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901:カースウォー-5

「うんまあ、とりあえず一つ確かなのは、ここで籠っていても負けにしか繋がらないと言う事ね」

「そうでチュね。それは確実でチュ」

 さて、直に状況が動く事だろう。

 ならば、それに合わせて私たちも動くとしよう。


「ザリチュ、化身ゴーレムはザリアたちに合わせて」

「分かってるでチュ」

「タル、何を……」

 向こう側に潜り込んだ鼠ゴーレムの視界に変化が生じた。

 蜂カースたちと琥珀の柱ばかりであった空間に、液体状の淀みを身にまとった馬とドラゴン……淀馬の竜呪が複数体、姿を現す。

 どうやら私の予想通り、認識不可能状態でゲートを潜っていたようだ。


「「「ーーーーー!!」」」

「「「ーーーーー!?」」」

「全員、突撃準備!!」

「「「ヒャッハアアアァァァ!!」」」

 そうしてゲートの向こう側、『蜜底に澱む呪界』で淀馬の竜呪たちが暴れ始めると同時に、状況が動き出す。

 こちら側にいた蜂カースたちを一気に殲滅するべく竜呪たちが動き出す。

 蜂カースたちは侵入した淀馬の竜呪を優先するためか、ゲートを通る事を中止する。

 ザリアたちはゲートの向こう側へ行くために突撃の準備をし、開始。

 ザリアたちを認識している妓狼の竜呪もこちらの意図を理解したのか、恒葉星の竜呪の能力を解除するとともに、ザリアたちを襲わない姿勢を見せた。

 うん、此処がチャンスだろう。


「『転移の呪い(イフセルブ)』」

「「「!?」」」

 私は鼠ゴーレムの視界を利用して『転移の呪い』を発動。

 『蜜底に澱む呪界』への侵入を果たす。

 この動きに蜂カースたちは明らかに驚き、淀馬の竜呪たちもなぜか驚いている。


「『呪憲・瘴熱満ちる宇宙(タルウィ)』展開。っと、展開中止」

 まあ、それはそれとして、私はやるべき事をやる。

 と言う訳で、まずは『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』を展開。

 私に戦争を挑むなら呪憲対策ぐらいは当然しているだろうし、むしろ呪憲を展開しないと勝負にならないと踏んでの事だ。

 結果、周囲にある琥珀の柱が……いや、琥珀の床や天井も溶け出し、蜜になり、まるで洪水のようになりそうになって、私はあわてて呪憲の範囲を狭める。

 意図してかは怪しいが、どうやら、この場の構造そのものが呪憲対策になってしまっているようだ。


「代わりにpmal(プマル)暗闇の邪眼(タルウィダーク)・3(シェード)』」

「「「!?」」」

 代わりに私はまず呪法と伏呪付きの『暗闇の邪眼・3』を発動。

 一体の蜂カースが黒い炎に包みこまれ、その蜂カースを始点として鉄紺色の蔓が伸び、伸びた先にも黒い炎を及ぼし、生じた黒い炎がその場で燃え続けて、被害をもたらし続ける。


「「「ーーー!!」」」

「数が多すぎて、効果が薄いわね」

 が、流石に蜂カースの数が多すぎる。

 それなりの範囲には広がったが、全てを焼くには到底足りていない。


「ダイガアアァァ!!」

「突撃いいぃぃ!!」

「「「ヒャッハアアアァァァ!!」」」

 また、このタイミングで虎絶の竜呪がゲートからこちら側に突入。

 続けて鼠毒の竜呪たち、さらにはザリアたちも入ってくる。

 しかし流石に蜂カースたちの数が多すぎるし、このままだとやはりじり貧になりそうだ。

 なお、敵に囲まれた淀馬の竜呪たちは能力を利用して既に逃げ出し始めている、知ってた、構わない。


「この方向かしらね。『竜息の呪い(クニルドセルブ)』、射出方法1、狂記外天:森羅狂象・序文-ルナアポクリフ:オルビスインサニレ・キューケン……発射!」

 私はザリアたちに見えないように素早くルナアポを生成し、ドゴストに収納する。

 そして私の感覚では最も呪詛濃度が濃い方向にドゴストの口を向け、『竜息の呪い』を発動する。


「「「!?」」」

「「「なっ!?」」」

「「「ーーーーー!?」」」

「イカレタ火力でチュよねぇ……」

「ふふフ、豪快ですネ」

 ドゴストから放たれたルナアポは砲弾のように真っ直ぐに飛んでいく。

 『竜息の呪い』による保護効果は最初に接触したものまでなのだが、そんな事は関係ないと言わんばかりに、進路上にあるものを全て……蜂カースも、琥珀の柱も、柱内部のカースも、あらゆるものを粉砕しながら、直進を続ける。

 そして、粉砕はルナアポの通った直線だけには留まらず、周囲へと衝撃波を放つことによって被害を拡大していく。

 衝撃波の威力は琥珀の柱を弾丸のように飛ばし、蜂カースの身体をバラバラに引き裂いた上で散弾のようにし、柱内部のカースたちは木っ端微塵に吹き飛ばすほど。

 そうして最終的には、1キロメートルほど先まで続く大穴が開かれ、進路上にあったものは全滅、私の前方と言ってもいい範囲に居た蜂カースたちも半死半生、他の面々は思わず動きを止めると言う状況になった。


「はい、次弾装填っと」

「でも一番イカレテいるのは、割と連射が効く事なんでチュよねぇ……」

「「「!?」」」

 では、動きが止まっている間に次のルナアポをドゴストに入れておこう。


「……」

 と、ここでルナアポを介して得た『蜜底に澱む呪界』、蜂カース、琥珀の柱の情報が無秩序かつ断片的な形で強制的に私の脳内へと入り込んでくる。

 戦争中であると分かっていてもなお、私はその情報を精査せずにはいられず、僅かにだが動きが鈍る。


「「「ーーーーー!!」」」

 そして、その隙を蜂カースたちは見逃さず、私に襲い掛かるべく動き出す。

 考えようによっては、これがルナアポを飛ばすときのリスクと言えるかもしれない。

 まあ、それでも今後のことまで考えて、私は情報を精査してしまうのだが。


「さて、とりあえず逃げましょうか」

 では、情報の精査が終わるまでは何とか逃げるとしよう。

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