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87:七つの大呪-2

「はぁ、順番に見ていきましょうか」

 得てしまった情報の量が多すぎる。

 と言う訳で、私は当初の目的だった出納表部分から順番に見ていくことにする。


『目が……目が回るでチュ……』

「目なんてないでしょうが」

 出納表にはまず『ダマーヴァンド』周囲の空間からどれだけの呪詛を集めたのかが記されている。

 また、『ダマーヴァンド』内部で発生した呪詛の量についても、出元がどのような物であるか含めて記されている。

 つまりはこれが『ダマーヴァンド』の収入だ。

 まあ、だいたいは周囲の空間からかき集めたもので、一部は毒ネズミたちの活動によって生じたもの、僅かに私、ザリチュ、垂れ肉華シダから生じたものと……例の穴から沸き上がったものがあるようだ。

 なお、珍しい部分と言うか、足し算ではなく掛け算のような形で、結界扉によるセーフティーエリア生成のリスクを背負う事で収入を良くしている部分もあるらしい。


『目は無いけど見えているから、酔いはするでチュよ』

「へぇ、そうなの」

 では支出は?

 『ダマーヴァンド』の構造維持、毒ネズミたちの繁殖、垂れ肉華シダの増殖、侵入阻止の結界、毒鼠の杯から湧き出る毒液、セーフティーエリアの生成など、色々とあるようだ。

 まあ、収支は釣り合っているし、これらの大半は必要な支出なので、削る事は出来ない。

 そう、大半だ。


「例の穴は呪いを吸い上げてもいるようね」

『あの穴は呪限無に繋がっているでチュからねぇ……』

「あ、やっぱりそうなの」

『こっちとしては知らなかった事に驚きでチュよ』

 不可解な支出の一つとして、例の穴……ザリチュが言うところの呪限無に繋がっている穴に一部の呪いが持って行かれている。

 いや、食われていると言った方が正しいか。

 どうやら、穴の奥に潜む何か……仮称アジ・ダハーカが自分の力を増すために呪いを貪っているようだ。


「まあ、弄りたくても弄れない支出ね」

『でチュねー』

 とは言え、ここは弄れない部分だ。

 減らせば餌が枯渇したアジ・ダハーカがこちらに餌を求めて出て来てしまう可能性があるし、増やせば大量の餌があると勘違いして出て来てしまう。

 そうなったら世界そのものは運営がどうにかしてくれるだろうが、元凶となった私自身は詰むかもしれない。

 アレは現状では対処不可能な案件だし。


「ちなみに呪限無への行き方は?」

『そんなのざりちゅが知るわけないでチュよ』

 うん、やっぱり対処不可能だ。

 こちらから乗り込む方法すら無いし。


「で、こっちはロックがかかっていて、弄れない項目ね」

 他にも弄れない支出がある。

 それが……この世を為す七つの呪いだ。

 この表現が正しいのかは分からないが、どうやら私や毒ネズミたちが普段扱っている呪いや、ダンジョンの構造を維持している呪いはスマホで言うならアプリのようなものであるらしい。

 そして、七つの呪いはアプリあるいはスマホ本体を動かすための基礎プログラムのようなものであるようだ。

 当然、そんなものを弄れる権限など早々得られるわけもなく……と言うか、プレイヤーが弄れていいものではないので、私にはまるで税金のように勝手に引かれていくのを、どの程度の支出があるのかと言う形で見る事しか出来ない。


「ふうん……」

 だが名前を見れるだけでも価値がある情報だ。

 この世を為す七つの呪い、あるいは、七つの大呪、それがどんな物か名前だけでも知っておけば、この世界への理解度が変わる。


 不老不死、それはプレイヤーをプレイヤー足らしめている呪いだろう。

 風化、それは呪われていない物質が消滅していく原因の呪いだろう。

 魔物、それはモンスターと言う存在を生み出している元凶に違いない。


 他の四つ、蠱毒、再誕、転写、反魂はよく分からないが……『CNP』の世界でしか起きない現象に大きく関わりがある事に間違いはないだろう。

 きっと、今までも私がそうであると認識していなかっただけで、何処かで関わっているに違いない。


「風化は特にヤバそうね」

『そうでチュか?』

「ええ、他の六つに比べて燃費が恐ろしく良いもの」

 なお、支出で見た場合、風化は他の六つよりも稼働に必要な呪詛の量が著しく少ない。

 その分起動までにかかる時間が長めで、だからこそ他の呪いが割り込む隙があるわけだが……これは、むしろ風化の呪いが最初にあって、それに抗う為に他の六つが生み出されたとかなのだろうか。

 考えてみれば、風化だけは方向性が分解一択だが、他は作り上げる方向であるようにも思えるし……何かはありそうだ。

 情報が足りないので、これ以上は何も分からないが。


「で、最後は『七つの大呪を知る者』の効果ね」

 称号『七つの大呪を知る者』の効果は特定NPCとの友好度変化率上昇。

 特定NPCについては情報が無いので推測するしかないが、七つの大呪を知っているNPC辺りが候補だろうか。

 となると、この前のイベントでプレイヤーを夢の中に招いたとか言っていた、聖女様なんかは候補かもしれない。

 そして、友好度変化率の上昇と言うのは……きっと好かれやすくなるだけじゃなくて、嫌われやすくもなるんだろうなぁ……。

 七つの大呪の事を知っておきながらそんな言動をするなんて!

 と言う感じで。


「ま、好感度周りが壊滅的なのは今更ね」

『でチュよねー』

 まあ、気にしても仕方が無いか。

 私はどうせ低異形度NPCからは徹底的に嫌われるようになっているのだし、それが悪化する分には今更だ。

 むしろマイナスの方向でオーバーフローを起こして、反転……は、昔のゲームじゃあるまいし、流石にあり得ないか。

 マイナスは何処まで行ってもマイナスだ。


「七つの大呪について喋ってはいけないと言うのは……まあ、守っておきましょうか」

『ざりちゅもその方がいいと思うでチュ』

 最後に、この件については同じ称号を得た者にしか告げてはいけない、と言う一文。

 これはきちんと守った方がいいだろう。

 この手のタブーを破ったらどうなるかは昔話によくあるが……『CNP』だと、たぶん本当にそう言うのが来る。

 良くてもこの間のイベントの海月の小さい奴とかだろう。

 取り返しがつかない可能性が高い以上、控える方が無難だ。


「う、時間がもう無いわね」

 と、此処で私は諸々の作業の結果として、既にリアルの時刻が厳しいことになってきている事に気付く。


『予定があったんでないでチュか?』

「あったけど……まあ、誰かと会う予定がある訳でもないし、明日に回しても問題は無いか」

 睡眠不足は何としてでも避けるべき案件である。

 そして『CNP』の中で急いで動かなければいけない話が今ある訳でもない。

 私はそう判断した。


「じゃ、ログアウトで」

『チュ、分かったでチュ』

 と言う訳で、私はマイルームに戻るとログアウトした。

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