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72:1stナイトメアトーク-4

「まとめるなら、やっぱりバランサーになるような部位は欲しい所なのでしょうか」

「そうなるのかもしれませんね。あるのとないのとでは結構な差があるようです」

 何処から聞きつけたのか、気が付けば空中浮遊持ちのプレイヤーが私とストラスさんの周りには集まっていた。

 その数は10人ほどで、『CNP』全体のプレイヤー数を考えるとやはり少ないという他ない。

 で、全員の制御方法を聞いた結論としては……慣れと根気はとりあえず必須。

 マトモに動き回るのに、ゲーム内時間で最速8時間、人によっては丸二日まであるようだし、気長に根気強くやる他ない。


「後は小回りを利かせるなら、翅のように地面を蹴らずに推進力を発生させる方法が欲しいようですね」

「まあ、そちらは最悪長い鉤爪付きの杖でも用意すればよさそうですけどね」

 その上で立つならばバランサーになるような部位……翼、翅、第三の腕などが欲しい。

 小回りを利かせる場合にも、相応の部位と言うか、呪いと言うか、とにかく何かは欲しいようだ。

 やはり空中浮遊だけではどうにも厳しい面がある。


「でもまあ、やはり総評は……」

「必須だと思わない限りは取得しない。これになりそうですねぇ……」

「残念な話ですが、これから来る新人にまずは丸一日ひたすら転べとは言えないです」

「同感です。どうしても取得するなら……覚悟を持って取得するようにと言うところですか」

 残念ながら結論は変わらなかった。

 なにせ、この場に集まった空中浮遊持ちのプレイヤーの全員が、普段は空中浮遊が無い方が明らかに楽だという認識なのだから。

 勿論、後追いが出てくるなら否定はしない。

 しかし、積極的に勧める事をしたいとは思えない。

 そんな感じだ。


「バグ技のような上昇には思わず笑ってしまいましたね」

「でも、覚えておくと便利ですよ。アレ」

 なお、ほぼ垂直の壁を空中浮遊を利用して登る例のアレについては、この場に居る面々に教えた上で試してもらったところ、見事に再現出来た。

 また、運営にも念のために確認したところ、想定通りの仕様なので、使用しても何の問題もないとの事だった。

 数少ない空中浮遊の利用方法として、今後積極的に利用されるだろう。

 ちなみに見せた直後の周囲の感想としては……


『バグくせぇ』

『浮遊感与えちゃったかぁ』

『ハボック神のお怒りか!?』

 等々、実にユニークなものだった。

 まあ、気持ちはわかるが。


「そろそろ時間ですね。タル様」

「そうですね」

 さて、空中浮遊持ち同士で話をし、情報交換をして、検証を行っていたら、いつの間にかトーナメント開始10分前と言うところだ。

 事前の情報収集は話し合いと並行してやっていたので問題は無し。

 テンションもいい感じに上がっている。


「同じ空中浮遊持ちとして応援させていただきます。トーナメント頑張ってください」

「ありがとうございます。ストラスさん」

 ストラスさんとは今後もやり取りを行うために、フレンド登録を行った。

 何気にザリアに続く二人目のフレンドである。

 なお、情報提供の報酬については今回はこのフレンド登録こそが報酬にさせてもらった。

 検証班であるストラスさんとの繋がりは、今後色々と利がある事だろう。


「あら?」

「タル様?」

 と、此処で私は視界の端に何時の間にやら聖女様が来ている事に気付く。


「……」

 聖女様の表情は険しい。

 そして視線は私にだけ向けられていて、私以外の面々にはまるで興味がないようだった。


「いえ、何でもありません。少し気になる事がありましたが、勘違いだったようです」

「そうです……いえ、気のせいでもないみたいですよ。タル様」

「と言いますと?」

「エギアズのメンバーが何人か私たちの検証を見に来ていたようです」

「ああ、その事ですか。見られて困る事はしていないので、問題ないですね」

 よく見てみれば、確かに金属質の肌を持った人間の姿が幾つか見える。

 なるほど確かにエギアズのメンバーは居たようだ。

 聖女様は……もう無視でいいか、特に何か仕掛けてくるわけでもないようだし。


「……。タル様はエギアズについてはどの程度ご存じで?」

「検証の合間に掲示板で一通りの事は調べました。プロゲーマーの集団だそうですね。そして、私の対戦相手であるエギアズ・(ワン)は彼らのリーダーである、と」

「なるほど。だいたいの事は分かっているんですね」

 もうすぐトーナメントが開始されると言う事もあり、私は軽く準備運動を始め、周囲に注意を促した上で軽くフレイルを振り回したりもする。


「私個人で気になる事と言えば、彼らの人となりですね」

「人となりですか?」

「ええ、ストラスさんは知っていますか?」

「……」

 私の言葉にストラスさんは少し悩む。

 ストラスさんは検証班であって情報屋ではない。

 だから、公にされた情報に詳しく、確度を上げる事は得意でも、公にされていない情報については詳しくないだろう。

 だから、返って来れば美味しい程度の質問だったわけだが……。


「私の知る限りでは、エギアズは評判のいいプロゲーマー集団ですね。誰かを馬鹿にする事もありませんし、他プレイヤーとも協力的です。訓練で『CNP』に来ているとは言っていますが、ちゃんと楽しんでいるとも思います。自分たち独自の情報を隠すくらいはしているでしょうけど……」

「それはMMOの宿命と言うか、当たり前の事ですね。私も呪術については大部分を秘匿している状態ですから」

「ですよね。リーダーであるエギアズ・1も集団の長としてしっかりとしているという話は聞いても、悪い話は聞きませんね。今、外部の方で検索をかけても、性格面で悪い評価の話は聞きません。あ、エギアズ全体で言えば個人よりは集団で優れたプロゲーマーと言う評価らしいです」

「なるほど。少なくとも精神性は本物、と言う事ね」

 結構返ってきた。

 そして、その言葉に私は相手の評価を上方修正しておく。


「本物?」

「本物のプロゲーマーと言う事です。今の時代、表面すら取り繕えない人間は何処まで行っても二流止まり。他人を表立ってけなし、馬鹿にし、真摯に取り組めないものの成長などたかが知れています。それが無いのであれば、精神面の実力は確かと見ていいでしょう」

 さて、もう時間だ。


「では行ってきます」

「頑張ってください。タル様」

「応援してるぞー!」

「空中浮遊持ちの力を見せてやれ!」

「やりたい放題やってやれ!!」

 私はトーナメント本戦の準備を行う空間へと飛んだ。

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