76:1stナイトメアバトル-4
「うん、元通りね」
『そうみたいでチュね』
ザリアに勝利した私は三回戦……準々決勝の準備を行うための空間に移動した。
移動理由は先程と同様である。
「次の試合の相手は……まだ決まってないか」
ザリアとの一戦は私の主観としてはそれなりの時間戦っているように感じた。
が、冷静になって考えてみれば『
それを考えれば、私の次の対戦相手が決まっていないのは当然だろう。
とりあえず観戦システムを使って、次の私の対戦相手になる可能性のある二人……熊ですとオンドリアの戦いを見つつ、掲示板を探るとしよう。
「クマのぬいぐるみと雄鶏人間の戦いって、かなり奇怪な光景ね……」
なお、熊ですは人間大のクマのぬいぐるみ、オンドリアは頭が鶏で両腕から白い鳥の翼が昔のロックスターの服のように垂れ下がっている。
私が言うなと言われそうだが、どちらも見事な異形である。
とりあえず、両者の実力は拮抗しているようなので、決着までにはそれなりに時間がかかる事だろう。
「で、やっぱりあったわね……」
『チュ? たるうぃ、この掲示板は?』
「私対策の掲示板よ……」
スレタイトルは『予選個別プレイヤースレ@1【おっぱい妖精】』。
途中までは予選での私の動きについての語り合いで、どちらかと言えば私のファンと言ってもいい書き込みが多い。
が、途中から書き込みの方向性が変わり、どうやれば私を倒せるかをみんなで考える様なスレになっている。
「まあ、今回のイベントで呪術を使って大暴れしているのは私くらいだし、立てられるのは仕方が無いわね」
私は掲示板を眺めていく。
どうやら呪術使いそのものは私以外にも居るようで、予選でも何人か確認されていたようだ。
ただ、それらは習得の途中あるいは習得していても戦闘の補助として使える程度のレベルであり、私ほど目立つ成果は上げていなかったらしい。
で、そんな彼らから呪術の基本的な情報が流れ、そこから私の邪眼術の有り得なさに繋がっているようだ。
「てか、他のプレイヤーは自分で詠唱キーや動作キーを決められなかったのね。自分で呪術を編み出したプレイヤーと教わっただけのプレイヤーの差かしら」
興味深い情報もあった。
それはNPCから呪術を教わっているプレイヤーの話なのだが、どうやら彼の方法では習得までにゲーム内時間で一月かかる上に、発動の為のキーは固定、発動の際には触媒が必要になるとの事だった。
私の呪術とは随分と差がある。
だが、習得の確実性と安全性を考えれば、そう言う差が生じるのは当然なのかもしれない。
「あった」
『チュ?』
と、ここで私はエギアズ・1もザリアも使っていた白煙についての情報を見つけ出すことに成功した。
アイテムを鑑定した結果も載せられている。
△△△△△
呪い避けの煙玉
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
硬い物にぶつかると弾け、大量の白煙を生じさせる球体。
強い呪いを宿すものほど視界を遮られることから、呪い避けの力を持っているとされる。
▽▽▽▽▽
「やっぱりか」
アイテム名は呪い避けの煙玉、見た目は黒い球体、大きさは人差し指と親指で作った輪ぐらい。
視界を遮る効果については、おおよそだが40/(異形度+1)メートルくらいにまで視界が遮られるらしい。
私ならば2メートルにまで視界が狭まるとの事だが……明らかにそれ以上の視界制限を受けていた気がする。
となると、周囲の呪詛濃度の影響ももしかしたらあるかも?
「広まり具合は中々のようね」
さて、このアイテムだが、どうやらNPCが街の外で活動していて強力なモンスターに遭遇した際に使用するアイテムのようで、かなり簡単に作れる上にそれなりに広まってもいるようだ。
だから、エギアズ・1などは予選とトーナメントの間にある僅かな時間でも、かなりの数を集める事が出来たのだろう。
「ま、対策にはなれど決定打にはならず、と言う扱いに終わりそうね」
『ざりちゅのおかげでチュ』
「そうね。その通りだわ」
まあ、ザリチュが居る私ならば、臭いで相手のおおよその位置は探れるし、直前であっても姿が見えるならそこまで致命的ではない。
今後使われても、煙玉だけならばなんとかなるだろう。
「決着がついたわね」
と、ここで熊ですとオンドリアの試合が終わったようだ。
勝者は熊です。
両腕を上げて、ガッツポーズのようなものをしている。
「熊ですが次の相手ね」
私は直ぐに熊ですについての掲示板を探し出す。
で、予選、トーナメント一回戦の動画を確認しつつ、掲示板の内容を確認する。
「……。キツいかもしれないわね」
『チュ?』
熊ですは名前こそふざけているように思えるが、実力は確かだ。
他プレイヤーとの交流はほぼ無く、時折ソロでPKを行っている姿が目撃される程度だが、返り討ちにあった事は殆どないようだ。
その身に帯びている呪いは全身を熊にするものと、その上でぬいぐるみ化するものではないかと思われている。
装備品はほぼ無しで、熊の膂力と爪がメインの武器のようだ。
道具袋とポーション瓶すら身に付けているのが見えないが……何処かに隠し持っているようで、何処からともなく取り出している姿が時々見えている。
『何がキツいのでチュ?』
「あくまでも可能性の話だけれどね。これが正しかったら……私の天敵になる可能性すらあるわ」
『天敵でチュか』
熊ですとの戦いで最も恐れるべき可能性は……ぬいぐるみ化が何処まで熊ですの肉体をぬいぐるみにしているかだ。
最悪……
「『毒の邪眼・1』が完全に無効化される可能性もあるわ」
手も足も出ないかもしれない。