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900:カースウォー-4

「何が見えたのよ、タル」

「あーまあ、色々と見えたわね」

 鼠ゴーレムを介して得た情報は非常に有益なものだと言えた。

 だが有益であることと変な声を上げない事は一致するものではない。


「説明……するよりは直接見せた方が早いかしらね」

 とりあえず口で説明するのは難しいので、私は周囲の呪詛を操作、呪詛の密度を上げる事で形を作り、虹色から特定の色を抽出する事によって彩色をして、ネズミゴーレムが見ているものをザリアたちに見せる事にする。


「「「うわぁ……」」」

 そしてザリアたちも揃って変な声を上げる事になった。


「まあ、そう言う顔や声にはなるわよねぇ」

 では、具体的に見えたものを語っていこう。

 まず、ゲートを抜けて直ぐの場所には、これから『ダマーヴァンド』に進軍してくる気であろう蜂カースたちが群れている。

 その数は……どう少なく見積もっても1000は下らないだろう。


「ふふフ、圧倒的な数と量ですからネ。当然の反応ですガ、面白いでス」

 その蜂カースたちの周囲には、何百本と言う巨大で太い琥珀の柱が見え、その琥珀の柱の中には様々なカースが眠っているようだった。

 しかし、ただ眠っているわけではない。

 どうやら琥珀の柱の中のカースたちは少しずつ呪いを搾り取られているようで、それによって様々な姿を持つ蜂カースたちが生み出されているようだ。


「これ全部がざりちゅたちの敵になり得るわけでチュからねぇ……底なしと言っても過言ではないんじゃないでチュか?」

 つまり、ザリチュの言う通り、これはそのままムミネウシンムと『蜜底に澱む呪界』の保有する戦力であり、見える範囲に限定してもなお底なしと言えるだけの戦力が向こうにはあると言う事である。

 これだと質的にはこちらが勝っているかもしれないが、物量で押されたら、マトモな方法だとかなり厳しいかもしれない。


「いやタル。相手の物量も確かに驚いたけど、タルの呪詛操作にも驚いているのが私たちの本音だから」

「これ、呪術でもなんでもなく、ただの呪詛操作ですよね……流石はタル様と言うか、なんというか……」

「これが人外の戦争かぁ……人間にどうしろと?」

「ははは、敵も味方も化け物過ぎて笑えて来た」

「もはやタルが何をやっているのかも分からない件について」

 なんかザリアたちが言っている。

 一応、私の味方としてこの場に居てくれていると思っているのだが、何故私に対してまで恐れ戦いているのか……。

 まあ、今の私は外天呪だから、そういう反応が出ても当然と思っておこう。

 それよりもだ。


「んー……邪火太夫。戦争で決着がつかなかった場合のペナルティって具体的にはどんなものなの?」

「具体的にですカ。そうですネ……」

 ムミネウシンム側が所有している戦力が文字通りの意味で桁違いに多い。

 鼠ゴーレムの目を介しているので正確な量は測れないが、『ダマーヴァンド』全体の呪詛量よりも桁が二つか三つは多いのではないだろうか?

 こうなってくると、一週間かかりきりになっても、それがマトモな手段である限りは、攻略しきるのは難しいだろう。

 で、そうなると決着がつかなかった場合についても考えておく必要がある。


「それぞれの参加者が保有する呪いの量に応じた負債が発生。偽神呪主導の下、強制徴収が行われル。と言うところですネ。ちなみに破産するような量ではありませんヨ」

「ちっ、拙いわね……」

「拙い?」

 そうして邪火太夫が出した情報に私は思わず舌打ちをしてしまう。


「それぞれの参加者が保有する呪いの量と言うなら、タルの手持ちに応じた分だけ。邪火太夫も破産するような量ではないと言っているじゃない」

「そうですね。一週間耐えきれれば、それでいいかと。こちらは守り側ですから、守り切れればそれは勝利と言ってもおかしくはないはずです」

 ザリアたちは私の想像したものへと辿り着いていないようだ。

 だが甘い。

 耐えれば私たちの勝ち?

 本当にそうであるならば、ムミネウシンムが仕掛けてくるはずがない。


「私の手持ち分だけならそうね。でも、ムミネウシンムが強制徴収の対象を1%でも余所へ移す手段を持っているなら、こっちだけが破産して、『ダマーヴァンド』が消滅するような事態になってもおかしくはないわ」

「「「!?」」」

「これはサービス情報ですガ、『蜜底に澱む呪界』の保有する呪詛の量に応じた強制徴収ですが、仮にその1%が『ダマーヴァンド』に降りかかったなら、二回は破産できますネ」

「「「!?」」」

 はい、邪火太夫の情報もあったので確定です。

 ムミネウシンムは確実に強制徴収を余所へ移す手段を持ってます。

 はぁ……なるほど、いったいどれほどの年月をかけて来たのかは分からないが、自分の保有する呪限無が経て来た年月をそのまま火力として叩きつける、か。

 ある意味では、プレイヤーである私たちには絶対に真似できないアドバンテージを利用した攻撃手段と言えるだろう。

 うん、実に厄介で、だからこそ攻略のしがいがあるとも言えるだろう。


「さーて、竜呪たちがゲートを頑張って抑えてくれている間に、どうにかして向こうへ行ってムミネウシンムを倒す方法を考えないといけないわね」

「でチュねぇ」

「まあ、そうね……」

「ふふふふフ、楼主様がどうされるか楽しみですネ」

 では、相手の消極的な勝利策が分かったところで、どうやって攻め込むかを考えるとしよう。

 ムミネウシンムの事だから、きっと積極的な勝利策も用意している事だろうし……さてどうすればいいだろうか?

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