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90:ビルズセーフティ-3

「まずは自己紹介を。私は光華団団長のライトローズ。そこの銀色のと同じでプロプレイヤーよ」

「銀色……まあ、私も改めて自己紹介をしておくか。プロプレイヤー集団『エギアズ』のリーダー、エギアズ・1だ」

「私はタルです。わざわざ言う必要は無いかもしれませんが、まあ一応」

 私、エギアズ・1、それにライトローズと名乗った女性はとりあえず自己紹介をした。

 光華団にエギアズか……どちらもプロプレイヤー集団であり、本来なら私とは縁がなさそうな相手である。

 しかし、虫脚のプレイヤーを拘束している面々の中には頭に光る花がある女性プレイヤーも居れば、全身が銀色肌のプレイヤーも居る事からして、どうやらどちらの集団も全体で私の味方をするような行動を取っているようだ。


「なんかすげえことになってんな……」

「サボテンちゃんたちが居ないのが残念でならないな」

「ま、色々と見させてもらおうや。どっちが正常なのかは誰の目にも明らかだしな」

 他のプレイヤーについては、基本的には武器を構えて周囲を警戒しつつ、外野で見ているだけ。

 一部は光華団とエギアズに混ざって虫脚を拘束しているが、少しずつ二集団に任せて、遠巻きの位置に移動している。

 そして、誰もが私ではなく、虫脚の方を警戒しているようだった。


「それで、この状況は?」

「私が把握しているのは、セーフティーエリアへの登録すら済ませていないアンタにPKを仕掛けようとした奴が居たから、止めた。これだけだな」

 エギアズ・1はそう言うと、ライトローズさんの方を向く。

 まるで、お前なら何か知っているだろうと言わんばかりの目である。


「アレは妬みに狂ったプレイヤーよ。どうにもイベントで上位に入った、目立っていたプレイヤーを目の敵にして、無差別にPKを仕掛けているようね。私も一度仕掛けられて、返り討ちにしたわ。で、今は貴方を見かけたから、と言うところでしょう」

「なるほど。つまらない御方なのですね」

 ライトローズさんは若干の呆れを含んだ眼を虫脚に向けつつ、どういう男なのかを教えてくれた。

 では、気は進まないが、折角なので色々と語ってもらうとしようか。


「その男の拘束を緩めて、口を開けるようにしていただけますか?」

「分かりました」

 虫脚の男の頭を押さえていた光華団の騎士の女性がその手を離し、口を開けるようにする。


「手前ら! こんな真似をして許されると思ってんのか! 寄ってたかって一人のプレイヤーを押さえつけ……」

 で、どうでもいいことを喋り始めたので、とりあえず男の目の前にフレイルの柄を突き立てて、怯ませる。

 その上ではっきりと宣言する。


「ようく考えて、貴方の思った通りの言葉で私の質問に返答してくださいね。その内容によっては、一対一で、イベントの本戦と同じ形式で戦いますから。ああ、拘束はもうしなくてもいいですよ。話をするなら、お互いに立って話した方が楽でしょうから」

「「「……!」」」

 私の言葉に驚きの色を示したのは虫脚の男ではなく、周囲のプレイヤーたちの方だった。

 どうやら、わざわざこんなのに関わる必要は無いと言うのが共通認識だったようだ。

 だが私にしてみればだ。


「で、どうして貴方は私に対してPKを?」

 私は少しだけ距離を取る。

 虫脚の男も拘束から解き放たれて立ち上がり、怨みのこもった目と剣の刃を私に向ける。


「どうしてだと……そんなもの、お前らを討ち取って、俺の強さを見せつけてやるために決まっているだろうが。予選じゃ運悪く負けたが、本戦のトーナメントでなら俺が負けるはずがねえんだからよ……」

「強さを見せつけるですか。いったい誰に? 何故ですか?」

 さて、本当に問答無用の戦いの話をしてしまうならば、今こうして向かい合い、会話をしている時点で虫脚の男の勝ち目などなくなってしまっているのだが……それは言わぬが花だろう。


「誰にだと! お前らに決まっているだろうが! 俺はお前らより強いんだ! それを理解できていないから理解させるんだよ!! 特にお前のような男に媚び売って得しているような女に対してはなぁ!!」

 しかし、この虫脚の男は……いったい何を言っているのだろうか。

 承認欲求、自己の力への認識、性差別の意識と言ったものが暴走しているのは、極めてつまらないことだが、よくある事なので何となく分かる。

 けれど、強さの証明がしたいならばだ。


「エギアズ・1さん、ライトローズさん、少し質問なのですが、私のセーフティーエリア登録が済んだ後に彼が私に仕掛けた場合、貴方たちは止めましたか?」

「止めるはずが無い。今『エギアズ』が動いたのは、アンタが今後ゲーム全体にもたらしてくれる損益と、この場で万が一にもPKされた時に生じる損益を比較した際に、前者の方が圧倒的にプラスだったからだ。登録後だったら、気に止めたぐらいだった」

「もう少し具体的に言わせてもらうなら、こんな序盤から他人の足を引っ張る事だけが趣味のようなプレイヤーと、新しい物を幾つも見つけ出しているプレイヤーだったら、見つけ出しているプレイヤーに味方をした方がお得、と言うのはあるわね。それでも登録後だったら手を出さなかったのは同じだけど」

「ですよねー」

 うん、流石は二人ともプロプレイヤー。

 損得勘定はしっかりと付けている。

 そして、明確に口には出していないが、『CNP』がPKを許しているゲームである以上、PK行為そのものを止める気は無いとも言っている。

 二人ともあくまで私を助けた方が得だから、助けただけ。

 その手段として手っ取り早く、確実で、システム的にも問題が無いから、数によるPKと拘束を行ったに過ぎない。

 逆に言えばだ。


「つまり、私が登録を済ませるのをちゃんと待ってから襲えば、貴方は一方的な不意打ちを誰にも邪魔される事なく仕掛ける事が出来たと言う事ですね。そんな事にも思い至らず、機を見損なって仕掛けるだなんて……強さには最低限の頭の良さは必要だって分かっていますか?」

「このっ……」

 この虫脚の男はそんな簡単な損得勘定も計算できず、自分の感情に振り回されているのだ。

 それで強いだなんて、ジョークにしてもセンスを疑う次元だ。


「クソアマがああぁ!!」

 そして虫脚の男は私の挑発に負けて切りかかってきてしまった。

 本当につまらない男である。

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