69:1stナイトメアトーク-1
「……っと」
『チュア』
予選マップから交流マップに戻ってくると同時に、私の視界が一気に狭まっていく。
そして、イベント開始時のように少しだけよろめき、たたらを踏む。
「おめでとう、タル君」
「オクトヘードさん」
姿勢を正した私にオクトヘードさんが声をかけてくる。
なので私は体と首を動かし、向き直る。
うん、翅が消え、空中浮遊が無くなり、髪の毛が幾らか伸びるのも変化ではあるのだが、やはり視界の変化と言う目に見える違いは大きい。
こうしてきちんと体を動かさなければ、相手の姿が見えないのだから。
「私の予選を?」
「ああ見ていた。見事であると同時に興味深かったよ」
「そうですか。楽しんでもらえたなら嬉しいですね」
部屋の中に居るのは……オクトヘードさんとシロホワの二人だけか。
そのシロホワは何処か気まずそうにしている。
興味深いと言うのは……まあ、呪術の事だろう、教えないが。
「皆さんの結果は?」
「私、シロホワ君、オンガ、ロックオ君の四人は予選落ちで、オンガとロックオ君の二人は交流に出かけている。私とシロホワ君は此処で観戦だね。ザリア君とブラクロ君はまだ予選の真っ最中だ」
なるほど。
この部屋の中では、一応私がトーナメント一番乗りか。
「予選の終わり具合は?」
「32ブロック中22ブロックが終了済み。早期にサプライズが発生して異形の化け物が現れたところが、やはり早くに終わっているかな」
「ああ、あの海月ですか……」
「まあ、最速の所は積極的に索敵し暴れ回ったのが十数人居た結果として、最速になっていたが。サプライズも起きなかったよ」
「……。要警戒ですね。そのブロックからの進出者は」
「掲示板にトーナメント出場者のまとめがあるから、後で見ておくといい」
「ありがとうございます。後で見ておきますね」
私のように姑息と言ってもいい立ち回りで勝ち上がってきたのではなく、純粋な正面突破で上がってきたプレイヤーはトーナメントで一対一の戦いになれば、予選以上の力を発揮するに違いない。
対策を立てられるかは別として、知っておいた方がいいだろう。
「それでタル君はこれから……」
「戻ったぞおおぉぉ! いやっはああぁぁ! トーナメント進出だ!!」
「兄ぇ……」
と、ここで光に包まれてブラクロが現れる。
どうやら予選を勝ち抜いたらしい。
「今戻ったわ。はあ、意外ときつかったわね。何とかなったけど」
「あら、ザリア」
「おめでとうザリア君」
そして10秒も経たない内に光に包まれてザリアが現れる。
どうやらザリアも予選を勝ち抜いたようだ。
「えーと、オクトヘードさん。状況は?」
「タル君、ザリア君、ブラクロ君がトーナメント進出だ。おめでとう」
所持品は戻ってきた時点で予選開始前の状態に戻っている。
ただ、疲れ具合からして、ブラクロは割と余裕で、ザリアはそれなりに厳しい予選だったようだ。
「あのザリアさん。お疲れのところ悪いのですが、ちょっと話が……」
「どうしたの? シロホワ」
「いやー、見てたか? 俺の大活躍。敵を千切っては投げ、千切っては投げ……あれ?」
と、シロホワとザリアが二人で話を始める。
ブラクロは自分の戦いを自慢したげだが、どうでもいい。
「話を戻すがタル君はこれからどうする?」
「そうですね……。トーナメント開始までリアル時間で1時間と少し。トーナメントの組み合わせ表が出るのももう暫く後なので、一度ログアウトして体をほぐしてこようと思います。その後は掲示板を見て、傾向と対策を練ろうかと」
「そうか、時間には気を付けるといい」
「はい、勿論です」
私はセーフティーエリアに移動すると、ログアウトした。
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「ログインっと……」
『お帰りでチュ。たるうぃ』
はい、リアル時間で30分ほどかけて、この後に専念するための準備は整えてきましたよっと。
トイレとか、燃料補給とか、水分補給とか、その他雑事とか、全部終わらせたので、これでイベント終了までログアウトの必要は無しである。
『運営からメッセージが来ているでチュよ』
「……。ザリチュ、アンタそう言うことも出来るのね」
『チュ』
ザリチュの意外な機能はさておき、メッセージの内容は……決勝トーナメントの開始時刻とトーナメント表の配布か。
どうにも三回戦までは一斉に行い、準決勝からは一試合ずつ進めていく日程のようだ。
で、肝心の一回戦の相手は……
「エギアズ・1?」
エギアズ・1と言う名前のプレイヤーだ。
掲示板で調べてみたところ、プロプレイヤーのようで、異形アバターに慣れるためにプレイしているようだ。
見た目としては銀色の金属製の肌で全身を覆い、その上から革鎧を身に着けている。
戦い方は剣と盾を使って戦うシンプルな物で、シンプルであるが立ち回りの上手さもあって隙は少なそうだ。
異形については全身が金属製の肌で斬撃と刺突に強い事や、隠し腕とでも言うべき第三の腕が腰にあって自分の周囲を薙ぎ払う姿が予選で目撃されている。
「んー……見えている範囲なら相性は悪く無いわね」
私は遠距離型で、防御力を無視できる状態異常特化だ。
地形にもよるが、カタログスペックだけを見るなら、私の方が圧倒的に有利だろう。
尤も、プロを名乗るような人間が自分と相性の悪い相手への対策を持っていないと考えるのは、舐めているとしかいいようのない考えだが。
「ん? ああ、二回戦に行ければ、ザリアと当たる可能性もあるのね」
『チュウ』
どうやら、私とザリア、両方が勝てば、二回戦は顔見知り同士の戦いになるらしい。
まあ、これは一回戦を勝ってから考えるべき事か。
「とりあえずザリアたちと合流しましょうか」
私はセーフティーエリアから部屋に戻った。
「……」
「ザリア?」
そして突き刺さったのは針のように鋭く、同時に怨みのような物が混ざったザリアの視線だった。
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03/09誤字訂正