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905:ムミネウシンム-3

『座標がずれてだと、それはどういう意味……っ!?』

 ムミネウシンムの琥珀の槍による攻撃を『座標維持』の応用によって避けた私はネツミテを錫杖形態に変え、ルナアポをその先端に生成する。


citnagig(シトナギグ)集束の邪眼・3(タルウィミーニ)』」

 その上で『集束の邪眼・3』をムミネウシンムと私の間にある空間に対して発動。

 私とムミネウシンム……より正確に言えば、『蜜底に澱む呪界』そのものと言うカースが、わざわざ個としての形を持たせている部分との距離を一気に詰める。


「ふんっ!」

『ぬぐおっ!?』

 そしてムミネウシンムの目にルナアポを深く突き刺す。


『妾の目がぁ!? だが、この体がどれほど傷つこうとも……』

「ふふふふふ」

 ムミネウシンムはルナアポの刃が体から抜けると、直ぐに目の再生を始める。

 その間に私はルナアポを介して得たムミネウシンムの情報を咀嚼、反芻し、理解を深めていく。

 ああなるほど。

 本来ならば気体化させた蜜を嗅いだものに対する石化攻撃や、蜜が有機物であることを利用した火炎攻撃あるいは爆破攻撃もムミネウシンムは持っていたらしい。

 だが、私の性質を鑑みて、それらの攻撃は行っていなかったようだ。

 他にも読み取れた情報は色々とあるが、ムミネウシンムの保有する情報量が桁外れに多いために、完全に知る事は不可能に近そうだ。


『う、あ……なんだこれは……』

「ええそうね。けれど、これまでと同じではないのよ。ムミネウシンム」

 それはそれとして、『蜜底に澱む呪界』そのものがムミネウシンムだと理解した上で、ルナアポによる攻撃を主体となっている体へと当てたことによって、ルナアポの固有デバフである理解が発動した。

 普通の相手なら理解を受けても特に何かを察するような事は無いようだが、ムミネウシンム程の知性と察しの良さがあると、何かがあると理解できてしまうようだ。

 では、その理解を深めてあげるとしよう。


「『竜息の呪い(クニルドセルブ)』」

『!?』

 『竜息の呪い』の射出方法1によってルナアポが射出される。

 ルナアポはムミネウシンムの身体へ向けて真っ直ぐに、防御する暇も与えずに飛んでいく。

 ムミネウシンムの身体を貫く。

 突き抜けて琥珀の天井に突き刺さり、撃ち破る。

 琥珀色の蜜の中を突き進み、破砕し、粉砕し、『蜜底に澱む呪界』と言う空間そのものに対してダメージを与えながら飛翔し続け、1キロメートル以上潜り込んだところで動きを止め、消える。


『ーーーーー!?』

 この結果にムミネウシンムは絶叫した。

 貫かれた体こそ即座に再生していたが、その巨体では早々味わう事がなかったであろう痛みを受けて、叫び声を上げずにはいられなかったようだ。


「あはははははっ! 良いっ! 素晴らしいわ! ムミネウシンム!! 雑多で! 断片的で! きちんと咀嚼しなければならないけれど! 私が知らなかったこの世界に関する情報がこんなに沢山あるなんて! ああ、癖にならないように気を付けないといけないような快感だわっ!」

 対する私は笑わずにいられなかった。

 ルナアポから送り込まれた情報の中には、ムミネウシンムそのものに関わるものもあれば、まったくの無関係のものもあるが、気になる情報が幾つも含まれていたからだ。

 この場でそれを列挙するような愚は起こさない。

 けれど、これらの情報を得られただけでも、今回の戦争は私にとって利があったと言えるほどだった。


「さあムミネウシンム。理解したかしら? 世界そのものである程度なら、私は滅ぼせるわ。そして、次の一撃はもっと重いものになるわよ」

『馬鹿な! ふざけるなっ! 妾が! 妾が積み上げて来たものをこれほど容易く覆すなど、そんなことが……!?』

 そして、これらの情報を得たことは、私のムミネウシンムに対する理解を深めると言うこと。

 それはつまりルナアポ専用デバフである理解の強度が上がると言う事であり、その効果を高めると言う事でもある。


「ルナアポ」

『させるかぁ!』

 その事をムミネウシンムも理解したのだろう。

 ルナアポを再び手の中に作りだした私に向けてムミネウシンムが動き出す。

 その手に握られているのは、多段階加速が可能な節つきの琥珀の槍。

 ムミネウシンム自身の槍の技量と加速、節の一つ一つが伸長する事による加速、それらを可能とする琥珀と蜜の大量供給。

 それらを組み合わせたことによるムミネウシンムの一撃は正に神速と言ってもよかった。

 私がルナアポをドゴストに収納するよりも遥かに早く、私の胸を貫く。


「座標がずれている。これをどうにかしないと勝負にならないわよ」

 だが、すり抜けてしまえば、どうと言う事は無い。

 私は悠々とルナアポをドゴストへと収納する。


『座標がどうした! これにそんなものは関係ない!』

 しかしムミネウシンムにとって琥珀の槍による攻撃は本命を隠すためのものでしかなかったらしい。

 琥珀の槍の中には、一目ではそうとは分からないように厳重な封印を施された、濃密な呪詛の結晶が隠されていた。

 合わせて周囲の琥珀の天井、柱、壁、床から、何かしらの呪術の補助具であろう突起物が出現し、その効果を示し始める。


『封っ!』

「……へぇっ」

 そしてムミネウシンムの一言でもって呪詛の結晶が解放され、大量の呪詛を燃料として呪術が効果を発揮。

 私は身じろぎ一つ許されることもなく、琥珀色の結晶体の中へと封印された。

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