、森が、呪詛が揺れ始める。
そろそろ戦闘開始だろうか。
では、とりあえずこれだけは言っておくとしよう。
「未知が尽きる? 笑わせないで、未知とは未だ知らぬものであること。それ以上でもそれ以下でもなく、全知全能の存在にでもならない限り、尽きる事は無いわ」
『呪いですら無き者よ……』
「膨大過ぎる? そんなのとっくの昔に知れたこと。だからこそ、私は全ての未知を知る事は諦めて、自分がより知りたいものを優先して知るようにしているんじゃない」
『汝に死と言う幸せを与えようぞ……』
「愚か? 愚かで結構。自分は
『汝らが祖である、このタルウィとザリチュが! 『虹熱陽割の贋魔竜呪』と『霓渇地裂の贋魔竜呪』が!!』
そして私がルナアポを先端に生成したネツミテを構えると同時に、すり鉢状の地面からそれは飛び出してきた。
「どっちも大根役者の感じがあるのは何なんでチュアアアアアァァァァァッ!?」
同時に余計な事を言ったザリチュは抓っておいた。