920:タルウィブリド・3-1
「日曜日ね」
「日曜日でチュね」
日付が変わって本日は日曜日である。
さて、今日やる事は既に決まっていると言っていいだろう。
「今日は『
「ええ、その通りよ。と言う訳で早速素材集めのために、『虹霓鏡宮の呪界』巡りと行きましょうか」
「分かったでチュ」
と言う訳で、日課をこなした私は『虹霓鏡宮の呪界』へ移動し、12の眼宮に生息する竜呪を撃破、死体を確保し、素材を回収する。
なお、素材の確保で最も苦戦したのは、死体が残らずにメッセージ添付で分配される牛陽の竜呪。
物欲センサーが仕事をしたらしい。
「えーと、ここがこうで、それがこうで……」
「た、たるうぃが珍しく事前計画を練っているでチュ……チュアアアァァァッ!? ちょ、いきなりなんでチュか!?」
「ザリチュが馬鹿な事を言うからでしょー。それと、今回は物が物だから、改めて頭に構造を入れておきたいのよ」
「でチュかぁ……」
そうして素材が無事に集まったところで、今回の強化アイテムについて確認。
それとザリチュは抓っておいた。
「じゃあ、やっていきましょうか」
「分かったでチュ」
では加工開始。
鼠毒の竜呪の尾の鱗を剥ぎ、粉末状に加工。
牛陽の竜呪の角を削って小さくし、特殊な形状にした上で、牛陽の竜呪の枝葉と組み合わせる。
虎絶の竜呪の牙を削ると共に形を整え、針のようにする。
兎黙の竜呪の骨の内側を削って、小さな筒のような形にする。
『収蔵の劣竜呪』ザッハークの木炭、『収蔵の劣竜呪』ザッハークの硫黄、『収蔵の劣竜呪』ザッハークの硝石、この三つに私の血を加えて、適切な分量になるように調合。
蛇界の竜呪の赤角と紫角を削り組み合わせて、内側に螺旋状の溝を持つ筒にする。
淀馬の竜呪から回収した淀みを使って、全体的な呪いを強化する。
恐羊の竜呪の墨袋を破り、中の墨と最初に作った粉末を混合して、塗料のようにする。
渇猿の竜呪の泥を使って外部構造を作り、渇猿の竜呪の骨で内部機構を作る。
暗梟の竜呪の脂塊に黒招輝呑蛙の油を少しだけ混ぜ合わせ、全体の噛み合いをよくする油にする。
妓狼の竜呪の髪……正確にはエヴィカ製のそれを組み立て時の留め具として用意。
虹亥の竜呪の甲殻に『ダマーヴァンド』の毒液を染み込ませた上で、ガスを生じさせないようにどんぐり型にする。
恒葉星の竜呪の目玉を照準機構として使えるように加工。
「流石に時間がかかるわねぇ……」
「そりゃあ、これだけ複雑な機構なんでチュから、当然でチュよ」
そうしてそれぞれの素材の加工が完了したら、これらの加工品を適切な位置に適切な具合で配置し、組み上げていく。
「ふう、完成ね」
「本当に長かったでチュねぇ……」
やがて出来上がったのは、たった一発の銃弾だけが装填されていて、次の弾を装填するどころか排莢する事すらも出来ない、使い捨ての拳銃。
私は本物の銃と薬莢の構造や原理には詳しくはないが、呪いを活用したこの品であれば、多少の原理法則は無視して、弾を一発撃ちだすくらいは出来る事だろう。
で、気が付けば持ち手の部分に蘇芳色のトラペゾヘドロンが埋め込まれているが……まあ、気にしてはいけない。
「まあ、ある意味で本番はこれからかもしれないけど」
「まあ、そうでチュね」
私は拳銃を呪怨台に乗せる。
「私は第三の位階、真なる神の面影を見ゆる事が許される領域へと赴くことを求めている」
部屋中が虹色の霧に満たされる。
「得るを望むは、未知なる地平を切り開き、既知の領域を押し広げる力。それは敵対者の血を以って、己が領土を赤く染め上げて宣誓する行い」
虹色の霧が13本の柱と言う形で結集し、液状化し、私と呪怨台を取り囲むように移動した上で、螺旋状に曲がり始める。
「
虹色の柱が拳銃へと飲み込まれていく。
「変化を手にするべく、私は虚無と混沌の狭間にて試練に相まみえ、血を流す。我が血と相対すものの血を以って、未知を既知とするべく綴る」
何処かからかため息のようなものが聞こえた。
笑い声も聞こえた。
怒れる声も、無関心な声も、恐怖に怯える声も、他にも様々な声が聞こえた。
意味なく聞こえて、弾けて消える。
「さあ行きましょうか。剣の如き蘇芳の彗星よ。壁を撃ち破れ。
それら全てを無視して、私はルナアポを構え、乗せられるだけの呪法を乗せ、伏呪を含む『出血の邪眼・2』を呪怨台の上にある拳銃へと放つ。
虹色の柱が一瞬だけ蘇芳色に変わり、飲み込まれ、そして変化は止まった。
△△△△△
呪術『出血の邪眼・3』の拳銃
レベル:?
耐久度:?/?
干渉力:?
浸食率:?/100
異形度:?
解析不能。
分かっているのは、これは武器ではなく、何かを呼び込むための危険物である事だけである。
▽▽▽▽▽
「あ、仮称裁定の偽神呪が諦めた」
「そりゃあ諦めたくもなるでチュよ」
出来上がったのは、全体的に虹色の光沢を有し、銃身に竜に似た何かが装飾として刻まれ、持ち手に蘇芳色の宝石があしらわれた黒色の拳銃。
濃密な力を帯びているが、ルナアポと同様に、その力は呪いではないようだ。
「まあいいわ。早速挑みましょうか」
「とんでもない地獄になりそうな予感しかしないでチュね……」
私は戦闘準備、掲示板書き込み、録画の開始と言った必要事項を終えると、胸の目に銃口を押し当てる。
そして引き金を引くと同時に、私は虹色の霧の中へと倒れこんだ。
05/17誤字訂正