929:ブリドパレス-2
「私でなければ死んでいたわね」
「体の七割近くが粉々に吹き飛んで、残りの部位もバラバラになっていたのに、そこから復活する貴方が言うと、説得力が凄まじいわね。タル」
はい、と言う訳で空を飛び、卵に触れて爆発の直撃を受けた私は、ザリアたちの居る場所に落とされた後、元の姿にまで再生した。
「ちなみに受けたダメージはどれぐらいだったの?」
「4,300ぐらいだったわねぇ……私は色々とダメージの軽減手段を持っているし、反射的に呪詛や身のこなしで防御した分もあったはずだから、本来なら5,000以上のダメージは確実に食らうんじゃないかしら」
「つまり、タル並みのHPがなければ、直撃はそのまま即死と言う事ね」
いやぁ、それにしても凄まじい威力だった。
不意を突かれたとはいえ、まさかたった一つの爆発でここまでのダメージを受けるとは思わなかった。
こんなものが地面だけでなく、空中にまで設置されているとは……仮称出血の眼宮、最後の眼宮だけあって、実に凶悪である。
「と言うかアレね。此処は地雷原じゃなくて機雷原だったわ。なんだそれと言われそうだけど」
「言いたいことはなんとなく分かるわ」
だが一番厄介なのは、やはり卵の圧倒的な隠密性だろう。
こうしている今も周囲には漂っていて、特に私が来るまで誰も触れていなかったであろう上空には大量に漂っているはず。
しかし、空の何処を見渡しても、卵の姿は見えない。
つまり、何かしらの視認阻害が行われていて、私であってもその姿を捉えられないと言う事だ。
「とりあえずこの場から移動しましょうか。後続がつっかえる事になりそうですし」
「そうだな。俺も戻ってきたし」
「「「いつの間に!?」」」
まあ、とりあえず移動はした方がいい。
そして移動するだけならば、現状分かっている情報でもなんとかはなる。
と言う訳でだ。
「では、斉射!」
「「「ヒャッハー!」」」
威力ではなく範囲を優先した遠距離攻撃を一斉射。
その攻撃に反応して姿が見えない卵が反応、爆発して、処分されていく。
これで一先ずの安全は確保した事だろう。
なので、私たちは入り口から少し離れた場所へと移動する。
「さて、それじゃあ感知系の全員に確認。それぞれの感知手段と卵が認識できるかを教えて。後、ブラクロはなんで最初は感知できたかも」
「視覚系ですが、反応なしです」
「呪詛支配の逆利用もすり抜けるわね」
「敵意感知、反応なし」
「音は当然ですが有りません」
「嗅覚探知は駄目だな。最初に分かったのは……なんとなく?」
「「「ブラクロェ……」」」
移動したところで改めて情報を精査する。
そしてブラクロの言葉で全員揃って嘆息した。
いや、何となくって……ブラクロだから、それで出来てしまうのは分かるけれど、何となくって……。
「タル。呪詛支配の逆利用って?」
「周囲一帯の呪詛を支配して、支配できない場所があるかどうかで調べると言う方法ね。今もやっているけど、引っ掛かるものがまるでないわ」
「ある種のアクティブソナーかしら? そう言えば超音波探査のようなものは……」
「反応が怖いのでまだやってません!」
ザリアに聞かれたので呪詛支配について説明しておく。
合わせて、指先からレーザー光のように直線的に呪詛を飛ばして、何か引っかかるものがないかと探ってみたが……やはり反応はない。
卵がないと言うより、すり抜けてしまっているような感覚である。
けれど先程の範囲攻撃が効果を示したり、私やブラクロが触れた事から分かるように、実体は間違いなく存在しているはずである。
「うーん、ちょっと無差別のダメージがない攻撃を試してみようかしら」
「そんなものが……あったわね」
私は一つ思いついたことがあったので、ドゴストから『瘴弦の奏基呪』を取り出して、置く。
『瘴弦の奏基呪』の姿を見たプレイヤーの何人かは顔をしかめるが、安心して欲しい、今回は味方であるし、攻撃の用途には使うが、ダメージはない。
「ザリチュ。恐怖限定で無差別演奏」
『分かったでチュ』
と言う訳で演奏開始。
『瘴弦の奏基呪』が音楽を奏で始め、聞いたものへと恐怖の状態異常だけを与えていく。
「効果があるのかしら?」
「うーん、どうかしらね。相手の状態異常耐性と姿を隠している呪いが能動的か自動的にもよるから、効果があるとは……」
「いや、効果ありみたいだぞ」
結果、効果はあった。
朧気であるが、周囲にブラクロが持ち上げ、私が触れたものによく似た卵が現れ始めた。
どうやら卵の認識阻害は能動的な物であり、自分にかけ続けなければいけないものであったようだ。
「これでようやく正体が掴めるわね」
「そうなるわね」
では鑑定してみるとしよう。
△△△△△
卵雲の竜呪 レベル40
HP:5,372/5,372
有効:毒、出血、恐怖
耐性:魅了
▽▽▽▽▽
「卵雲の竜呪。やっぱり竜呪だったわね」
「卵雲と言う事は、もしかして成長すると……」
「まあ、途方もない年月を経れば、そうなる可能性もあるんじゃないかしら」
鑑定の結果、やはり卵はカースだった。
これが何千年とかけて成長すれば乱雲光髄の外天竜呪に近しい存在になったりするのかもしれないが……それは脇に置いておくとしよう。
「さて、問題はこれをどうやって爆発させずに倒すかね」
「まあ、そこよね」
今考えないといけないのは、ほんの僅かな攻撃、あるいは接触だけで爆発して、残骸の一つも残さずに消え去ってしまう卵雲の竜呪を、どうやって死体が残るように倒すかである。
では、色々と試してみるとしよう。