950:現実世界にて-25
「羽衣、レイドボス就任おめでとう」
「ありがとうございます。そう言う芹亜こそレイドボスの取り巻き就任おめでとうございます」
本日は2019年10月14日月曜日。
と言う訳で、いつも通りの芹亜との情報交換会である。
ただ今回はお互いにジャブを打ち合うようなやり取りになった。
まあ、仕方がないだろう。
と言うのもだ。
「その返しは予想してなかったわね……」
「掲示板で散々ネタにされていた事は私も知っていますから」
「まあそうよね」
掲示板の雰囲気がイベント前恒例の秘匿モードに入ってしまい、代わりに次のイベントのサプライズ予測と言う名のもとに私がボスとして参戦すると言うネタが溢れかえっているからである。
「で、本当にレイドボスをやるの?」
「私、プレイヤーですよ」
なお、念のために断言させてもらうが、運営からのメッセージについては私は芹亜を含め、ゲーム内外の誰にも話していない。
あのメッセージの内容について知っている可能性がありそうなのは……聖女ハルワとザリチュぐらいではないだろうか。
「それよりも、他にイベントに出てきそうな超大型ボスの話を芹亜は聞いていないんですか?」
「聞いてないわね。羽衣がムミネウシンムの情報を出すからと掲示板に上げれば、多少は出てくるかもしれないけど……」
「私、ネタバレは好みませんよ」
「うん、そうでしょうね。だから、そっちの件は掲示板には期待できないと思うわ」
ちなみにムミネウシンムについて教える気はない。
私以外のプレイヤーたちがどう対応し、打ち勝つかが気になるからだ。
こう言うのは、事前情報なしで、自分たちで試行錯誤を重ねた方が面白くなると相場が決まっているのである。
「とそうだ。あの件については話しておかないといけないわね」
「あの件?」
「聖女アムルが干渉力180以上の金属を求めていた件よ」
「ああ、その件ですか。何かあったんですか?」
「私もまた聞きに近いけど、結構なことがあったみたい」
話は変わって、聖女様からの依頼についてだ。
アレは確かサクリベスに居るプレイヤーの一部……聖女アムルからの好感度が高いプレイヤーが極秘裏に依頼されたものが切っ掛けで、今は結構な範囲に広まっている話だ。
その続報となると……。
「動機の類が判明しましたか?」
「ええ。判明したわ」
やはりそう言う話になるらしい。
「そもそもの事の発端は、とあるプレイヤー……恐らくは『鎌狐』が高い干渉力の金属素材を利用した強力な何かの製造方法を発見した事にあるようね」
「ふむふむ」
「その何かの正体は不明だけれど、『鎌狐』は技術供与と引き換えに、素材の発見と確保、出来上がったアイテムの融通を求めたようね」
「なるほど」
こういっては何だが、実にマトモな話である。
だがしかし、今となってはゼンゼたち『鎌狐』の主要メンバーは『ダマーヴァンド』で永久石化して、キャラロストしてしまっている。
新しいキャラを作って再びと考えても、相当の時間がかかる話になるだろう。
となると立ち消えたか?
「でも羽衣も知っての通り、『鎌狐』の上位メンバーはアレだし、物が物だけに下位メンバーは情報を持っていなかったようね。だからこの話は、今となっては『鎌狐』が関わらない形で、サクリベス独自に進めているみたい」
「そうなりましたか」
「で、この件で一番ヤバいと言うか、真偽が少々不確かな話なんだけど……聖女アムルは最初から『鎌狐』から情報を取るだけ取って、肝心の完成品は渡す気がなかった。と言う話があるのよね」
「それはまた……」
立ち消えはしなかったようだ。
けれど聖女アムルの行動を受けて、私の頭の中のザリチュが叫んでいる気がする。
こう……『聞いたでチュかたるうぃ! これがあの糞ビッチ傲慢陰険狡猾強欲嫉妬極まる放蕩にして淫乱な最低最悪聖の字の欠片もない似非聖女のやり口! 本性でチュよ! 正に外道! 許されざる振る舞いとはこの事であり、例え相手がぜんぜたち鎌狐であっても、やってよい事と悪い事があると言う事も分からないんでチュ! チュアアアァァァ! 何処かの糞牛がフローラルに思えるほどの汚物臭が漂ってくるんでチュよ!! この薄汚い蛆虫がぁ!! 塩を撒き散らして、未来永劫ぺんぺん草の一本も生えないようにするべきでチュ! 今すぐに! 今すぐにでチュよ!!』
「羽衣?」
「いいえ、何でもありません」
うん、正直ザリチュがうるさい。
「で、聖女アムルがどうする気だったかは分かったけれど、聖女アムルの動機はどうだったのですか?」
「その点については……あー、サクリベスを自分たちの手で守るためと言っているようね。何時までも何処かの誰かさんに頼るのはどうなのかと言う判断をしたみたい」
「
「ええ」
「だったら仕方がないですね。むしろ為政者としては当然かと」
「私もそう思うわ」
まあ、聖女アムルの動機については妥当なもので、未知もないが、為政者としては実に正しい物なので、問題ないだろう。
私や他のプレイヤーと言った不確定要素に頼る方が、よほど怖い話だ。
「話はこれくらいかしらね。さて、残り一週間もないけれど、何処まで鍛え上げ、対策を積めるかしらね」
「個人的な意見としては、結構いけると思いますよ。なので期待させてもらいますね。芹亜」
「羽衣の期待に沿えるかは分からないけど、まあ、お互いに頑張りましょうか」
「ええ、そうですね」
そうして、この場での情報交換は終わった。