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902:カースウォー-6

「ふむふむ」

「「「ーーーーー!!」」」

 『蜜底に澱む呪界』全体に対して大きな被害をもたらした私に向けて、蜂カースたちによる攻撃が殺到してくる。

 アサルトたちが何十匹と突撃し、スナイパーとガトリングが大量の針を飛ばし、琥珀の柱の影から飛び出すようにアサシンとスライムが襲い掛かってくる。


「なるほどねぇ」

「「「ーーーーー!!」」」

「タルがまた一段と人間を止めている気がするわ……」

「今更でチュよ。それ」

「タルは人間じゃなくてカース、復唱するか?」

 が、密度が足りていない。

 『熱波の呪い(ドロクセルブ)』を発動して無数の呪詛の剣を展開すれば、飛んでくる針を叩き落としたり、逸らしたりするのは容易い。

 アサルトたちの突撃は後方からの支援を受けるために敢えて密度が低くなっている部分があるので、それを利用すれば対処は容易。

 ルナアポで得た情報の精査中で多少処理能力が落ちているが、それでも全方向を見ている私に奇襲の類が通るはずもない。

 と言う訳で、討たれたらそのまま戦争終了の立場にはあるが、私は順当に攻撃を避け続けている。


「中々に面白いことが分かってきたわ」

「「「ーーーーー!!」」」

 さて、ルナアポで得た情報は無秩序かつ断片的なものであるが、ある程度見えてきたものがある。

 一つはムミネウシンムの来歴と言うか、『蜜底に澱む呪界』及び『蜂蜜滴る琥珀の森』についての情報。

 どうやらムミネウシンムは元々はただの蜜蜂であり、それが世界に淀みが満ちた頃に淀みと呪詛を蓄えてカース化したようだ。

 つまり、『七つの大呪』の半分以上よりも古いカースであるらしい。

 そして、サクリベス周囲に他の呪限無が存在しない理由でもある。

 細かい所は見れていないが、サクリベス周囲である程度以上に発展した呪限無が出現すると、今回のように戦争を仕掛け、打ち負かし、取り込んできたようだ。

 で、得た戦利品は琥珀の柱の中に封じ込め、自分の力を増すための材料にしていたらしい。

 今回私に挑んできた裏には、そろそろ頃合いであると考えていたのもあるようだ。


「貴方たちは倒しても倒しても沸いて出てくる」

「「「ーーーーー!!」」」

 残念ながらムミネウシンムがこちらを攻略するための戦術は読み取れなかった。

 だが、蜂カースたちはほぼ同一の存在であり、幾らでも替えと補充が効くため、全体主義のような傾向がある事は分かった。

 まあ総量がどう少なく見積もっても10万を超える個体数なので、そういう思想になっても当然と言える。

 よって、ゲート前で防衛線の構築を始めているザリアたちには悪いが、一点突破でとっとと勝利条件を満たした方が勝ち目はありそうである。


「呪いが濃い方向は……あちらね。『竜息の呪い(クニルドセルブ)』」

「「「!?」」」

 前回の射出から2分ほど経ったところで、私は『蜜底に淀む呪界』の核があるっぽい方向に向けてルナアポを射出する。

 結果は先程とほぼ同様で、進路上及び周辺に対して多大な被害を与える。

 が、先ほどよりも明らかに被害が少ない。

 どうやらルナアポの射出による攻撃は止められないと判断したのか、進路上にあるものを出来る限り脇に避ける事によって、被害を抑える方向で動いたようだ。

 核についても偽装だったらしく、手応えはない。

 手応えはないが、また別の核がある場所の情報は入ってきたか。


「ふふふ、でも私たちの成長速度は予想外だったかしら? ムミネウシンム」

 では精査に戻ろう。

 どうやらムミネウシンムにとって、私やゼンゼの成長速度については想定外だったようだ。

 ここ最近のムミネウシンムの感情には僅かだが焦りのようなものが感じ取れる。

 まあ、自分が長い年月をかけて築き上げてきた力なのに、その力に匹敵する力をこんなに早く得て、自分に対して有効打を仕掛けられるようになると思え、と言う方が酷かもしれないが。


「ザリア! 私は本丸の方へと仕掛けさせてもらうから、こっちはよろしく頼むわ!」

「分かったわ! 可能なら援護に行くけど、期待はしないでおいて!」

 いずれにせよ戦争になった以上は勝つか負けるかである。

 と言う訳で、私は接近してきた蜂カースのアサルトをネツミテで叩いて黙らせつつ、ザリアに呼び掛ける。

 ザリアたちはその内押し潰されるかもしれないが、それまでは敵の目を一部とはいえ惹きつけ、私の行動を楽にしてくれるだろう。

 ならば、ザリアたちが無事な間に『蜜底に澱む呪界』の核を目指すとしよう。

 そこにはきっとムミネウシンムも居るだろうが、どちらかを潰せば終わりなのだから、それでいい。


「ザリチュ」

『あー、適当なところで化身ゴーレムは落としておくでチュ。少しでも余裕があった方がいいでチュよね』

「助かるわ」

 では移動開始。

 私は蜂カースたちの攻撃を避けると共に、こちらの進路を塞ぐように動く蜂カースを邪眼術で手早く排除。

 それらをこなしつつ『蜜底に澱む呪界』の奥へと向かっていく。

 なお、感覚からして、奥へ行けば行くほど濃い呪圏が展開されているようではあったが、呪憲を持つ私にはそんなものは効かないので無視する。

 もしかしたらこれもまたムミネウシンムにとっての想定外かもしれない。


「此処がそうね」

 そうして私は核があるであろう場所へと飛び込んだ。

04/29誤字訂正

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