81:1stナイトメアアフター-1
「ここは……」
スクナとの戦いの場から戻された私は交流マップで最後に居た場所に戻された。
「「「ーーーーーーーー!!」」」
「っつ!?」
そして、どうしてだが歓声に包まれた。
「お疲れさま。タル」
「お疲れ様です。タル様」
「え? あっ? ザリアにストラスさん? ありがとう。で、えーと、この状況は?」
気が付けば私の周囲には何十人と言う人が居て、それぞれに騒ぎ立てている。
あまりにも声が重なっていて、個々の声を聞き取る事は出来ないが、全体的には悪い印象を持たれている感じではない。
とりあえず二人ならば事情を知っているだろうと言う事で、私はザリアに手を掴んでもらって楽に立ち上がると、二人に礼を言った後にこの状況について尋ねる。
するとストラスさんが答えてくれた。
「タル様がトーナメントに行った後、空中浮遊持ちはこの場に留まってタル様の応援をしていたんです。そうしたらいつの間にか人が集まってきまして……この状況です」
「なるほど」
つまり、この場に居るのは基本的には私のファン、と言う事になるのだろうか。
まあ、中には色々と聞きたがっている感じのプレイヤーも居るが。
「タル。とりあえず私たちの部屋に行きましょう。此処で落ち着くのは無理でしょうし、もしかしたらブラクロも戻ってきているかもしれない」
「そうね。そうしましょうか」
「ご同行しても?」
「ストラスさんだけなら」
とりあえず落ち着くためにも私たちは場をザリアたちの部屋に移し、推定私のファンたちは散っていった。
「さて、まずは同率3位入賞おめでとう。タル」
「ありがとうザリア」
ザリアたちの部屋に戻った私は、まずザリアから、そしてオクトヘードさんたちからも祝いの声をかけられた。
今回のトーナメントでは3位決定戦は行わないので、準決勝で敗れた私は自動的に同率3位になる。
「しかし、惜しい所だったわね。例の呪術は決まったのに」
「残念だけど、全然惜しくなかったのよ。目を潰されたせいで微妙に与えた毒が少なかったから、たぶん、スクナが覚悟の一撃をしなくても負けていたと思うわ」
「ふむ。傍目から見れば善戦していたようには見えたが、当人的には、と言う事か」
「そんなところです。いやぁ、上には上が居るものね」
残る試合はもう一つの準決勝であるブラクロVSライトローズと、その勝者とスクナが戦う決勝戦のみ。
部屋の中に置かれているテレビには、ブラクロVSライトローズの試合風景が写されていて、白熱した戦いになっているようだった。
ブラクロがこんなに強いのは……うん、想像してなかった。
「それでタルはこの後どうするの?」
「とりあえずはこのまま此処で観戦を。それと掲示板に幾つか書き込みをしてこようかしら」
「書き込みですか?」
「ええ、初期異形度16以上の高異形度プレイヤーがダンジョンの外に出られるようにするための装備品についてちょっとね。どういう方法で作ったのかまでは書かないけれど、材料ぐらいは知っておいた方が便利でしょうから」
まあ、それはそれとして、イベントのメインが終わったのだから、他にやるべき事をやっておくとしよう。
まずは掲示板の書き込みだ。
「……。ボス素材だったの? その服」
「ええそうよ」
「タル様。ソロでボス狩りって……」
「流石と言うかなんと言うか……」
「えええぇぇぇ……」
私の書き込みを見たのか、この部屋にいる私以外の全員が信じられないものを見るような目を向けてくる。
しかしだ。
「自分の長所と短所を理解し、ボスの傾向と対策をしっかり立てて、十分な準備をすれば、後は時の運も絡むでしょうけど、案外何とかなるものよ。むしろ、最初に雑魚を倒せるようになるまでのが大変だと思うわ」
「「「……」」」
「この、変な事は言っていないのに、微妙に理不尽な感じがあるわね……」
何とかなるのは私が立証済みである。
私に出来て、他のプレイヤーに出来ないということは無いだろう。
他プレイヤーと協力しても問題は無いわけだし。
「呪術についてはどうするつもりですか?」
「もちろん書き込まないわ。掲示板を見る限りでは、他プレイヤーも呪術に手を出しているのがいるようだし、私がわざわざ書き込む必要はないでしょう。私がどんな真似をして得たのかは例の飲料でみんなだいたいは分かっているでしょうし」
「ああ、あの掲示板で話題になってた……」
シロホワは呪術について気にしているようだが、私から全体に言うことは無い。
折角、私が自分で編み出したものを、まだそれほどのアドバンテージを得ていないのに手放す理由はないだろう。
出すなら、せめて次の呪術を習得してからにしておきたい。
「呪術については色々とありそうよねぇ……一般的な魔法使いが使いそうな物から、タルみたいなのもあるだろうし、私も何か狙ってみようかしら」
「それならザリアは自分の針でも剣に仕込んでみるとか? そこに呪術を合わせられれば、剣が自分の一部のようになって、扱いやすくなったり、威力が増したりはあるかもしれないわよ」
「そうね……少し考えてみるわ」
まあ、ザリアが相手ならちょっとした思い付きを告げるくらいはしてもいいが。
「ウェーイ! 俺、勝利!!」
「あ、帰ってきた」
「勝ったのね。まさかだわ」
「決勝進出おめでとう。ブラクロ君」
と、ここでブラクロが喜びの色を表しながら部屋に帰ってきた。
目が足りなくて見れていなかったのだが、どうやら勝ったらしい。
「うおっ、タル!?」
「こんにちは、ブラクロ」
私の姿を見たブラクロはあからさまに驚く。
それから、少し悩んだ後に口を開く。
「タル。スクナとどう戦うべきかと言う助言の類はあるか? 対価はイベント終了後に払う」
助言、助言か……。
スクナの実力を知っていてなお挑む気概があるのは表情を見ても明らか。
「対価はいい試合を私に見せてくれることで払ってください。それとアドバイスになるとは限りませんから、そのつもりで」
「分かった」
ならば、私も真剣に答えるべきだろう。
「とりあえず距離を取ろうとは思わないでください。二度と近づけなくなるどころか、距離を取ろうと退いた瞬間に脳天を刺されて終わりです」
「あの槍か……まあ、そうだよな」
「槍どうこうではなく、単純に無駄がないんですよ。あの人は。徹底的な効率化とでも言えばいいのか、こちらが3回動く間に4回動いてくるくらいには動きに差があるんです。たぶん、何を持ってもあのレベルで動けますよ」
「マジか……」
「ほぼ間違いなく、リアルでも武術の経験があり、あのアバターにも慣れて……いえ、あのアバターに合わせた武術を編み出しています。二週間と言う期間でそれが出来るとなると、頭や観察力だって悪くないでしょう。つまり、圧倒的な格上です」
「なるほどな」
「なので、スクナと自分のスペックを見比べて、何処が勝っていて、何処が負けているか。勝ち筋は何か。そう言ったことを予め考えた上で、戦闘中は反射で動くよりもさらに早く動くくらいでなければ、勝ち目はないでしょう。とまあ、こんなところですね」
「分かった。ちょっと考えてみるわ」
そう言うとブラクロは部屋の隅に移動して、胡坐をかき、目を瞑って何かを考え始めた。
その姿に私たちも自然と静かになる。
そして、決勝戦が始まった。
04/22誤字訂正