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909:アフターウォー-2

「遅かったわね。タル」

「まあ、こっちにも色々とあるのよ」

 『竜活の(エサエルセド)呪い(セルブ)』のデメリットが終わり、ルナアポを介して得た情報の精査も終えた私は、エヴィカが居る噴水の前にやってきた。

 そこには既にザリアたち戦争に参加してくれた面々も居る。


「なんにせよまずはアレね。戦争に参加してくれてありがとうございます。おかげで戦争に勝てました」

「おかげねぇ……正直、私たち必要だったのかしら?」

「必要だったわよ。『蜜底に澱む呪界』に入った後、状況が整うまでの手数不足は私一人ではどうしようもないもの」

「そう、それなら嬉しいわね。こちらとしてもいい経験値稼ぎであり、貴重な素材を得られる場だったわ。ありがとうね、タル」

 と言う訳で、まずは礼を言っておく。

 ザリアも私に礼を言う。

 では、この件についてはこれぐらいにしておくとしよう。


「じゃあ次。ザリア、聖女ハルワにこの手紙を渡してもらえるかしら?」

「別に構わないけど……何をやったのよ」

「ノーコメントで」

「……そう。なら、深くは問わないわ」

 次に聖女ハルワへの手紙をザリアに託す。

 内容については今回の件の事情説明であり、サクリベス周囲に出現したダンジョンについての話もある。

 聖女ハルワからお小言があるなら……その時は直接私に飛んでくるだろう、たぶん。


「そろそろー……いいですかー?」

「ええ、いいわよ。エヴィカ」

 では、本題である。


「これが例の石像ね」

「ええそうよ」

「嫌な表情をしているなー」

「……。見た覚えのある顔だ」

「と言うかだれがどう見てもその……あの人ですよね」

 私たちの視線が複数人の人間を粘土のように混ぜ合わせた上で固めたような石像に向けられる。

 見た限りでは顔の数は六つであり、いずれの表情も苦悶に満ちている。

 で、その中にはゼンゼの顔もあった。

 と言う事は、この石像の材料は『鎌狐』の面々であると言えるだろう。


「ではー……事情をー……説明しますねー」

 この場で何があったのかをエヴィカが話し始める。

 それによると、ゼンゼたちは戦争中に突如として『ダマーヴァンド』内部に現れたと言う。

 考えるまでもなく不正侵入であり、恐らくはムミネウシンムとの戦争を利用した何かしらの呪術だったのだろう。

 ゼンゼたちの目的は不明。

 だが、一番可能性として高いのは、『ダマーヴァンド』の核を奪取する事によって、ダンジョンの支配権を私から奪い取る事だろうか?

 次点はバックドアの類を設置すること。

 いずれにせよ、ゼンゼたちが目的を果たす事は無かった。

 と言うのもだ。


「私とハオマがー……対処しようとしたんですよねー……そしたらー……」

 エヴィカの視線が今も深緑色の液体……『ダマーヴァンド』の毒液を流し続けている噴水へと向けられる。

 ザリアたちの視線も噴水へと向けられる。

 私の視線も噴水と言うか……その中に隠されている『ダマーヴァンド』の核である杯を見る。

 そう言えば長らく鑑定をしていないし、噴水の外にも出していないので、今どうなっているのかを私も知らない。

 うん、嫌な予感しかしない。


「こうー……ドバッー……っと虹色の液体が出てですねー」

「虹色の液体」

「グチャグチャー……っとその人たちをー……絡めてー……混ぜ合わせてー」

「ミキサーかな?」

「ゴックン……っと飲み込んでー」

「……。少し距離を取るぞ」

「ペッ……っと吐き出したらー……こうなってましたー」

「「「うわぁ……」」」

 うんまあ、はい、理解しました。

 これは噴水の中にある核が何かをやりましたね。

 間違いない。

 タイミング的には私がちょうど『竜活の呪い』を使っていた時間であろうし、きっとザリチュたちと同じように『竜活の呪い』の影響で強化がされていたのだろう。

 そこにゼンゼたちが来て、核に何かしようとしたから、自律的に反撃した、と言うところだろう。


「タル、貴方はこの噴水に何を仕込んだのよ……」

「ノーコメントで。私たちに害があるものを仕込んだ覚えはないけれど、何がトリガーになって動き出すかは私にも分からないから。とりあえずゼンゼたちの二の舞を演じたくないなら、この件については誰も触れないことをお勧めするわ」

「「「……」」」

 私の言葉に改めてザリアたちの視線が噴水に向けられる。

 ザリアたちもたぶんだが、噴水の中に何が仕込まれているかは気が付いた事だろう。

 そして気が付いたからこそ、噴水から視線を逸らし、お互いの顔を見て、それから頷く。


 この件には関わらないでおこう。


 それはザリアたちの気持ちが一致した瞬間だった。


「それよりも気になるのはゼンゼたちの今の状態だな。これ、ただの石化じゃないっぽいだろ」

「そうね。状態異常としての石化ではなく、根本的に石に変わっているように思えるわ」

「もしかして……キャラロストですか?」

「その可能性は十分にあると思います。とりあえず私では治せませんね」

 さて、噴水には触れないが、ゼンゼたちには触れておこう。

 シロホワ曰く、今のゼンゼたちを治すことは出来ないらしい。

 まあ、混合されて石化した状態が正しい状態になっているのだから、当然の事なのだが。

 となれば、今のゼンゼに意思があるか否かに関わらず、ゼンゼたちとしてはキャラロストしたと言っても過言ではないだろう。


「まあ、一種の自業自得。封印用の専用部屋でも作っておいて、そこで保管しておくわ」

「それが妥当かもしれないわね」

 残る問題はゼンゼたちが次のキャラを作れるか否かだが……これについては私たちから干渉できることではない。

 と言う訳で、私は保管部屋を作成し、ザリアたちに協力してもらってゼンゼの像を移動。

 厳重に封を施して、この件については終わらせることにしたのだった。

 そして今日はもう疲れたので、私はログアウトする事にした。

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