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71:1stナイトメアトーク-3

「さて、どうしようかしらね」

 トーナメントの開始まで、ゲーム内時間で約三時間。

 掲示板からの情報収集はやっておくが、それだけで時間を潰し切るのは無理がある。

 まあ、本気で優勝する気があるプレイヤーである上に、自分に足りない物が明確に認識できているのなら、この時間を使って要注意プレイヤーへの対抗策を練ったり、少しでもいいからレベルを上げたりするのだろう。


「でも私にそれは無理ねぇ」

 だが、そのためには予選の映像と掲示板から的確な情報を抜き取り、豊富なPvP経験と広範な知識に基づいて相手の長所と短所を見極める必要がある。

 そして見極めた後には、アイテムによる対抗策を練るならば、どんなアイテムをどのように加工すれば目的を達成できるのかだけでなく、どのタイミングで使えば作ったアイテムが有効に使えるかを脳内で試算したのちに、実戦で行えるように訓練しなければならない。

 戦術による対抗策や、無いとは思うが呪術による対抗策でもこれは同様。

 また、レベル上げでの対処ならば、適度なところで切り上げて戦いに疲れを残さないタイミングの見極めや経験値取得の効率化などが求められるだろうか。

 いずれにしても、私一人で行うには少々無理がある内容である。

 最低限として、情報の抜き取り、アイテムの製作、戦い方の練習相手くらいは身内で用意できないと、トーナメントまでに間に合わないだろう。


「さあ、賭けの時間だ。32人の内、誰が勝つか。大いに賭けようじゃないか」

「スクナ一択でしょうよ」

「いいや、俺はサボテンちゃんだね」

「おいおい、エギアズの連中を忘れるなよ」

 さて、思考を交流マップの方に戻そう。

 交流マップの方は予選とトーナメントの間にある休憩時間と言う事もあってか、多少人が少なめのように見える。


「この辺の飲料ってゲーム内でも回収できんのかね」

「どうだろうなぁ……ぶっちゃけ、第一エリアですら満足に探索しきれていないのが現状だしな」

「広いよなぁ……街から大きく地形の様相が変わる場所まで直線でも最低40だったか?」

「そうそう。それでモンスターと霧とダンジョンのせいで碌に探索が進まないんだわ」

 交流マップでは、その目的通りにプレイヤー同士の交流が行われているようだ。

 本戦出場者で誰が優勝するのかで賭けを行っているプレイヤーたちの姿もあれば、飲み物を飲みつつ雑談をしているプレイヤーも居る。

 模擬戦は相変わらず賑わっているようだし、レベル上げ用のダンジョンに潜っているプレイヤーもそれなりに居るようだ。


「聖女様とか居ないのかしら?」

 私は周囲を見渡してみる。

 服装から私がトーナメント出場を決めているタルだと分かっているのか、遠巻きにこちらの様子を窺っているプレイヤーは居る。

 しかし、彼らに興味は無いので無視。

 誠意をもって話しかけてきたら相応の誠意で返すが、失礼な態度で来たら即座にGMコールである。


「んー……普通の高異形度プレイヤーって今回のイベントは観戦と交流しか出来ないし、聖女様関連で何かが出来てもおかしくは無いと思うんだけど……」

 聖女様は見かけない。

 たぶん何処かに居て、高異形度プレイヤーが見つけて接触を図れば、何かしらのイベントがあるとは思うのだが……。


「あ、あの、すみません。トーナメント出場者のタル様、ですよね」

「はい?」

 と、ここで女性の声で私にかけられる声があったので、私はそちらの方を向く。

 そちらに居たのは地面をするような長さのロングスカートと半袖のシャツを身に着けた女性。

 首から『鑑定のルーペ』を提げているので、プレイヤーと見てよさそうだ。


「私、『CNP』の各種検証を行っているプレイヤーのストラスと申します。タル様にお聞きしたい事があるのですが、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」

「ああ、検証班の人ね」

「そう呼ばれることも多いですね」

 私の言葉にストラスさんは小さく頷く。

 それにしても検証班か……ストラスさんは礼儀正しい人のようだし、話をするのは問題ない。

 しかし、私に聞きたい事か……。


「それで話の方は……」

「内容によりますとしか言えませんね。流石にトーナメント前に呪術や私の所有物について明かすわけにはいきませんから」

「それは勿論です。こちらとしてもそのような重大事は聞きませんし、聞けません」

 どうやら呪術や私の所有物についての話ではない。

 ストラスさんの表情からして、むしろ私が話しそうになったら、全力で止めにかかるくらいはありそうか。


「では、聞きたい事とは?」

「空中浮遊についてです。その……私も空中浮遊を使っているのですが、どうにも上手く扱えているとは言い難いのです。ですので、空中浮遊を使いこなしているタル様にコツの一つでも聞けたらと思い、窺ったのです」

「なるほど」

 ストラスさんがロングスカートの裾を少しだけ上げる。

 すると、地面に触れていない足が見えた。

 また、その足が少し前に出ている事を考えると……どうやら足の数も増やしているようだ。


「あ、もちろん対価はお支払いさせていただきます。ご満足していただけるとは限りませんが、出来る限りの事はさせていただきますので、どうかお話を聞かせてもらえないでしょうか」

「うーん……」

 それにしても空中浮遊のコツか……何処か必死そうなストラスさんには申し訳ないが、空中浮遊はなぁ……。


「残念だけど私の空中浮遊の制御は根気と慣れによるものだから、これと言ってコツのようなものは無いわね。勢い良く地面を蹴る事で移動するのは貴方もしている事だろうし、私の場合細かい制御は翅を動かしてやっているから、多分参考にはならないわ」

「根気と慣れですか……参考までにお伺いたいしたいのですが、タル様はマトモに立って動き回れるまでにどれぐらいかかりました?」

「ゲーム内時間で8時間と言うところね。ひたすらに転んでは立っての繰り返しだったわ。ストラスさんは?」

「私は丸一日と言うところでした。とにかく立つのもやっとというところでしたね……」

 私とストラスさんは揃ってため息を吐いた。


「やっぱり慣れるしかないですよね。空中浮遊(これ)

「慣れるしかないですね。それこそ二足歩行を学び直すように」

 とりあえずの結論、慣れる他なしである。


「あ、近くの露店で飲み物を貰いましょうか。もう少し詳しく話をしたいです」

「そうですね。もしかしたら二人のやり方を比較すれば、理論のりの字くらいは見えるかもしれません」

 ただまあ、もしかしたら細かい部分で何か違いがあるかもしれない。

 そして、その違いから何か分かる事もあるかもしれない。

 私とストラスさんはそう判断すると、近くの露店で飲み物を貰い、適当な椅子に腰かけた。

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