928:ブリドパレス-1
「突入!」
「「「ヒャッハー!!」」」
「……。タルまで言うのか」
シロホワのバフを受け、ザリアの号令と共に、私たちは仮称出血の眼宮へと突入していく。
そうして突入した先で見えたのは?
「うわっ、なんか懐かしい光景が……」
「ビル街そっくりだな」
「あー、こうなるのね」
「此処でまさかの初期マップとは」
初期マップでもあるビル街にそっくりの街並みであった。
なお、乱雲光髄の外天竜呪と戦った舞台と違い、地表は普通のアスファルトの道路である。
「ビルが壁のようにそびえてるわね。でもビルと言う事は中にも入れるでしょうし……」
「ビル同士が中で繋がっている可能性もありそうだよな」
「これ、思っている以上に複雑な構造になっているかもしれないわね」
では詳細。
ビル街にそっくりではあるが、ビル街との違いも多い。
具体的に言えば、どのビルも基礎がむき出しではあるが、ボロボロではない。
高さは精々が5階建てから10階建て程度で、少々低め。
交差点が見えず、ビルの中を通過して移動する事が前提となっているように思える。
こんな感じだろうか。
「んー、敵の姿が見えないわね。ザリア」
「試練の報酬だったら、ここで敵の竜呪と戦って、勝ったら解放と言う条件付きだったわ。だから情報は無いわよ」
「なるほど」
問題は敵の姿が一切見えない事だろうか。
私は360度あらゆる方向を見ているし、単純な視覚だけでなく、呪詛の流れも見ているのだが、特に引っかかるものはない。
しかし、眼宮の仕様的に私たちの侵入と同時に敵は出現しているはず。
なのに見えないとなると……認識阻害の類だろうか?
「おっ、もしかしてこれじゃないか?」
と、ここでブラクロが何かを見つけたらしい。
全員の注意がそちらへと向けられる。
「見てくれ、なんか卵みたいなものが……」
ブラクロが屈み、持ち上げたのは、人の頭ぐらいの大きさがある卵によく似た形の物体だった。
色は黒に近い蘇芳色。
表面にはどこに置かれても転がったりしないと言わんばかりに、六個の突起物が存在している。
そしてブラクロが持ち上げ、衆目に晒された事で、私たちに発見されたと認識したのだろうか。
卵は真っ赤に輝きだし……。
「あっ……」
「「「ブラクロェ……」」」
「兄ぇ……」
「……。守る!」
爆発した。
「げほっ、げほっ、結構な火力だったわね……」
「そうね。卵型の爆弾だと認識していいような火力だったわ」
爆炎はブラクロだけでなく、周囲数メートルの範囲を飲み込み、爆風はそれ以上の範囲に撒き散らされた。
咄嗟にロックオを含む盾役のプレイヤーたちが守ってくれたので、事なきを得たが、直撃を受ければ私でも危険だったかもしれない。
しかもただの爆発ではなく、状態異常を伴っているようで、私は無影響だったが、他プレイヤーは毒、灼熱、気絶、沈黙、恐怖、石化と言った状態異常を僅かだが受けているようだ。
「ロックオさん、回復しますね」
「……。頼む」
「ブラクロは?」
「綺麗に消し飛んだみたいだな」
「いやぁ、見事なうっかりだ……色んな意味で洒落にならねぇ」
なお、至近距離で爆発を受けたブラクロは影も形もない。
ザリアの色々と確認している様子からして、死に戻りしたようだ。
まあ、どうせここは眼宮の入口であるし、死後に残る呪いの類でもなければ、直ぐに戻ってくる事だろう。
「でもブラクロの犠牲で分かった事があるわ」
「ええそうね。誰かが言ったけれど、洒落にならないわ。此処」
「「「……」」」
そして、ブラクロよりも気にするべきは、この眼宮の攻略を如何にして行うかだ。
ギミックも不明だが、それ以上に敵が危険すぎる。
ブラクロが卵を持ち上げた時、私たちは全員が周囲を警戒していた。
けれど、卵を見つけられたのはブラクロだけだった。
つまり、あの卵は何かしらの認識阻害を持っている事になる。
「……。地雷原か」
「あるいは大量の爆弾が仕掛けられた内戦地域、でしょうか」
「出血らしいと言えば出血らしい眼宮ではあるけどさぁ……」
そんな認識阻害を持っているのに、持ち上げられただけで卵は爆発した。
と言う事は、気づかずに踏みつけたり、触ったりしただけでも爆発する可能性が高い。
そう、ロックオの言う通り、この眼宮を一言で述べるならば、地雷原なのだ。
「どの程度の衝撃で爆発するかが問題よねぇ……」
「直接接触と攻撃は確実にアウトだとして、タルの羽ばたきに伴う僅かな風とかがどう判断されるかも気になるところよね……」
なお、耳をよく澄ませてみれば、遠くの方から爆音のようなものが聞こえてくる。
どうやら先行したプレイヤーたちも同様の被害にあっているらしい。
「とりあえず私は離れるわ」
「そうね。頑張って。後、敵の情報が掴めたら、掲示板に上げて貰えると助かるわ。現状だとブラクロ以外は誰も敵を掴めていないようだから」
「言われなくても。まあ、期待はしないで待ってて」
私はその場でゆっくりと羽ばたき、少しずつ体を上昇させていく。
このままザリアたちから離れる事が出来れば、周囲を気にせず色々と出来るようになるはずである。
「ん? あっ……」
『あ、やらかしたでチュ』
「「「あっ……」」」
そうして20メートル程上昇して、横方向の移動を始めようとした時だった。
私の右手が何かに触れ、右手の甲に付いている目で触れたものを見てみれば、それは卵型の物体であり、既に真っ赤に輝き出していた。
「アバアアァァッッ!?」
「タアアアァァァァル!!」
私の身体が爆炎に包み込まれたのは、その直後の事だった。