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84:クロムダイオプサイト-1

「ログインっと」

『おはようでチュ。たるうぃ』

「おはよう、ザリチュ」

 はい、『CNP』にログインである。

 イベント後初ログインであり、現れた場所は『ダマーヴァンド』のセーフティーエリアだ。


「さてと……」

 私はまず毛皮袋の中身を全部外に出す。

 これまではイベントとメンテナンスに伴う特別措置で、毛皮袋を始めとした時間経過による諸々は封じられていたが、ログインに伴って再び動き出しているからだ。

 早いところ出しておかないと、毛皮袋の呪いで中身が消滅してしまう。


「次に装備品の状態は……問題なしっと」

『夢の中だったでチュからねぇ』

 次に装備品だが、こちらは問題なし。

 ザリチュの言うとおり、イベントは聖女様の夢の中だったので、損耗の類は無かった事にされたようだ。

 消耗品の類もきちんと帰ってきているようだ。

 にもかかわらず手足にはきちんと真鍮の輪が装着されているので、不思議なものである。


「じゃ、次ね」

 私はマイルームの方に移動する。

 マイルームの天井は垂れ肉華シダの苔で覆われているが、ハンモックはそのまま。

 余計な蔓が生えたりはしていない、と。

 では、出すとしよう。


「とうっ」

『チュー』

 イベントの交換会で手に入れたアイテムの目録を手に取って投げる。

 すると幾つものアイテムが整頓された状態で出てくる。


「じゃ、鑑定ね」

 私は一つずつアイテムを鑑定していく。

 えーと、真っ赤な毛皮は偽火狼の毛皮、ぶよぶよの皮は大ガエルの皮、木材は樫の木の原木、紐で束ねられた草の葉はどちらも薬草、怪しげなキノコは食用キノコ……どれも悪くはないけれど、貴重な品でもないか。

 まあ、本命は此処からだ。


「へぇ、これは便利そうね」

 モンスター解体用のアイテム一式、細工用のアイテム一式、裁縫用のアイテム一式。

 これらはどれもそれぞれの作業に必要なアイテム一式が一つの箱に収められたものであり、マイルームやセーフティーエリアと言った特定の場所でしか使えない代わりに、高い耐久性や機能性を持ったアイテムであるらしい。

 鑑定結果はこうなっている。



△△△△△

モンスター解体用アイテム一式

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


モンスターを解体するのに必要な道具が一通り収められた道具箱。

安全な場所でしか展開できない代わりに、正しく扱っている限りはまず壊れない。

▽▽▽▽▽


△△△△△

細工用アイテム一式

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


細工作業を行うのに必要な道具が一通り収められた道具箱。

安全な場所でしか展開できない代わりに、正しく扱っている限りはまず壊れない。

▽▽▽▽▽


△△△△△

裁縫用アイテム一式

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


裁縫作業を行うのに必要な道具が一通り収められた道具箱。

安全な場所でしか展開できない代わりに、正しく扱っている限りはまず壊れない。

▽▽▽▽▽



「今後は死体まるごと毛皮袋に入れて、此処で解体するべきかしらね」

『チュ』

 解体用には切れ味の鋭そうなナイフだけでなく、鉗子や吊るし台、ペンチなどが入っている。

 細工用には針、ノミ、ハンマー、金床、呪詛を利用する小型のバーナーなどもあるようだ。

 裁縫用には針にハサミ、編み棒だけでなく、小型の機織り機まであり、裁縫と言うよりは服飾と言った方が正しい感じである。

 なお、いずれも物としては初心者向けに近いもののようで、条件を満たせばグレードアップが可能なようだった。

 まあ、その条件として求められているのが、ある程度以上の質を持つモンスターの素材から作られた道具のようなので、当分は無理そうだが。


「で、問題はコイツね」

『強い呪いが籠っているでチュね』

 さて、残る鑑定対象は垂れ肉華シダの蔓1ダースと交換して手に入れた深緑色の怪しげな宝石である。

 大きさは私の人差し指の先端から第一関節ぐらいまでで、宝石としてはかなり大きいと思う。

 色は深緑色で、色だけ見るならエメラルドやヒスイの類だろうか。

 しかし、それ以上に宝石から漏れ出ている黒いオーラのような物……呪いが目を惹く。

 この見た目からして、ほぼ間違いなく、元の所有者は不用品処理に近い気分で出品した事だろう。

 うん、こいつは明らかにヤバい。

 だが、鑑定しないのはもっとヤバい。

 と言う訳で、私はマイルームの床に置かれた宝石に対して鑑定を行う。


「む……」

 鑑定結果が表示される。

 だが同時に私のHPも『鑑定のルーペ』のコストではない形で、最大HPの20%ほど削られた。

 しかし、何故削られたかは鑑定結果を見て直ぐに分かった。



△△△△△

呪われたクロムダイオプサイト

レベル:10

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:10


クロムダイオプサイトと呼ばれる深緑色の宝石。

本来は所有者をリラックスさせ、叡智を授ける力を持っているとされるが、強い呪いを帯びた事で所有者の心身に不調を与える魔性の石に反転・変質してしまっている。

注意:この石を鑑定したものにダメージを与える。

注意:この石に接触しているものに一定時間ごとに毒(1)を与える。

▽▽▽▽▽



「ふうん……」

『どうするでチュか?』

 どうやら、呪われたことによって中々に愉快な状態になっているようだ。

 なお、クロムダイオプサイトについて調べたところ、クロムを発色要因としたダイオプサイト……和名を透輝石と言う宝石で、有名ではないが、希少な物のようだ。

 ダイオプサイトと言う名前は見る角度によって色合いや見え方が異なる事から来ているらしい。


「ちょっと予定変更かしらね」

 今日の予定はとあるアイテムの試作を試みた後、東に数キロメートル移動したところにあるらしいセーフティーエリア付きの広場に移動する事だった。

 だが、こんな物が手に入ったのなら、これの加工を先に済ませた方がいいだろう。

 きっと未知の塊のようなアイテムが出来上がるに違いない。

 そして、都合のいいことに私の手元には細工作業をするためのアイテムもあれば、宝石を嵌めるのに良さそうな真鍮製の輪がある。


「楽しい楽しい作成の始まりよ」

『変なスイッチを入れないようにするでチュよー』

 と言う訳で、私は宝石を手に取ると、細工作業を始めることにした。

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