911:タルウィペトロ・3-1
「ログインっと」
『今日は平和な状況でチュねぇ』
「仕掛けてきそうなのが全滅したおかげね」
土曜日。
私は『CNP』にログインした。
で、一応周囲を確認。
ゼンゼが飛ばしてきたような呪いもないし、何かアナウンスが入るようなこともないし、『ダマーヴァンド』に何かを仕掛けられているような感覚もないし、ザリアからメッセージが飛んできていたりもしない。
うん、実に平和である。
『で、今日は『
「何事もなければその予定ね。戦争報酬で得たアイテムの確認はまだだけれど、それを使えばたぶんいけるはずよ」
平和を確認したところで、いつもの作業を開始。
こちらも実に平和である。
合わせて掲示板の確認をザリチュにしてもらったが、こちらも問題なし。
保管庫に置いておいた元ゼンゼたちの石像も変化なしである。
『……。噴水をスルーしたのは良いんでチュか?』
「アレを探るのは、出来れば『劣竜式呪詛構造体』のアップグレードが済んでからにしたいのよね。なんというか迂闊に触れたら、私もゼンゼたちと同じ目に合いそうな予感がするのよ」
『たるうぃが主じゃないんでチュか?』
「私が主だけど、ザリチュと同じで私への忠誠を誓っているわけではなさそうなのよ」
『でチュかー』
なお、噴水の中にある核には触れないでおく。
触らなければ安全なのは確かなので、触れるならば入念な準備を整えてからにしたい。
「じゃ、戦争報酬の確認と行くわよ」
『分かったでチュ』
では、昨日の戦争の報酬を見ていこう。
と言う訳で、メッセージからアイテムを実体化させる。
結果、使い捨ての小瓶に入った琥珀色の蜂蜜と、大きさが私の身長ほどもある立派な蜜色の肉、この二つが出て来た。
「は? 数が少なくない?」
『少ないでチュねぇ。質は悪くなさそうでチュが』
そう、二つだけだ。
ザリチュの言う通り、質は悪くない。
それは二つのアイテムが纏っている呪詛の量と密度と質から分かる。
だが、ムミネウシンム程のカースが治めていた呪限無を吹っ飛ばした報酬としてはあまりにも……。
「……」
『……。たるうぃ』
「あーあー、聞こえなーい」
『まだ何も言ってないでチュよ。本題でチュが、これってもしかしなくても、たるうぃが全部吹っ飛ばしたのが原因なんじゃないでチュかねぇ』
「聞こえないったら聞こえなーい。ルナアポブレスを叩き込んで文字通りの意味で消し飛ばしたのが悪いなんて聞こえないわー」
『バリバリ聞こえているじゃないでチュかぁ』
私は思わず耳を塞ぎつつ、頭を振る。
うん、これだけあれば十分だと考えを改めよう、そうしよう。
そう、これもルナアポを使う事のデメリットだったのだ!
『たるうぃが何を考えているかは分からないでチュが、るなあぽが拗ねないように気を付けるでチュよー』
「そうねー」
それでは、得られた二つのアイテムがどんな素材であるかを確認するとしよう。
△△△△△
『琥珀化の蜂蜜呪』の琥珀蜜
レベル:47
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:19
『琥珀化の蜂蜜呪』トオーハク・ムミネウシンムの身体、あるいは『蜜底に澱む呪界』と言う呪限無を構成していた琥珀色の蜜。
極めて濃厚で濃密、宝石のように輝く琥珀色の蜜は、あらゆるものを魅了してやまない事だろう。
だが、強烈な石化効果も有しており、安易に取り扱うものは、蜜に取り込まれ、溶け落ちる事になるだろう。
注意:接触者は1秒ごとに高確率で石化(30-異形度)を受ける。
▽▽▽▽▽
△△△△△
名もなきカースの蜜肉
レベル:47
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:19
古い古いカースの肉。
とても長い間『琥珀化の蜂蜜呪』トオーハク・ムミネウシンムによる封印の中に居たためか、個としての性質は限りなく失われている。
そのため、今となっては、このカースが強大なカースであったこと、イノシシに近い姿をしていたであろうこと、蜜の中で熟成され続けた事によって途方もなく美味しくなっているであろう事、これぐらいしか分からない。
▽▽▽▽▽
「……。運営からこれ以上余計な事はしないで、これで作っておけと言われている気がするわ」
『不思議でチュねぇ。ざりちゅにはその言葉が泣き叫びつつ言っているように思えるでチュよ』
「あの運営に限ってそれはないでしょ」
『言われてみればそうでチュね』
はい、どちらも『石化の邪眼・2』の強化のためにあるような素材である。
まあ、『
特に名もなきカースの蜜肉については、強化に使えるほどのイノシシ肉の心当たりがなかったので、嬉しいだけでなくありがたくもある。
『で、素直に作るんでチュ?』
「んー、運営が想定する素直というのが、どういう物なのかが私には分からないのよねぇ」
『でチュよねー』
では、材料は無事に揃った。
ならば、私が思い描くままに作るとしよう。
それが運営の望む形であるかは当然気にしない。
作りたいように作ってこそ私の求めるような未知が見られるだろうから。