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7:ファーストバトル-2

「やっぱりあった」

 セーフティーエリアを出た私は直ぐに目の前の通路にある瓦礫の山へと向かった。

 そして、『CNP』の仕様通り、瓦礫の山として積み上がっている数々の物品は回収が可能だった。


「これなんかがちょうどいい感じね」

 私は手頃な長さの鉄筋にコンクリートの塊がくっついてメイスのようになった物を手に取り、『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

鉄筋付きコンクリ塊

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


鉄筋にコンクリートの塊が付いた物体。

▽▽▽▽▽



「さて、リベンジかしらね」

 鑑定結果には特に妙な記載はない。

 二度、三度と振っても見たが、反動で身体が妙な方向を向くぐらいで、問題はなさそうだ。

 なお、反動で体の向く方向がおかしくなるのは、言うまでもなく空中浮遊のせいである。

 踏ん張りがきかないと言うのは本当に面倒な事である。


「すぅ……はぁ……」

 ちなみに『CNP』にはファンタジーによくあるインベントリの類は存在しない。

 もしかしたら呪いを利用する事で使えるのかもしれないが……現状ではどうしようもない。


「よし」

 私は頭の中で戦い方のイメージをする。

 そうして十分にイメージすると、鉄筋付きコンクリ塊と言うそのままな名前の物体を片手に、先程ネズミに噛み殺されたオフィスへと向かう。


「……」

「ヂュヂュア……」

 私がオフィスに入ると、私を噛み殺したネズミが椅子を齧っていた。

 ネズミは私の姿を認識すると、先程と同じようにこちらの事を獲物と認識した目を向けてくる。


「鑑定っと」

 私はネズミが動き出す前に素早く鑑定する。



△△△△△

毒噛みネズミ レベル5

HP:1,522/1,522

▽▽▽▽▽



「私より圧倒的にレベルが高いじゃないの!?」

 レベルよりもプレイヤースキルとアイテムが重要なゲームであると聞いているので、敵の方がレベルが上でも問題は無い。

 問題は無いが、間違ってもゲーム開始直後のプレイヤーが戦う相手ではないと思う。

 と言うか毒噛みって事は毒持ちなんですか? ヤダー!?


「ヂュアアアッ!」

「っと!」

 と、私のテンションが少々おかしくなりかけたところで、毒噛みネズミが突っ込んできたので、私はその場で大きく跳ぶ。

 すると空中浮遊の働きと、忙しなく動く六枚の虫の翅のおかげで私の身体は床から2メートル近く跳び上がり、毒噛みネズミでは決して手が届かない高さに達する。


「ヂュアッ!?」

 すると加速が乗っていた毒噛みネズミは止まることも出来ず、さりとて私に攻撃することも出来ず、ならば私が降りてきたところで噛みついてやろうと、急停止をかけた上でこちらを向こうとする。


「ふんっ!」

「ヂュゴッ!?」

 そこに私のコンクリ塊が振り下ろされる。

 それだけで毒噛みネズミの口から奇妙な声が漏れ、衝撃でその場で倒れる。


「よっと」

 だが、毒噛みネズミは死んでいなければ、気絶もしていない。

 痛みによって、少しばかり怯んだだけだ。

 だから私は地面に倒れた毒噛みネズミの背に跨ると、太ももをきっちり締めて、身体を固定する。


「せー……のっと!」

「ヂュ……ギガッ!?」

 そして、容赦なくコンクリ塊を毒噛みネズミの後頭部に振り下ろす。


「ふんっ、せいっ! さっきの、怨み! 晴らさずに、おくとでも!?」

「ヂュゴッ!? ヂュガッ!? ギュゲ!?」

 一度だけでなく、二度、三度と毒噛みネズミの息の根が完全に止まるまで。

 コンクリ塊に付いている鉄筋から伝わる鈍い感触、が命あるものではなく命なきものを相手にしている感触に変わるまで。

 毒噛みネズミが暴れて、私を落とそうとするよりも早く殴り続けて、一切の反撃を許す事もなく。

 ひたすらに攻撃を続ける。


「ふう、何とかなったわね」

「……」

 やがて毒噛みネズミは息絶え、完全に動きを止める。

 うん、リベンジ成功。


「ん?」

 そうしてリベンジが上手くいった事に対して私が感慨に耽っていると、死んだ毒噛みネズミに異変が生じる。


「なにこれ……」

 毒噛みネズミの身体が急速に乾いていく。

 薄汚れた皮は萎びて、毛先から塵に還っていく。

 毛が無くなれば皮が、皮が無くなれば肉が、肉が無くなれば血も骨も内臓も関係なく全てが風化、そして風も吹いていないのに毒噛みネズミだった塵は独りでに散っていく。

 それは残酷と言うよりは異様な光景だった。


「あ、前歯だけ残った」

 そうして毒噛みネズミの体が風化しきった後に残っていたのは、私の顔ほどの長さを持つ前歯が一本だけだった。


「んー……」

 私はとりあえず毒噛みネズミの前歯を手にとった上で、周囲を警戒。

 危険が無いことを確かめた上で少し考える。


「なにかありそうな気がしなくともない」

 先程の風化現象は、普通のゲームならばアイテムのドロップ描写のような何かで流していい部分だと思う。

 しかし、何となくだが、無視してはいけない部分な気がする。

 と言うのも、ドロップ描写にしては異様であると同時に、時間がかかり過ぎている気がするのだ。

 私のゲーム好きの部分が囁いている、何かある、と。


「まあ、情報不足だけど」

 とは言え、現状ではその何かの正体など分かるはずもないのだが。


「とりあえず鑑定っと」

 私は毒噛みネズミの前歯を鑑定してみる。



△△△△△

毒噛みネズミの前歯

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:5


毒噛みネズミの大きな前歯。

周囲の呪詛を利用して、傷つけたものへ毒を注ぎ込む。

与ダメージ時:毒(1×呪詛濃度)

▽▽▽▽▽



「へー、毒を……」

 私は改めて毒噛みネズミの前歯を見る。

 毒噛みネズミの前歯の太さは私がちょうど片手で持てる程度であり、先端は彫刻刀のように鋭く尖っている。

 そして、ダメージを与えた時に毒を与えるという効果。


「天然の毒ナイフね」

 毒の効果量や先端の切れ味にもよるが、使い勝手自体は悪くなさそうである。

 なので私は右手に鉄筋付きコンクリ塊を持つと、左手に毒噛みネズミの前歯を持つことにする。


「こうなってくると次に欲しいのは物を持ち運ぶための袋とか紐の類かしらね。オフィスの何処かに使えそうな物が転がっているといいんだけど」

 私はオフィスを見渡す。

 毒噛みネズミと思しき何かが動く様子が時折見て取れる。

 私と先程の個体との戦いに割り込んで来なかったのは仲間意識の低さなのか、仕様なのか……まあ、後で少しずつ確かめるとしよう。

 次に『鑑定のルーペ』を使用。

 机や本棚と言った物品が持ち運び可能なアイテムである事を確認する。


「……」

 頭の中で少し試算して、考えている事が実行可能かを検証。


「よし、始めましょうか。目標は袋二つね」

 出来ると判断した私は他の毒噛みネズミたちの警戒範囲に入らないように気を付けつつ、必要な物を探し始めた。

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