74:1stナイトメアバトル-2
「さて……」
エギアズ・1に勝利した私は交流マップではなく、次の戦闘の準備をするためのマップへと移動させてもらった。
理由は単純で、交流マップに戻ったら騒ぎになって、次の戦闘の準備どころでないのが目に見えているからだ。
「まずは鑑定ね」
『問題は無いと思うでチュよ』
「念の為よ」
私は手持ちのアイテムに問題が無いことを確認していく。
特に垂れ肉華シダのボーラは鑑定までして、きちんと確認しておく。
△△△△△
垂れ肉華シダのボーラ
レベル:5
耐久度:82/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
垂れ肉華シダの蔓と瓦礫を組み合わせて作られたボーラ。
周囲の呪詛濃度に応じて強度と破壊力が向上する性質を持つ。
▽▽▽▽▽
「うん、問題なし」
このボーラは今回のイベントに備えて作ったものだ。
単純な投擲武器としても使えるが、予選のように手足に絡みつかせれば足止めも出来る。
また、その気になれば近接打撃武器としても使えなくはない。
此処まで使ってみて感触としては、通常戦闘でも普通に使えそうな感じだ。
メイン材料である垂れ肉華シダの蔓も回収に困らないし。
「……」
『どうしたでチュ?』
「いえ、ザリアの実力はどの程度なのかと思ってね」
さて、アイテムの確認は終わった。
一切問題なしだ。
ちなみに予選で使った垂れ肉華シダとネズミの毛皮を合わせて作ったギリースーツもどきだが、実はアレは敢えて呪わない事で、鑑定対策をしてある。
まあ、もっと上位の素材を用いれば、呪ってもアイテム名称が何とか服の類にならず、『鑑定のルーペ』を向けられても大丈夫なようになるのだろうけど。
『掲示板で調べてみればいいと思うでチュよ』
「まあ、それが一番よね」
私は掲示板確認する。
えーと、ザリアの情報は……幾らかあるか。
あ、トーナメント一回戦で勝ったという情報ももうあるか。
「サボテンちゃんねぇ……」
ザリアは掲示板では名前の他にサボテンちゃんと呼ばれているらしい。
多肉植物の髪の毛と肩の針からそう呼ばれているのだろう。
武器は剣と盾、鎧は革と金属を組み合わせた物、道具袋は腰、投擲物の類は……予選だと針あるいはダーツのような物を時折使ってる。
総合的な実力は掲示板評価ではトッププレイヤーとトップの一段下の間くらいだが、これは信用できない。
「うーん、私対策を何処まで考えてくるかね」
私対策は……エギアズ・1よりは練ってこないか。
いや、練れないか。
流石にゲーム開始から2週間ちょっとでは、プロプレイヤーと普通の大学生だと裏側の層の厚みが違い過ぎる。
まあ、それを言ったら、私なんて情報収集以外の準備が出来ないのだが。
『即逃げ、遠距離からチクチクじゃ駄目でチュ?』
「それが叶うならそれでいいわね。ザリアは全力で来る気なようだけど、最低限の対策もせずに来るようなら、相手をする価値なんて無いし。だからこそ、叶わなかった時はきちんと考えておかないと。でないと、私の方がザリアの相手をする価値が無いわ」
予選と一回戦の映像は……あった。
予選はダイジェスト版を早回しで……いや、等速四分割を四つの目で分けて見るか。
一回戦も目を三つくらい割いてよく見よう。
残りの目は掲示板の確認。
時間が足りない。
「ふふっ」
映像で見たザリアの動きはとても良い。
ザリアは身体の動かす部位を増やすような呪いは持っていない。
つまり、ザリアの動きは人間の範疇から出られない。
だがしかし、いや、だからこそと言うべきか。
ザリアの判断は早く、躊躇いが無い。
手札が限られているからこそ、迷いがない。
「ふふふふふ」
『最初からハイテンションで行くでチュか?』
「そうね。最初からどの方向にも跳べるようにしておくべきだと思うわ」
相手にとって不足はないだろう。
後は、どんなマップが選ばれるかだが……。
「あっ」
『どうしたでチュ?』
「いや、なんとなくだけど嫌な予感と言うか……ああいえ、これは予感じゃなくて論理的に考えて有り得る範疇ね」
『チュウ?』
私は此処で気づく。
もう再三言っている事だが、此処は聖女様の悪夢の中である。
そして私は聖女様に嫌われている。
つまりだ。
「マップが私にとって不利なように構築される可能性があるわ」
『チュー? いやいや、それは無いと思うでチュよ』
聖女様にとって幾らか都合のいい展開になる可能性ぐらいはあるのではないだろうか。
まあ、悪夢であり、運営が存在するゲームであり、私が招かれざるものである以上は、あからさまな差にはならないだろうが、勝率が五分五分のマップから一分傾くぐらいは考えておいてもいい気がする。
と言うか、よく考えてみたら、エギアズ・1との一回戦も足元がしっかりとしていて、隠れられる場所がしっかりと存在していると言う手入れの入った森のマップだった。
両者にとって公平なマップはそれはそれであり得ないと思うが、私にとっての有利要素が存在しないマップになる可能性はそれなりにある気がする。
「まあ、あくまでも可能性だけど……留意しておいてもいいかもしれないわね」
『たるうぃは心配性でチュねぇ』
時間が迫っている。
私にとって不利なマップは……幾つか思いついたし、たぶん対処も出来る。
心配性だとザリチュには言われてしまったが、聖女様抜きにしても有り得ない可能性ではない。
だから、事前に思い至っておいて良かったと思う。
「さて、行きましょうか。ザリチュ」
『チュッ』
二回戦開始の時刻となって、私はザリアとの戦いの場に移動した。
マップは……砂漠地帯のような強い日差し降り注ぐ岩場だった。
04/15誤字訂正