938:アンエクスプロード・リージョン-2
「中々いい感じの群れは居ないわねぇ……」
『でチュねぇ……』
『虹霓鏡宮の呪界』の奥地を移動すること暫く。
魅了の眼宮の出口からそれなりに離れた場所にまでやってきたのだが、ちょうどよい竜呪の群れは見つかっていない。
正確に述べれば、規模がちょうどよい竜呪の群れは他のプレイヤー集団が既に戦っていて横槍になってしまう状況だったり、一度目の戦闘として手を出すには規模が大きすぎると感じたり、群れが居る場所に行きつくまでのルートを見い出せなかったり、と言った理由から相手を見つけられていない。
「仕方がない。この際群れの規模については目を瞑りましょう。切り札は幾つもあるんだから、いざとなれば何とかはなるわ」
『ま、そうするしかないでチュよね』
このまま時間を浪費していても仕方がない。
と言う訳で、私は他のプレイヤーと戦っていない竜呪の群れをとにかく見つけて、戦いを挑むことにする。
「居たわね。大規模な群れって奴かしら」
『そうなるんじゃないでチュか。牛陽3頭の時点で始めて見る規模でチュし』
そうして見つけたのは、背中に恐羊と恒葉星を何体も乗せた3頭の牛陽の竜呪を中心とした大規模な群れ。
総数は100以上、試練個体と眼宮個体の割合は1対1程度。
間違いなく大規模な群れと称されるものだろう。
そんな大規模な群れが、気絶の眼宮の荒れ地を主体とした地域をゆっくりと移動していっている。
「群れの主は……三姉妹って感じかしら」
『一番大きいのは特に気が強そうな感じでチュねぇ。
群れの主は女王様風の衣装を身に着けた、妓狼の竜呪の女性個体。
その傍には副官だろうか、少し質を落とした衣装を身に着けた妓狼の竜呪が二人居る。
他に妓狼の竜呪は……居ないようだ。
ちなみに姦しく何か喋ってはいるが、流石に距離が距離……1キロメートルは離れているので、声は聞き取れない。
「それじゃあ挑みましょうか」
『あ、本当に化身ゴーレム抜きでチュか……』
では挑もう。
「『
まずは小手調べから。
私はネツミテを錫杖形態に変え、その先端にルナアポの刃を生成して槍のようにする。
それを終えると、次は『熱波の呪い』を発動して、私の操る呪詛に攻撃判定を持たせ、それから直径1メートル程度の呪詛の星を……とりあえず108ほど発生させて、宙に浮かべる。
「行け」
『開幕から派手でチュねぇ……』
虹色に燃え盛る星々が竜呪の群れへと降り注ぐ。
が、所詮はただの呪詛の塊で、相手は試練個体も含む竜呪の群れであり、見た目こそ派手ではあるが、効果そのものはラリアット一発分入ったかどうかも怪しいくらいだろう。
「ここね。
だから本命は別にある。
呪詛の星の中に一つだけ本命を仕込んでおき、それが妓狼の竜呪の一体に重なったタイミングで、各種呪法を乗せた伏呪付きの『出血の邪眼・3』を撃ち込む。
そして、撃ち込まれた妓狼の竜呪から蘇芳色の蔓が群れ全体へと広がっていくのを目視。
『出血の邪眼・3』が十分に広がり、相手が攻撃されたと認識して反撃に出ようとするタイミング。
そのタイミングで……
「着火」
『えげつないでチュねぇ……』
私は始点として妓狼の竜呪の首を、ゼロ距離で発生させた呪詛の剣によって僅かに傷つける。
この攻撃によって生じたダメージによる出血が発動。
始点となった妓狼の竜呪の身体から爆発を伴う勢いで血が噴き出し、その血に触れた他の竜呪たちも体の一部が爆発、そして、その爆発がさらなる爆発を呼び……周囲に轟音を響かせる規模で爆発が発生する。
「突っ込むわよ」
『チュア? チュアアアアアアァァァァァッ!?』
さて、参の位階になった事で、伏呪には様々な状態異常が伴うようになったのが、今の『出血の邪眼・3』である。
しかし、この程度で壊滅するほど竜呪たちは軟な存在ではない。
だから私はネツミテを両手で持つと、最大速度で……音に近しい勢いで竜呪の群れへと突っ込んでいく。
「ーーー!」
「ー!?」
「死ね」
狙うは一点。
群れの長である妓狼の竜呪。
私には意味を聞き取れない言語で群れの立て直しを図っているようなので、此処で潰し、群れの長所を潰させてもらう。
「ちっ」
「「「!?」」」
が、直前で副官の方が気づき、長を突き飛ばす形で庇われてしまった。
ルナアポが副官の妓狼の胸を貫く。
だがそれで終わりではなく、ルナアポが突き刺さった事で速度が減じ、急ブレーキとなった事で、ネツミテの打撃部がまるで牙を使って相手に噛みつくように副官の妓狼の身体に当たり、その身体を原形を留める事を許さないレベルで粉砕し、爆散させる。
「「ーーー!」」
「まあ、問題は無いわね。どうせ全員仕留めるし。
と、流石はこの規模の群れを従える妓狼の竜呪と言うべきか、長妓狼は副官の死に動揺することなく、反撃のための指示を飛ばしつつ、自身は恐羊の竜呪の背後に向かって既に跳んでいる。
もう一人の副官の妓狼も私から距離を取りつつ、周囲へと指示を飛ばし始めている。
その中で私は三体の牛陽の竜呪、それぞれの脚を凝視しつつ、伏呪付きの『気絶の邪眼・3』を発動。
『気絶の邪眼・3』は問題なく発動し……。
「「「!?」」」
「そう言う訳だから、とりあえずひっくり返りなさい」
身体に素早く巻き付けた呪詛の鎖の動きも相まって、三体の牛陽の竜呪の巨体を、その背に居た他の竜呪たちごと宙に浮かべ、ひっくり返した。