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67:1stナイトメアヒート-7

本日二話目です。

また、明日からは一話更新に戻ります。

「居た」

 移動する事数分。

 私の視界に二人のプレイヤーが入ってくる。

 二人のプレイヤーは平原のような場所で武器を構え、お互いを探すように周囲を警戒しながら動き回っている。


「えーと、現在の呪詛濃度は9。異形度5なら……125メートルまではギリギリ見えているんだったかしら。でも、ギリギリ見えているだけだから、実際の視界は50メートルがいいところかしら」

 私の目算通りなら、他のプレイヤーの位置を示す矢印は100メートル以内に近づくと消失する。

 対して二人のプレイヤーは見た目からして異形度3前後。

 となれば視界はギリギリ見える範囲でも100メートル以下、そんな状態で相手を探し出して戦うと言うのは中々に厳しいかもしれない。


「なんにせよ、私にとっては好都合。『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「なっ!?」

「そこかっ!?」

 場が動く。

 私の8つの目による『毒の邪眼・1』によって毒を受けたプレイヤーが声を上げ、その声に反応してもう片方のプレイヤーが動き出す。

 そして二人は接敵し、交戦を始める。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「っ!?」

「お前じゃない!?」

 そのタイミングで私はチャージを遅らせてタイミングをずらした『毒の邪眼・1』5つ目分をもう片方のプレイヤーに叩き込む。

 これで二人に入った毒は推定90と50。

 50の方にもう少し毒を乗せたいところではあるが、ほぼ間違いなく二人とも死亡確定。

 私は他の矢印の向きと位置に気を使いつつ、二人から距離を取っていく。


「くそっ、追いつけ……」

「ちくしょう……」

 と、案外あっさり逝ったか。

 90の方が50の方に回復アイテムを渡して、私を追わせるぐらいは想定していたのだが。


「じゃあ次ね」

 私は二人の死体があった場所でドロップ品を回収すると、HP回復結晶体については直ぐに使っておく。

 この先はもう何処で休めるか分からないし。


「て、もう残り4人……いや、3人か」

 どうやらだいたいと言えども相手の位置が分かるようになったことで、場が一気に動き始めたようだ。

 気が付けば矢印が長い2本だけになっている。


「……。異形度9以上あるいは視覚以外の手段による位置把握。これは想定しておいた方が良いわね」

 此処まで来たプレイヤーが事故死は無いだろうし、残り二人に倒されたか相打ちになったかのどちらかだろう。

 そして、残り二人が倒したにしては少々減りが早い。

 私の毒殺にかかる時間の長さを考慮に入れてもなおだ。

 つまり、この二人は効率的に敵を発見し倒せる方法を持っていると言う事だ。

 場合によっては私と同じように呪術を使える可能性も考えておいた方がいい。


「残り300メートルってところかしらね」

 矢印は二本とも短くなっていっていた。

 それは二人とも私に向かってきていると言う事だ。

 だから私は二人が途中でかち合い潰し合うのを狙ってみたが……駄目か。

 気付かれた。

 お互いの距離が300メートル前後になったところで、どちらの動きも止まった。


『たるうぃ?』

「ま、今の状況だと先に戦闘を開始した二人が不利よね。残った一人が漁夫の利を狙うのは見え切っているわけだし」

 私はザリチュを被り直して、状況を再確認する。

 私が今居るのは森の端。

 残りの二人の位置はだいたいは分かっているし、姿も一瞬だから見えたのである程度分かっている。

 だが、障害物の都合で現在は目視出来ていない。


「片方は頭が光る花」

 残り一人の内の片方、丈の短い草原で岩の影に隠れているのは頭が光る花の人物で、騎馬槍……ランスのような物を持ち、体は金属製の鎧で覆っていたか。

 明らかに近接戦闘専門でこちらの位置を探る方法などなさそうなのだが、何かはあるのだろう。

 体にかかった呪いか、アイテムか、呪術なのかは分からないが。


「もう片方は軽装だったわね」

 もう片方は荒地の岩の影に隠れている、全身を布製と思しき軽めの装備で隠した人物で、武器は恐らく短剣の類。

 こちらは近接専門と言うよりは索敵と奇襲も出来るタイプだろう。

 と、私の呟きに少し反応が見えたか?

 ならば、聴覚強化の類かもしれない。

 少し試すか。


「荒地、岩陰の方、もう一人は草原で岩の影。武器はランス。防具は頭以外を覆う全身鎧。頭には光る花があります」

 うーん、面白いように荒地の方は反応する。

 何をしているのか詳しいことは分からないが、動揺しているのは何となく分かる。

 が、この呟きで私に対する警戒を強めたのか、光る花の方に行く様子はむしろなくなっているか?

 光る花は……岩陰から私の下に辿り着くまでに遮蔽物が無いので、攻めあぐねているようだ。

 いずれにせよ、二人ともまだ手持ちの遠距離攻撃手段の射程範囲外なのか、私のようにはっきり見えていないかなのだろう。

 此処からどうするか思案している様子だ。


「……」

 よろしい、ならば一人ずつ仕留めるとしよう。

 いっそ理不尽と言ってもいい手法でもって。


「ふんっ!」

 私は木の梢から空に向かって飛ぶ。

 そして、最高到達点に達したところで全力で羽ばたき始め、今まで居た場所から5メートルほどであるが跳び上がり、限界に達したところで両手両足の甲を目標に向ける。

 それは、傍から見れば、十字架に磔にされた悪魔のようにも見える姿かもしれない。

 そんな動きに、水平距離しか示さない矢印では何をしているのか分からない為か、光る花の方はなんら動きを見せず、岩の影でじっとしている。

 対する荒地の方は私が宙を舞っている事を知覚し、これから来る攻撃が岩陰に居ては対処できないと判断したためだろう、岩の影から跳び出すと私の方に向かってくる。


 詰みだ。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「!?」

 私の13の目が深緑色の光を発すると共に、岩陰から飛び出してしまっていた荒地の方のプレイヤーに毒が叩き込まれ、その場で倒れる。

 叩き込まれた毒は確実に100以上、後は放置するだけで勝手に死ぬ。

 ただ、荒地の方の判断は一般的には間違っていなかった。

 自分の守りを貫く何かを相手が飛ばしてくるのならば、その場から動いて避けるのが正しい。

 だが、私の『毒の邪眼・1』に対して避けると言う選択肢は存在しない。

 見えている時点で逃れられず、全方位を視界の制限なく私の目から逃れたいのであれば、物陰に身を隠す以外の選択肢はないのだから。

 まあ、私と相対した自分の運が悪かったと思ってもらう他ない。


「問題は此処からね……」

 さて、此処から次の『毒の邪眼・1』発動まで、クールタイムとチャージタイム合わせて15秒。

 光る花の方のプレイヤーは私の『毒の邪眼・1』の光を見て何かを察したのか、真っ直ぐに私の方へと駆けてきている。

 彼我の距離は約300メートル。

 金属鎧を身に着け、重そうなランスを持っているのだから、300メートルを15秒で詰めるのは一般的には不可能。

 だがここは現実ではなく、『CNP』と言うゲームの世界の中である。

 光る花のプレイヤーは……


「はああああぁぁぁぁぁっ!」

 ランスの穂先を前に向けて構えた状態で、明らかに人間離れしたスピードで私の方に突っ込んできていた。

 恐らく300メートル詰めるのに10秒もかからない。

 その後は足の速さの都合からして、森の中と言う遮蔽物の多い空間でやり合う羽目になる。

 それはよろしくない。


「すぅ……はっ!」

 だから私は道具袋の中から今回のPvPの為に作ったアイテムの一つを取り出すと、空中で半分きりもみ回転のような動きで加速を付けてから投擲した。

 それは激しく回転し、遠心力によって一本の棒のようにも見える姿で真っ直ぐに飛んでいく。


「こんなものが!」

 光る花のプレイヤーの反応は鋭かった。

 ランスを素早く振り上げる事で、斜め上から飛んできた私の投擲物を弾こうとした。

 だが、それで詰みだ。


「ごがっ!?」

 私の投擲物と光る花のプレイヤーのランスが接触した瞬間、私の投擲物は接触した場所を支点として折れ曲がった。

 そして両端に付けられた重りは勢いを増しながら、光る花のプレイヤーの手と頭を打ち据え、その動きを止める。


「せいっ!」

「ごばっ!?」

 続けて二投目。

 縄の部分が光る花のプレイヤーの胴に接触し、縄が絡まって動きを制限しつつ、その体を激しく打ち据える。

 そうして15秒経過。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「っつ!?」

 トドメである。


「さて、後は待つだけね」

 私は二人から距離を取るように移動する。

 何かしらの方法で毒を回復し、生き延びる可能性は否定できないし、毒が効くまでの最後の悪あがきで倒される可能性だってある。

 だから、きちんと逃げる。


「よしっ」

『チュッ』

 そうして二度の投擲によってHPが削れていた光る花の方のプレイヤーがまずは力尽き、続けて荒地の方のプレイヤーが力尽きた。


≪バトルロイヤルに勝利しました! タル様。予選突破おめでとうございます!≫

 同時に私の勝利を告げるメッセージとファンファーレが流れ……


「ふうっ、随分ときつかったわね」

 私は軽く息を吐き出し、木の幹に体を預けたところで予選マップから送還された。

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