904:ムミネウシンム-2
「ふふふ……」
『くくく……』
私の呪詛の剣、ムミネウシンムの琥珀の槍が射出され、空中で衝突し、お互いを食い合っていく。
その中でごく一部が攻撃をすり抜けてお互いの身体に届こうとする。
が、私は『呪憲・
ムミネウシンムは琥珀の壁を作り出す事によって、呪詛の剣を防ぐ盾にする。
「さあ、そろそろ仕掛け始めましょうか!
『見るがいい! これが妾の力の一端よ!』
そして私にとっても、ムミネウシンムにとっても、これまでのは牽制でしかなく、攻撃の本番はこれからだ。
私は『毒の邪眼・3』を放ち、ムミネウシンムに毒を与える。
ムミネウシンムは琥珀の天井に潜り込んでいた蜂の腹部がブドウの房のように連なる尾を外にまで引きずり出すと、引きずり出した勢いそのままに振り続け、私へと叩きつけようとする。
「っう!?」
ムミネウシンムの攻撃はシンプルな攻撃だった。
だから私は横に少し飛ぶことでそれを容易に回避しようとし……直前でそれに気づいて大きく飛ぶ。
ムミネウシンムの尾が通り過ぎた直後、ムミネウシンムの巨体からすると小さな、けれど人型の生物を傷つけるには十分な大きさの琥珀の刃が何十本と小さく回避していた場合に私が居た場所を通り過ぎていく。
なるほど、私の『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』によるムミネウシンムの呪圏の打消しと言えども、ノータイムで出来る事ではない。
その僅かな時間差を利用した一撃であったらしい。
『ぐっ、毒か。だがこの程度……』
攻撃後、毒を受けたムミネウシンムは琥珀の天井の中へと勢いよく潜り込んでいく。
そして数秒経ったところで顔を出したが、その時には既に毒は治っていた。
どうやら何かしらの手段によって、毒の治療を行ったようだ。
「ふんっ!」
『むんっ!』
で、お互いの姿が見えたことで再びの牽制攻撃。
合わせて本命の攻撃の準備を行っていく。
「
こちらの本命は『灼熱の邪眼・3』により直接攻撃であり、真っ赤な炎がムミネウシンムの全身を包み込む。
『効かん! 行け! 妾の子らよ!!』
「「「ーーーーー!!」」」
ムミネウシンムの本命は背中から生み出した蜂カースたちによる一斉攻撃であり、炎を振り払いながら発せられた号令に合わせて幾つもの蜂の針が飛んでくると共に、蜂カースそのものも突っ込んでくる。
「部下も戦力であることは認めるけれど、無粋で無意味よ」
「「「!?」」」
『ぐ……妾の呪いを逆利用するか!』
だが、それらの攻撃が届くよりも早く私は『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』を伸ばし、周囲の琥珀を蜜に変え、その蜜によって蜂カースたちとその攻撃を絡め捕り黙らせる。
「さあこれはどうかしら!?
『ではこれはどうだ!? ぬおおおおおぉぉぉぉぉっ!!』
そうして再びの牽制を挟んだ後に本命。
私はムミネウシンムに伏呪付きの『恒星の邪眼・3』を撃ち込み、相手の体を重くする。
天井に張り付いている状態で全身が重くなれば、相応の負荷になると判断しての事だ。
対するムミネウシンムの攻撃は全方位から竹のように節がある琥珀の槍を突き出すと言うものだったが、根元が天井、壁、床などに繋がっている上に、先端だけでなく各節から水鉄砲のように蜜を噴出した後に琥珀化させることで、超高速でこちらへと迫ってくる。
「む……」
『ぐ……』
だが速いだけならば対処は容易。
私はルナアポの生成によって一本だけガードすると、呪詛の鎖を利用する事で一気に移動し、残りの攻撃を回避しようとした。
そうして私が逃げ出した直後に琥珀の槍は幾つにも分岐し、私が居た場所を何百と言う穂先が、その先端を少しだけ重力に負けさせつつ、貫く。
この一連のやり取りの中で私は気づく。
ムミネウシンムを対象として放った『恒星の邪眼・3』の効果が、ムミネウシンムだけでなく周囲の琥珀にも及んでいる事に。
「ふふふ、また一つ貴方の秘密が明らかになったのではないかしら? ムミネウシンム」
なるほど。
ムミネウシンムの『琥珀化の蜂蜜呪』と言う名乗りは正にその通りだったと言う事か。
何故、蜜蜂呪ではなく蜂蜜呪であるかと思っていたのだが、なるほど、今私が居るのは『蜜底に澱む呪界』と言う呪限無であると同時にムミネウシンムと言う巨大なカースの腹の中でもあったらしい。
『そうか、気づいたか。気づいたが故に哀れだな。タル。貴様の力は確かに強大だ。その理解しがたいものによる一撃も脅威ではある。だがそれだけだ。所詮は一人、小さな羽虫である貴様では、この呪限無そのものである妾を殺し切る事は出来ない』
ムミネウシンムが私へと嗜虐心に溢れた笑みを向ける。
まあ、その気持ちは分かる。
まともなカースがムミネウシンムと言う世界を滅ぼそうとするならば、デンプレロがそうであったように蓄える必要がある力は膨大な量であり、その膨大な量の力を蓄える時間など私にはなかったはずなのだから。
現に私の邪眼術だけでは、どう足掻いても火力が足りないだろう。
「ふふふ、ふふふふふ、あはははははっ!」
『何がおかしい……いや、おかしいのは元からであったか』
「ええそうね。おかしいわ」
とは言え、それは邪眼術だけを使うならばだが。
「まさか、勝てないと分かっている相手と戦っていて笑うような存在だと思われていただなんて、それも含めておかしくてたまらないわ」
『そうか、気が狂ったか。ならば今、楽にしてやろう!』
ムミネウシンムの攻撃が私へと迫ってくる。
私はそれに対して身じろぎ一つもせずに眺め続け……。
『なっ……』
「ムミネウシンム。お前と私では座標がずれているわ」
すり抜けた。