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923:タルウィブリド・3-4

「さて、ザリアが何をやるにしても足場は必要よね」

「ええ。牽制の針はともかく、きちんとした火力を出すためには、相手に近づく必要があるわ。でも、足場なんて……」

 龍はまだ次の行動を見せていない。

 ならばこの間にやれるだけの準備を済ませ、こちらから素早く攻めるべきだろう。


「じゃあ、準備するわ。『熱波の呪い(ドロクセルブ)』」

「……。やろうとしている事は理解したわ」

「続けて『砂漠の呪い(トセロフセルブ)』、『(ザリチュラット)』、『不明の呪い(イチラルセルブ)』、『選択する呪い(イッァウクセルブ)』」

「助けてもらう身分で言う事じゃないけど、友人が人間を止めすぎている件について……」

『気持ちは分かるでチュよ。ざりあ』

 と言う訳で、ネツミテたちの呪術を発動。

 当たり判定を持たせた呪詛を押し固めて床のようにすると共に、連絡用の鼠ゴーレムをザリアに持たせる。

 で、ザリアの周囲の私を認識しづらくすることによって、ザリアが龍から認識されにくいようにする。

 それと私の周囲から離れても、龍の周囲に展開されていそうな殺人的な呪いから身を守れるように呪憲による守りも張っておく。


「じゃ、頑張って。私も他に支援が可能か試してみるから」

「分かったわ」

 準備が整ったところでザリアが宙に向かって駆け出す。

 そのまま行けば、ザリアの身体は重力に引かれてビルの下へと落ちていくが、その前に私は呪詛の床を作り出し、ザリアはそれを踏みつける事で、龍に向かって一直線に駆けていく。


「ーーーーー!」

『タル!』

「言われなくても!!」

 そんなザリアを見て龍が動き出す。

 口を大きく開け、その奥から莫大な光量のブレスを放とうとしている。

 私はザリアの呼びかけに応じて、ザリアの周囲複数個所に足場を作り出し、ザリアが自分の意志で自由な位置に跳べるようにする。


「さ、私も出来る範囲で仕掛けてみようかしら! etoditna(エトディトナ)毒の邪眼・3(タルウィベーノ)』!」

 と同時に、動作キーによって『竜息の呪い(クニルドセルブ)』でルナアポを射出しつつ、着弾に合わせて『毒の邪眼・3』を龍に向かって撃ち込む。

 結果は?


「ー……!?」

『タルウゥ!? ちょっと周囲への影響を考えて欲しいんだけど!?』

 龍にルナアポの切っ先だけは刺さり、ほんの僅かにだが情報が私へと流れ込んできた。

 だがそれだけだ。

 ルナアポ射出の効果は、撒き散らされる衝撃波によってザリアの体勢を乱す悪影響の方が大きく、ダメージはほぼ無し。

 『毒の邪眼・3』については完全に弾かれた。

 龍のブレスを止める事も出来ていない。


「あー、ごめんなさい。でも、少しだけ情報が取れたわ。相手の名前は乱雲光髄の外天竜呪。乱れ雲の光る骨髄、と言うところかしら」

『……。相手の本性は積乱雲か何かかしら?』

「かもしれないわね」

 取れた情報は相手の名前。

 乱雲光髄の外天竜呪と言うらしい。

 しかし、外天竜呪か……。

 外天呪()の亜種か何かだろうか?

 とりあえず言える事としては、もはや試練個体ですらなく、特別製の相手である、と言う事だろう。


「ーーー!」

「っ!?」

『くっ!?』

 そんな乱雲光髄の外天竜呪がブレスを放つ。

 ザリアは既に射線上から離れていて、私も認識阻害効果を利用して射線から離れてはいた。

 だが、乱雲光髄の外天竜呪から放たれた太い光線は進路上にあったものを全て消し飛ばし、周囲へとルナアポの射出に勝るとも劣らない衝撃波を撒き散らす。

 合わせて肌がヒリつくような感覚も覚える。

 どうやら、紫外線の類をまた撒き散らしているようだ。


『辿り……着いたわ!』

 けれどそうやってブレスを放っている間に、乱雲光髄の外天竜呪の真横にまでザリアはたどり着いている。

 そして、細剣を真っ直ぐに構え、刃に呪詛を貯め込む。


「合わせるわ! citpyts(シトピィトス)出血の邪眼・2(タルウィブリド)』!」

 ザリアの呪術ならば、出血を相手に与えるものであるはず。

 私はそう判断して、ザリアの攻撃に先んじて乱雲光髄の外天竜呪へと『出血の邪眼・2』を撃ち込む。


『助かるわ!』

「!?」

 そうしてザリアの攻撃が乱雲光髄の外天竜呪へと撃ち込まれた。

 数度の斬撃の後に突きが放たれ、最後の突きに伴って爆発のようなエフェクトが生じ、乱雲光髄の外天竜呪を大きく仰け反らせる。


「ーーー……」

「ちっ、流石に一回じゃ駄目ね」

『なるほど、確かに乱雲で光の骨髄ね。でも、威力が足りていないわね』

 エフェクトの後に現れたのは、光り輝く竜の頭の骨。

 けれど、直ぐにその光り輝く竜の骨を覆い隠すように黒雲のような胴体が盛り上がっていき、元の姿を取り戻す。

 厄介なのは、そうして元通りになったのが見た目だけでなく、中身も含めてであろう事だろうか。

 つまり乱雲光髄の外天竜呪を倒すためには、一撃で全身を吹き飛ばし、消し飛ばさなければいけないわけだ。

 そういう意味では『出血の邪眼・2』を強化する試練としては適切なのかもしれない。


『タル。出血のスタック値を重ねられるだけ重ねるわよ!』

「言われなくても分かっているわ。citpyts(シトピィトス)出血の邪眼・2(タルウィブリド)』!」

 さて問題は……この程度で私が『虹霓境究の外天呪』の役目を果たしたとは言い難い事。

 そして、死力を尽くしたとも言い難い事。

 たぶん、何かがまだ来るはずだ。


「ーーー……」

「さあ、何が来るかしらね?」

『顔が見えないのに笑みを浮かべているのが分かるのが、何とも言えないわね……』

『これだからたるうぃはたるうぃなんでチュよ……』

 私が警戒する中、乱雲光髄の外天竜呪は咆哮を上げ、合わせて尾の突起物だけが六色に輝き始め……。


「ーーー!」

「「!?」」

 尾から閃光が放たれた。

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