<< 前へ  次へ >>  更新
941/941

941:アンエクスプロード・リージョン-5

「ふぅ、流石に量が多かったわね」

『でチュねぇ。けど、百体を超えていたから、仕方がないでチュね』

 戦闘そのものよりも、その後の回収と最低限の処理の方が時間がかかったかもしれない。

 私はそんなことを思いつつも、どうにか全ての竜呪の素材をドゴストの中へ納める事に成功した。

 さて、これだけあればザリチュたちの強化は支障なく出来るだろう。


『で、これからどうするでチュ?』

「んー、折角だから例の称号がないと通れないと言う壁とやらを見てから帰りましょうか。その周辺にショートカットも隠されているかもしれないし」

『分かったでチュ』

 支障なく出来るだろうが、折角ここまで来たのだから、他にも色々とやってから帰るとしよう。


「後、道中で竜呪を見かけたら狩りましょう。卵雲の竜呪も可能なら手に入れておきたいし」

『でチュか』

 と言う訳で私は『虹霓鏡宮の呪界』の奥地を中心に向けて移動していく。

 なお、その道中では渇猿の竜呪を主体とした群れがあったので、竜頭巨人の方をわざわざ実体化させて倒したり、眼宮個体の物よりも大きくなっていた卵雲の竜呪を毒殺して回収したり、こちらへ突っ込んできた虹亥の竜呪と淀馬の竜呪を始末したりして、素材の数はさらに増えていった。


「さて着いたわね」

『確かにたるうぃの森ではあるみたいでチュねぇ』

 そうして私は奥地の中心である森……毒々しい色合いの木々と黒く尖った砂によって構成された森へと辿り着いた。

 うん、確かにイベントで発生させてしまったあの森によく似てはいる。

 だがしかしだ。


『でもこの森はたるうぃではないたるうぃの物でチュね。それにざりちゅではないざりちゅの気配も感じるでチュ』

「ええそうね。見た目が似ているだけで、根っこと言うか純度がまるで別物ね」

 此処は私の森ではない。

 呪詛の霧は虹色ではなく普段通りの色であるし、熱と渇きも一般プレイヤーでも耐えられる範疇になっている。

 そして何よりも、一見すると乱雑で混沌とした自然な森であるが、よく見れば隅から隅まで手入れが行き届いた未知のない森であった。

 これだけでも私の趣味とは真逆と言っていい。


「まあ、管理者は火酒果香の葡萄呪と千支万香の灌木呪でしょうね」

『だと思うでチュよ。でも今のたるうぃ相手にあの二体は何処まで出来るんでチュかねぇ』

「そこは相手の手札次第。隠していた未知次第じゃないかしら」

 私たちは森の奥へと移動していく。

 すると直ぐに呪詛によって構築された壁のようなものが見えてきた。


「これが例の壁ね。さて……ふうん……」

 私は壁に手をかざしてみる。

 提示された情報は二つ。

 一つは、この先へ移動するためには『確立者』、『崩界者』、『到達者』、『越境者』、『不滅者』、『簒奪者』、『神狩りの呪人』、いずれか一つ以上の称号を有している必要があると言うこと。

 もう一つは、この先では無警告でキャラをロストする可能性がある攻撃が行われる場合があると言うこと。

 前者については、私だと『虹霓境究の外天呪』と言う称号にその四つの称号が含まれているため、何も問題はない。

 後者については……割と今更感がある気もする。


『行くでチュか?』

「止めておくわ」

『行っても勝てると思うでチュが……』

「確かにルナアポ他、持てる手札を全部切れば、余裕で勝てるとは思うわよ。でもそれは私の趣味じゃない。急ぐ案件でもないし、出来る強化はしてから行くべきよ」

『それもそうでチュね』

 まあ、今は放置で。

 要求されている称号が称号なので、他のプレイヤーが早々に入ってくることはあり得ないと断言できる場所であるし、この先に『虹霓鏡宮の呪界』そのもののボスがいる事もほぼ間違いない。

 であるならば、出来る限りの準備をしてから行くのが良いだろう。

 なお、ルナアポ使用の『竜活の(エサエルセド)呪い(セルブ)』頼みにしないのは、アレを使ってしまうと、乱雲光髄の外天竜呪のような規格外の化け物以外では勝負になるかも怪しいからである。

 ムミネウシンムの時と違って急ぐ必要もないのだから、無くても戦える可能性が生じるように準備を整えていくのは、未知を楽しむためにも必要な事だろう。


「さてショートカットは……ここね」

『ただの木の洞にしか見えないんでチュが?』

「見た目はそうねー」

 と言う訳で、私は壁から離れると、呪詛支配を利用して周囲にショートカットがないかを探る。

 結果、近くにあった、人一人は余裕で通れそうなサイズの木の洞が、ショートカットになっている事を発見。


『空間が歪んでいるでチュねぇ』

「それは当然じゃないかしら」

 私はその中に入り、黒一色で塗り潰されていると同時に、上下左右へ幾重にも折れ曲がった通路を移動していく。

 で、移動すること数分。

 私は魅了の眼宮から奥地へと繋がる通路へと顔を出した。


「微妙に長めだったのは、移動しながらミーティングの類をしろと言う事かしら」

『あるいはたるうぃが気づかなかっただけで、何かが潜んでいたのかもしれないでチュねぇ』

「ああ、それを避けるためにも、ああして折れ曲がっていた可能性もあるかもしれないわね」

 それから私は自室へと戻っていき、手に入れた素材の整理、解体、下処理を進めていったのだが……量が量であったため、丸二日ほど費やす事になったのだった。

<< 前へ目次  次へ >>  更新