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70:1stナイトメアトーク-2

「タル。単刀直入に聞かせてもらうわ」

「何でしょうか?」

 ザリアの表情からして、相応に真剣な話のようだ。

 なので私も真剣な顔つきでザリアの顔を見る。


「サービス開始二日目に、呪術によって超遠距離からのPKを行った覚えは?」

「PKですか……」

 『CNP』サービス開始二日目と言うと……『毒の魔眼・1』を習得した日だったか。

 あの日にPKは……一度しているな。


「した覚えはありますね。ダンジョンの外壁が崩れていた場所から外に向けて呪術を放ち、六人組に仕掛けた覚えがあります」

 私の言葉にザリアは反応らしい反応を見せなかった。

 代わりに反応を見せたのがシロホワで、何処か唖然としているようだった。

 オクトヘードさんは無反応。

 ブラクロは……いつの間にか居なくなっているか。


「で、どうしてそんな質問をしたのかを聞いてみても?」

 正直なところを言えば、だいたいの予想は付いている。

 確証がないだけだ。

 それでも私は何も知らないフリをして、ザリアに問い返す。


「その六人組が私たちだったからよ」

「ああ、そう言う事でしたか」

 ザリアの視線が更に鋭さを増し、殺気と呼んで差支えが無いほどのものになる。

 だがそれでも私は表情を変えない。

 理由は単純。


「それで私に何を望みますか? 賠償ですか? 謝罪ですか? それとも告発でもしますか?」

 これは戦いであるからだ。

 武ではなく、知と心を用いるものであるが、確かに戦いであるからだ。

 ならば、表情は変えず、冷静に淡々と進めるのが正しい。

 結果がどうなろうとも。

 それこそ、ザリアだけでなく財満さんまで敵に回したとしてもだ。


「まさか」

 そして、私の口が閉じると同時に、ザリアは私の口から出てきたものとは異なる答えを出してきた。


「『CNP』はPKを認めているゲームよ。それも正面から正々堂々と挑むものだけでなく、罠にかけて嵌めるようものや、だまし討ちの類だって認められている。それはタルが今こうしてこの場に居る事からも確かよ」

「ええ、そうですね」

「だから私が望むとしたら、タルが二回戦に進出して、私と全力で戦う事ぐらいなものよ。その時が来たら私は……貴方を全力で殺しにかかるわ」

 ザリアの口から殺すという言葉が発せられると共に、明確な殺気が私に浴びせられる。

 その殺気を浴びた私は……思わず笑みを浮かべてしまった。

 興奮を抑えきれなかった。


「……。タル、どうして笑っているのかしら?」

「笑いたくもなります」

「私がゲームでやられた怨みを根に持っているような女だから?」

「ある意味ではそうですね」

「……」

 ザリアの視線の鋭さが増す。

 今すぐこの場で切り捨ててしまいたいと言うような視線だ。

 ああ本当に……本当にゾクゾクする。


「一つ訂正をするなら、この笑みは嘲笑ではなく歓喜です」

「歓喜?」

「ええ、現実でもゲームの中でもこれほどの殺意を憎悪をぶつけられたことは無かった。その未知なる感覚に私は喜びを感じずにはいられないんです」

 未知なる感覚がある。

 ザリアの殺意、憎悪、嫌悪、ありとあらゆる負の感情が私に向けられている。

 良い子でないといけない現実や所詮は競技会と言ってもいい予選では決して感じられなかった感情。

 ベノムラードに毒ネズミたちとの戦いでもこれほどの物は感じなかった。


「タ……ル……?」

「そう何度も味わいたい物ではありませんし、常々浴びたい物でもない。けれども一度も現実に体験したことが無い感覚。それを味わう事の出来る喜びがどれほどのものであるか、ザリアには分かりますか? 分からなくても構いません。けれども私にとってはとても素晴らしい物なのです。ただそれだけを理解してもらえれば十分です。その結果としてザリアから更なる負の感情を……ああ、侮蔑、困惑、恐怖、どれも素晴らしい物ですね。心の底から、骨の髄まで、隅々まで味わい尽くしたい。ですから、どうかザリア、ああ、目を逸らさないでくださいー」

 気が付けば私はザリアに詰め寄り、息がかかるほどの距離にまで顔を近づけてしまっていた。

 そして何故かザリアは私の顔を両手でつかみ、全力で引き離そうとしていた。

 あ、いつの間にかザリアの背後に壁がある。

 はて、何時の間にこれほど移動してしまっていたのだろうか。

 まあいいか、それよりも今はザリアから浴びせられる負の感情をもっと……もっと……もっと!

 味わい過ぎて飽きてしまうまで味わい尽くしたい。


「この……いい加減にしなさい!」

「あうっ!?」

 ザリアの額が私の額に当たり、その衝撃で私はその場で倒れる。


「ぜぇ……はぁ……まったく……いったい何処に何のスイッチがあったのかしらね」

「痛い……っつ!? いたっ! いたたっ!? 関節が極まって!?」

『妥当な対応でチュ』

 そして、ザリアは素早く私を床に組み伏せる。

 武術の経験がない私ではどうやれば抜け出せるのかも分からないぐらいに、しっかりと抑えられている。


「ああでも、これはこれで……」

 しかし関節を極められる痛みと言うのも未経験の物であり、これはこれで素晴らしい物があると言うか、ああ、気持ちいい。


「えと、タルさんってマゾヒストなんです?」

「え? 違いますけど? 私は未知なるものが好きなだけで、痛みの類なら取り返しのつかない物や二度目なんかは断固として拒否しま……ああっ、痛い! 痛い! ザリア痛い! 痛いけど気持ちい……オフン!?」

 ただ、シロホワの被虐趣味(マゾヒスト)と言う言葉にはしっかりと反論しておこう。

 私は痛めつけられる事が好きなわけではないし。


「ああ、ようく分かったわ。とりあえずタル。二回戦に上がってきたら全力で、私の想い全てを乗せて、針千本飲ませるくらいのつもりでぶちのめしてあげるわ。だから二回戦に上がってきなさい。それで勝敗に関わらず、この件はお終いよ」

「楽しみにしてます。ザリアこそ、私を気にしすぎて一回戦敗退なんて事にならないでくださいね。まあ、私が一回戦を勝てるとも限りませんけど」

 ザリアの声が何故だか呆れ気味の物になっているように思える。

 そして開放もされた。


「あの呪術で一瞬じゃないの?」

「相手が対策を立てられないレベルのプレイヤーだとは思っていませんから」

 私は立ち上がると、少し強めに摘まみつつザリチュを被り直す。


「上がれたなら二回戦、楽しみにしてます」

「そうね。全力で戦いましょう」

 私もザリアも笑みを浮かべる。

 相手を何としてでも倒してみせると言う好戦的な笑みを。


「では」

「ええ」

 そして私は部屋を後にして交流マップの方へと移動した。

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