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926:タルウィブリド・3-7

「あー、うん、まるで見えていなかったと言うのがよく分かるわ」

『本当でチュねぇ……』

 私の支配する呪詛を浴びせかける事で、支配の及ばない場所……乱雲光髄の外天竜呪の力がある場所を浮かび上がらせ、本来の姿が目視できるようにする。

 それをやった結果として見えてきたのは、四本脚だと思っていた乱雲光髄の外天竜呪には紫外線や赤外線で出来た、通常の目では目視出来ない脚が一対あった事や、体の各部の突起物から直線的に力が伸びている事、それに黒い部分は生命維持という観点においては実態がほぼ存在していない事、などなどが浮かび上がってきた。


『つまりどう言う事かしら?』

「こいつ、光が集まって骨の形を成している龍だったのよ。普通のゲームなら、光属性のボーンドラゴンと言う感じかしら」

『それはまた意味不明な存在ね……』

 つまるところだ。

 乱雲光髄の外天竜呪はどちらかと言えばアンデッド……それもスケルトン系列に近く、肉は目くらまし、あっても力を効率よく蓄えるための補助装置と言うところか。

 まあ、とりあえずは攻撃は肉ではなく骨に当てなければ意味がないと分かっていれば、問題はない。


「そうね。ザリアにも私が見ているものを見せるから、目の周りの呪詛を……」

「ーーーーー!」

『そんな余裕はないから、タルの方で上手くやって』

「分かったわ」

 乱雲光髄の外天竜呪が再び尾の突起物から閃光を放とうとする。

 が、発射した直後にザリアが接近し、突起物を攻撃して、攻撃を中断させる。

 私はそんなザリアの頭の位置を確認し、その目の位置を推定し、ザリアの目の前にある呪詛へ干渉して、レンズに像を映し出すように私が見ているものをザリアにも見えるようにする。


「これでどうかしら?」

『なるほど。時々妙に肌がピリつくと思ったら……で、これってただの技術なの? 呪術じゃなくて』

「ただの技術よ」

『そっちの方が驚きかもしれないわね』

「ーーーーー!」

 攻撃を中断させられた乱雲光髄の外天竜呪がこれまでよりも激しいペースでザリアへと攻撃を仕掛ける。

 その中にはこれまで知らずに受けていたであろう紫外線を束ねた爪などもあったようだが、ザリアは全ての攻撃を避けて接近し、これまでよりも効率よく出血のスタック値を溜めていく。


「ーーーーー!」

「後はこの声だけど……」

『いやこれ、ただの咆哮でチュよね』

「無意味であるなら、それはそれで無意味と言う意味があるのよ。意味があるなら、苛立ち、怒り、驚き、呆れ、色々と思い浮かぶけど、言語と言う形になっていなくても、それらの感情が含まれているなら、それは理解可能なものよ」

 正直今のザリアの動きに合わせて視覚補助と足場の生成を同時進行でやるのはかなり厳しい。

 その上で他にも何かやれと言うのは、無理難題にもほどがある。

 が、求められているのが限界である以上は、可能な限りの理解は進めるべきだろう。

 と言う訳でルナアポを生成し、ルナアポに触れる乱雲光髄の外天竜呪の声から、思念の抽出を試みる。


「ーーーーー」

「……」

『何か分かったでチュか?』

「ええまあ、歓喜、喜び、愉悦、全体的に喜びと楽しみの感情に満ちていて……なんと言うか、バトルジャンキーな感じがあるわね。それ以上に超えられるものなら超えてみろと言う期待も感じるけど」

 そうして理解できたのは、乱雲光髄の外天竜呪が正しく試験官であると言う事実。

 私たちが試練を超えられることを楽しみにしていると言う、期待の感情が主となっているようだ。

 そこまで求められていると言うのであれば……私も死力を尽くそうと思える。


「いいでしょう。だったら宣言するわ。蘇芳色の星と蔓によって、貴方の死を一気に近づけてあげる! citpyts(シトピィトス)出血の邪眼・2(タルウィブリド)』!」

 なので私は乗せられるだけの呪法を乗せた『出血の邪眼・2』を撃ち込む。


『合わせるわ!!』

 同時にザリアも何かしらの呪術を発動し、乱雲光髄の外天竜呪の身体を駆け巡る蔓を追いかけるように幾度も切り付け、出血のスタック値の上昇を一気に高めていく。


「ーーーーー!!」

 そうして出血のスタック値が溜まってきている事を理解した上で、乱雲光髄の外天竜呪も行動。

 全ての突起物へと急速にエネルギーが集められていき、その色が赤、橙、黄、緑、青、紫の六色を通り越して、白へと近づいていく。

 もはや二度目の核融合モドキが放たれるまでの猶予は幾許も無いだろう。

 どうやら私の理解が進んだことが分かっているがために、一気に勝負を付けに来たようだ。


「ザリア!」

 そして、このままではやはり威力が足りない。

 出血のスタック値そのものもそうだが、今のザリアの細剣では起爆時の威力が足りていないように思える。

 ザリアの持つ呪術の詳細までは分からないが、与えた出血のスタック値をさらに増やした上で爆発させるフィニッシュの一撃の威力は、高ければ高いほど効果も増していくはず。


「使いなさい!!」

「使えって……重っ!?」

 だから私はザリアに接近し、ザリアの体の呪詛と私の呪詛の一部を混合し、ザリアに合わせたルナアポを生成する。

 出来上がったそれは見るからにボロボロで、一度振るえば壊れてしまうのは誰の目にも明らかだった。

 だがそれで問題ない。


「訳が分からないけど、やってやろうじゃない。咲き誇りなさい。『蘇芳色(ブラジリン・)の曼殊(リコリス・)沙華(ラジアータ)』!」

 ザリアの握る細剣状のルナアポが核融合モドキを放つ直前の乱雲光髄の外天竜呪の額に突き刺さり、黒い積乱雲のような肉を突き破り、その先にある光を束ねて骨の形にした部分……その中でも特に大量の呪いが集まり、核とでも言うべき箇所になっていたところへと突き刺さる。

 それによってザリアの呪術が効果を発揮。

 乱雲光髄の外天竜呪に与えられていた出血のスタック値を何倍にも増幅した上で、起爆させようとする。


「狂記外天:森羅狂象・初稿-ルナアポクリフ:オルビスインサニレ・ターゲスアンブルフよ! その身に秘められし変化を開放しなさい!」

 その起爆する瞬間、私はルナアポが秘めている力を無制限に開放。

 ザリアの行為に伴う変化を増幅して、起爆しようとしていた出血のスタック値をさらに膨れ上がらせる。


「!?」

 結果、正確な数字は分からないが、恐らくは数千億あるいは数兆にも及ぶかもしれない量の出血のスタック値が解放され、さらには解放された力と乱雲光髄の外天竜呪が集めていた力も合わさって……。


「あ、ごめん。『虚像の呪い(ラエルセルブ)』」

「あ、死んだわ私」

 私の視界は暴力的と言う言葉すら生ぬるいほどに白い光に包まれた。

05/23誤字訂正

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