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915:タルウィペトロ・3-5

「石化、毒、灼熱に干渉力低下。どれも効果は軽微だが、密度が問題だな」

「そうね。実に厄介だと思うわ」

「ブタレットオオォォ!!」

 地竜は甲殻をばらまきながら走り続けている。

 ばらまいた分だけ背中の甲殻は薄くなりそうなものだが、強力な再生能力によってばらまく端から新しいのが生えているようだ。

 そして、ばらまかれた甲殻は与えるスタック値こそ軽微ではあるが、様々な状態異常をもたらすガスを噴出し続けているらしく、スクナにその影響が出始めている。

 私は……このガスが重めで、地表近くに滞留している中で空を飛んでいるのと、生じる状態異常に対する耐性が高いので、影響は全く受けていない。


「スクナ、これを一度鑑定しておいて」

「なんだその奇妙な……ああいや、そうか、必要だったら使わせてもらう。幾つある?」

「一個だけ。だからどちらかが戦闘不能になりそうになったら使いましょう」

「分かった」

 この状況下だと、私よりもスクナの方が拙い。

 私はそう判断してゲーミングジャーキー……蛇界の竜呪の一本ジャーキーをスクナに見せ、鑑定させておく。

 これでいざという時の回復手段が一つできた。


「ブモモ……ブゥストオオオォォ!!」

「っ!? 『熱波の呪い(ドロクセルブ)』!!」

「これは……!?」

 と、ここで地竜が急加速してこちらに迫ってくる。

 そのスピードはこれまでの倍以上は確実にある。

 私は『熱波の呪い』によって呪詛の鎖に当たり判定を持たせ、自分を引きずり上げる事で緊急回避。

 スクナは……


「ふんっ!」

「ブミョウ!?」

「おおっ……流石と言うかなんと言うか……」

 手にした槍で地竜の横っ面を叩くことで突進の軌道を逸らしてみせたようだ。

 代償として槍が持ち手の途中から折れてしまっているが、流石と言うほかない。


「ブゴウウッ!?」

「タル!」

「分かってるわ!!」

 そして、謎の加速と起動逸らしが合いまった結果、地竜は闘技場の壁に激突。

 足を止めた上に、上体を大きく反らすと言う、ここまでで最も隙がある姿を見せる。

 それは攻撃のチャンスに他ならなかった。


「『暗闇の邪眼・3(タルウィダーク)』!」

 なので私は『暗闇の邪眼・3』による攻撃を行いつつ、呪詛の鎖による拘束を試みる。

 結果、地竜は上体を反らした体勢のまま、その動きをほんの僅かな時間だが止める事となった。

 その僅かな時間は私を含め、殆どのプレイヤーにとっては無いも同然の時間だったが、この場においては……スクナにとっては十分すぎるほどの時間だった。


「でかした」

 スクナは地竜が壁に激突する前から既に動き出していた。

 持ち手が折れて、ただの棒となってしまった槍を地面に向かって投げ、その槍が投げられた勢いによって直立するタイミングで柄に乗り、上体を反らした地竜の首に向かって跳ぶ。

 そして首の真横に辿り着いたスクナは素早くインベントリから刀を取り出すと、地竜の体の上と言う不安定なはずの場所で居合の姿勢を取った。


「……」

「!?」

「おおっ……」

 一閃。

 地竜の首が刎ねられ、頭が飛ぶ。


「でも終わらないようね」

「そのようだ。まあ、タルもそういうカースなのだから、驚く事ではないが」

「ブルル……」

 が、戦闘は終わらない。

 倒れた地竜の胴体は素早く体勢を立て直すと、切り落とされた自分の頭を飲み込み……あっという間に再生してみせる。

 ダメージがないわけではないようだが、首を落とした程度で死ぬカースではなかったようだ。


「ブモオオオォォォ!!」

「さて、もう一度先程の急加速してくれれば、また壁にぶつけ、今度は脳天から尾の先まで断ち切ってやろうとも思うが……どうだ?」

「んー……」

 地竜は鉄紺色のガスを噴き出して加速しつつ、背中の甲殻をばらまきながらの終わらない突進を再開する。

 私もスクナも勿論それは容易に回避するが、さて、スクナのリクエストにはどう答えたものだろうか?


「状態異常耐性がある意味でガチガチなのよねぇ……」

 地竜に状態異常は通じない。

 たぶんだが、どの状態異常を撃っても無効化されるか、効果を発揮する前にガスとして噴出させられるかだろう。

 この分だと、『石化の邪眼・2(タルウィペトロ)』もただ撃つだけでは駄目だろう。


「加速の原因は……なるほど。自分の甲殻ね」

「甲殻? ああ、そういう事か」

「ブタレットオオオォォ!!」

 先程の急加速の原因は……地竜がばらまいた甲殻の数が、急加速の前後で数が合わない事から察した。

 恐らくだが、地竜は自分がばらまいた甲殻を食べる事によって、急加速をする事が可能になるのだと思う。

 なので、それを利用すれば急加速させるもさせないもこちらが選べるわけだが……。


「硬く、重く、おまけにガス。私が動かすのは厳しいな。破壊は出来るが」

「破壊できるだけでも十分おかしい気がするわ。noitulid(ノイツリッド)石化の邪眼・2(タルウィペトロ)』」

 情報が足りない。

 と言う訳で、スクナが試しに甲殻に向けて刀を振るい、破壊が可能であることを確かめている中、私は『石化の邪眼・2』を地竜の進路上にある甲殻に向けて撃ち、虹色の甲殻を石灰質の物に変化させる。

 そして地竜は食べ……。


「ブミョッ!?」

「ごぶうっ!?」

「選り好みするのか」

 ……ずに、素早く首を振り、私に向かって撥ね飛ばす。

 その行動を予想出来ていなかった私は甲殻が頭に直撃し、吹っ飛ばされるが、『遍在する内臓』のおかげで死んではいない。


「ブモオオオオォォォ!」

「くっ、私でなければ死んでいたわよ……」

「何かはありそうだが、こちらの面で出来る事は無いか。普通の甲殻を動かせれば、相手の口に向かって放り込み、強制加速させるのだがな……。さてどうしたものか」

 だが食べなかったと言う事は、自分の物でない甲殻を食べれば、良くない何かがあるのかもしれない。

 それの内容次第では、急加速させてから壁に激突させると言うリスキーな戦法を取らなくてもよいかもしれない。

 仮定ばかりだが、狙う価値はきっとあるはずだ。


「スクナ! とりあえず3分ちょっとは持ちこたえて!」

「分かった! その間に終わっても文句は言うなよ!!」

「ブウウゥゥストオオォォ!!」

 いずれにせよ、CTの都合上、後3分ちょっとは邪眼術は使えない。

 今は地竜が自分の甲殻を食べて急加速し、スクナがそれに超人的な技量でもって対処をしているが、私にはそれを見ている事以外に出来る事は殆どなさそうだった。

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